2024/03/08/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

白衣のバックパッカー放浪記 vol.3/マカオ編①

入境、フェリー

香港での滞在を終え、次の都市マカオに向かった。移動手段はバスかフェリー。調べると後者がメジャーなようで、フェリーで入境してみたいと思う気持ちが出てきたこともあり乗船を決めた。マカオは大きく2つのパートに分かれているらしい。1つは大陸続きの「マカオ半島」、もう1つは島となっており、元々はコロアン島とタイパ島の2つの島だったのだが2つの島の間が埋め立てられて「コタイ」という場所になっているようだ。私の行き先は半島側で、香港島の上環駅にある信徳中心(Shun Tak Centre)からフェリーに乗るらしかった。初めて飛行機以外での入境、ブログやYoutubeで予習してどの手順で行くかを何となく頭に入れ、「後はとりあえず何とかなるやろ」という感じで地下鉄で移動し、上環駅へ向かった。信徳中心に着くと3階にチケット売り場があるとのことだったが、エスカレーターが修理中とのことで登る手段がない。その辺にいた施設職員に聞いても「エスカレーターに乗れ」としか言われない。目の前に見えるエレベーターは人だかり。教えてくれたことに感謝しつつも私はエレベーターに向かった。

3階に到着すると、分かりやすい位置にチケット売り場があった。列に並ぼうとすると浅黒な男性がお金とチケットを束にして持っていた。「こっちの方が安いから、並ばなくていいし私からチケットを買わないか?」とのこと。日本だとあまり見ない光景だ。当然列に並んだが、せっかちな国民性に供給が合致しているのかもなと思った。意外にも食い下がってこないため、利益がすごくでる商売ではないのだろうと思いながら列に並び、チケットを購入しようとすると「ここじゃなくて、あっちに行け」とチケットカウンターの店員に突き放された。実はフェリーは2種類あり、赤いターボジェット、青いコタイ・ウォータージェットが運行していた。青い方は名前の通りコタイに向かうものらしいが、私はそれを知らずにチケット売り場に着いたことが嬉しくてそちらに並んでしまっていたらしい。結果、私が一番せっかちだったようだ。

チケット売り場を正面に見て左に真っ直ぐ行ったところに、今度は赤いゾーンが見えてきた。「なるほど、こっちね」という感じで、カウンターまで辿り着くと「次の出発は12時です」とのこと。今が9時50分だからだいぶ待つが、他の選択肢もなくその便の予約をした。フェリー乗り場には出国ゲートなるものがあり、そこで出国手続きをした。パスポートも見ているのかどうかわからない感じであっさりとゲートを潜ると、簡素な免税店と船着場がある下の階へとつながるエスカレーターが腰をすえていた。

だいぶ時間はあるものの、何かできるわけでもないなという感じでただ黙って私はプラスチックの赤い椅子にだらっと腰掛け、ただただ時間のなかを揺蕩っていた。一体今日は何曜日だろうか。カレンダーを見ると月曜日、今までなら会議をして外勤に行く日だなぁと、外勤先のスタッフの顔が少し頭の中に浮かぶ。出発までの時間に縛られながら、社会的な時間に縛られない休暇でもない自分の時間の中で彷徨っている。同じ時刻を生きているはずなのにどんな選択をするかで時間そのもの性質が変わることを実感していると、不意に運行会社のスタッフが「11時の便空いてるから、それに乗れ」とのこと。ラッキー!特に急いでいるわけではなかったが、マカオでの滞在は2日と短く、早くいけばそれだけマカオでの時間が楽しめるので1時間早まるだけでもとても嬉しかった。意気揚々と船に乗り込むとほぼ満席で、どこに座ったらいいか戸惑っていると「こっち、こっち」と案内され、訳もわからず最前列に座ることになった。定刻になり船が動き出し、10分くらい経つと急に加速し機体前方が上に傾き、波を切り始めた。船酔いする方ではないけれど高い波にぶつかって船体が上下するとやはり酔うんじゃないかと不安になる。上下を繰り返しているとそれが気持ちよかったのか、いつの間にか眠ってしまっていた。船内アナウンスが流れ、目が覚めるとどうやら数分でマカオらしい。入国審査では顔を隈なく見られ(7年前のパスポートで顔が全然違うため)、ランディングスリップと呼ばれる入国情報が印字されたレシートのようなものを渡される。何一つ確信が持ちきれない中で私はマカオに降り立った。

マカオのフェリー乗り場

ホテルのありがたみ

マカオはとても寒かった。気温は香港と同じ19℃なのに曇っているからだろうか。私が厚着できそうなものといえば、ユニクロのウルトラライトダウンジャケットと雨が凌げる登山用パーカーくらいで慌ててバッグから取り出して袖を通した。宿を取るべく携帯で検索すると、マカオにはホステルやドミトリーがなさそうであった。空いているホテルを見てみると最低料金が1万円でその他は外資の有名どころが多かった。少し貧乏くさいけど、ホテルは何となく避けたかった。というのもこれから世界を回ろうとしているのだからできるだけお金を使いたくないなぁと漠然と思っていたからだ。普通は日にちと予算が決まっているだろうからその中から選択できるが、何せ放浪したいのだから先々の予定など決めたくはなかった。「この寒さで宿がないよりはいいか、どうせ1泊2日なのでホテルでもいいか」と思い、私はホテルロイヤルマカオに泊まることにした。

フェリー乗り場からホテルまでは徒歩で30分ほどだったが、10分後に専用のシャトルバスが来るとネットで情報を入手したのでシャトルバスの発着場へ向かうと、カジノホテルへ向かうバスがたくさん並んでいた。あそこはきっといいホテルなのだろう。そんなことを思いながらバスを待っていたが時間になっても全く来なかった。少し不安になり、近くの人に聞いてみると携帯の情報が示すポイントから5メートルくらいズレたところで待てとのことだった。流石にこの距離でバスを見逃す訳があるまいとは思ったが、次のバスまでは30分だった。ただ検索で出てきたポイントとはズレている。よくみると道を挟んで反対側にも見える。

もはや歩いた方が早かったのではと言う気持ちを押し込み気長に待つことにした。しかし30分経ってもバスは来なかった。周りのスタッフが心配して調べてくれたらしく、次のバスが来るのはもう30分後とのことだった。何が本当の情報か分からない。ただサンクコストなのか今から歩くのはもったいない気持ちが強まり、待ち切ってみることにした。そう決めて私はひたすらバスを待っていると車体に「ホテルロイヤルマカオ」と書かれたバスが乗客を乗せて近づいてきた。

「うわ、やっぱ乗り場違った!?」

私はめちゃくちゃ手を振ってアピールをする。中の運転手があしらうように「違う違う、お前は乗れない」と手を振る。「路線バスの客だと勘違いしているかもしれない。こんなに待ったのに!?」もはやフェリーに早く乗った時間など消化してしまっていた。まるで試験に落ちた時のような気持ちで深呼吸しているとさっきのバスが戻ってきた。どうやら乗客を降ろしてきたらしい。今度は補欠合格で受かったような気持ちでバスに乗り込む。私以外の客は2組しかおらず、マカオに来る人たちは須らくギャンブラーだろうから安めの宿には泊まらないのかもしれないと意味不明な予想を立てながらホテルへ向かうと、ものの10分くらいで到着した。先ほどの予想は全く外れていてロビーは人で溢れかえっていた。みんなどこから来たん?と言う感じで受付するまでにこれまた20分くらいかかった。チェックインを済ませて部屋に入ると久々の個室と大きなベッドがそこにはあった。ホテルってこんなによかったっけ??バストイレが1人1つあるって素晴らしい(香港のドミトリーは宿泊者8人に対してバスシャワー1つであった)。今までの当たり前が当たり前でなかったことに気が付く。シャワーの水圧が高いことが嬉しくって後輩にもらったランドリーバックを使って3回も洗濯をした。とても捗った。ホテルってありがたい。ありがたさはいつも、なくなってから気づくものだ。

ホテル周辺の街並み

食が広州で待っている

身支度を整えて翌日からマカオを旅立ち広州へ向かう予定であった。普段であれば分からないことがあれば、携帯ですぐに調べる。行き先も言葉もすべて携帯を使ってすぐに必要な情報を得ることができる。しかし、中国ではまず普段使っているgoogleが使えない。マカオから広州の宿までの行き方をgoogle mapで調べても電車での経路が出てこなかった。そこで中国で使われている百度(バイドゥ)という検索エンジンを使うのだが、今度は中国語を携帯で打ち込めない。そもそも中国語での発音が分からないから英語で打つこともできないしアルファベット入力しても漢字変換することができないのだ。調べると手書きパッドなるものをキーボードの設定で選択できて、そこに見真似で書き込み、表示された文字を選択する。これを1文字ずつやるのだから、行き先を打つだけでも一苦労だ。慣れるほどいじってはいないが不自由さからは抜け出せない。それでも広州までの行き方を叩き込む。マカオから国境を越えて珠海(チュハイ)へ行き、そこから高速鉄道で広州へ入り、広州で2泊する。そこから陸路で南寧(ナンニン)という中国西部の街にいき、電車かバスでベトナムに入るイメージであった。

食は広州にありという言葉があるように広州は広東料理の総本山のような場所で、香港のドミトリーにいた人達、皆が口を揃えて「ご飯が美味いよ!」と言うのであった。美味しい食事が待っていると聞くと行かない訳にはいかない。人間は旅と恋と美味しいご飯で構成されていると思っているからだ。

翌日、ホテルからシャトルバスで国境へ向かう。着くとそこには關閘(ボーダーゲート)と書かれた大きな建物があった。初めての陸続きの国境、マカオへはフェリーだったが今度は足で跨ぐ。中国語が目立つ。そのことが私の不安を煽る。私はこれから生まれて初めての経験をする。マカオの出国はスムーズに終わり、そのまま中国の入り口である珠海の入国審査場まで人並みに乗りながらふわふわと歩いた。途中で為替があったので、香港ドルとマカオパタカを全て人民元に変え、さらに10分くらい歩くと中国への入国審査場が見えてきた。

マカオと中国の国境

イミグレーションの審査に並ぶ。私は当然vistorの列だ。陳列に身を任せていると3つ前に並んでいる欧米人とアジア人のカップルが通過できずにいた。警備員のような人に連行され、列から外れていった。いざ私の番になる。入国審査用紙とでもいうのだろうか、入国の際に記載した紙を審査員が目で上から読み上げるとカタコトっぽい英語で一言

「ノーエンター、ユーキャノット (君は入国できない)」

んっ!?

続く)
次回もマカオ編です。更新は3月22日(金)12時予定です。


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