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2021/05/26/水

コラム

スランプとは何か?脱出するには?

仕事や生活、人間関係の中でスランプに陥ったことがある方は多いと思います。

人事ブログのテーマを捻りだすのが大変なときに部署内で書いてほしいテーマを尋ねますが、先日「スランプ」について書いてほしいとリクエストを貰いました。「なぜスランプがテーマ?」「何か悩みがあるのか?」と頭をよぎりましたが、聞くのも怖いのでお題だけ頂戴しました(^^;)。

【スランプとは?】
スランプと聞いて頭に浮かぶのはバッターが急に打てなくなることです。その語源は「急に落ちる」という意味の英単語で、いままでできていたことが突然できなくなることです。

一般的な例を考えると、
・順調だった営業成績が振るわなくなる
・プロジェクトで成果が出せなくなる
・人間関係が急に上手くいかなくなる
といったことなどでしょうか。

私もこれまで30余年の仕事生活のなかで、何度かスランプを経験しています。マッキンゼーで、プロジェクトの中でいつもと同じように調査、分析、検討を行っているのになかなか良いアウトプットが出なくなったことや、
前職でもクライアントと社員100人以上の社運がかかったプロジェクトを任され、必死に取り組むうちに自分の生活や行動を上手くコントロールできなくなり、体調もメンタルヘルスも悪化して成果を出せなくなった経験もあります。

どれも最初はなぜそうなるのかがよく分かりませんでした。
何も考えなくても自然と成果を出せていたことが急にできなくなる。そして、原因が分からない、といった状態をスランプと呼ぶのだと理解しています。

【スランプはなぜ起こるのか?】
原因が分からないといっても、本人が分からないだけで、原因は必ずあるはずです。スランプの原因を考えるために、まず成果を出すための要因と、成果を出せる状態について考えてみます。

成果が出るかどうかは、自分の要因と自分以外との相対的な関連によって決まってきます。

・自分の要因は、
- 意図した内容で行動出来ているか。
- 想定したレベルで行動出来ているか。
など。
これを
パフォーマンス要因
と呼ぶことにします。

・自分以外との相対的な関連は、
- 相手のほうが上回っているか。
- 環境、状況に適応しているか。
- 求められる基準を上回っているか。
など。
これを外部的事項との相対的兼ね合いという意味で、
相対要因
と呼ぶことにします。

成果が出ている状態は、パフォーマンス要因が想定通りであり、相対要因にも問題がない状態であると考えられます。
成果が出なくなるのは、その状態が崩れたときであり、単純に場合分けすると、行動やパフォーマンスレベルがおかしくなっている場合=パフォーマンス要因が問題である場合、外部的事項の変化により、同じパフォーマンス要因では対応できなくなっている場合、つまり相対要因に問題がある場合に大別できると思われます。

さらに、「なぜ成果が出せない?」と思い悩み始め、悩みが原因でパフォーマンス要因が落ち込み、さらに成果が出せなくなり、「自分のやり方は今の世の中に通用しない?」「競争相手が知らないうちに大きな発見して優位に立っている?」といった思いもよぎり、相対要因も把握できなくなり、自信がなくなることで余計にパフォーマンス要因が落ち込み、、、と悪循環してしまう状態も有ります。このような状態はスランプの中でも重度なものであると思われます。

まとめると、
パターン1:パフォーマンス要因に問題がある
パターン2:相対要因に問題がある
パターン3:悪循環していて両方とも問題がある
となります。

【スランプへの対処方法】
(1)パターンの把握
何事も同じですが、対処するためにはまず現状把握です。
スランプの場合にも、自分が陥っているのは、どのパターンかを見極めることが重要です。

まずやるべきは、単純ですが落ち着いて「自分はどのパターンだろう?」と考えてみることです。人は案外自分の状態を落ち着いて分析してみることがないので、これだけでも少し視界が広がるチャンスは充分あります。

考えるだけで分からない場合は、客観指標を用いて評価することも有効だと思います。特にパフォーマンス要因が問題かどうかを判定する場合に有効です。わかりやすい例で言えば、スポーツで勝てなくなったときに、自分のパフォーマンスを数字で比較すれば、自分のレベルダウンが原因か、相手がレベルアップしていることが原因かを判別できます。
多くの物事はもっと測りづらいでしょうが、出来る限り客観的な指標に落として比較する可能性を探るべきだと思います。

完全に指標化が出来ないとしても、同じ状況と思える複数の場合での自分のパフォーマンスを比較してみるとか、自分以外の誰かの評価を聞いてみるなどによって、ある程度はパフォーマンス要因を判定することが可能だと思います。

相対要因については、なかなか指標に落とし込むのは難しいでしょうが、達成目標と自分のパフォーマンスの比較ができるような場合には有効です。外部的事項は複雑で定性的なものが多いと思いますが、まずはそこに何か変化があったのか?と問いを発することが大事です。これも、問いを発したからと言って簡単にわかるとは限りませんが、まずは問うこと、そして情報収集、状況把握に努めることで、必ず何かが分かってくるはずです。パフォーマンス要因と同様に、自分では難しい場合には、誰かの助けを借りることも考えましょう。

パフォーマンス要因、相対要因の両方が問題のように見えるけど、どちらも明確には分からない場合は、悪循環がすでに始まっている可能性が高いと思われます。

(2)原因の把握
どのパターンか判別できたとして、それぞれの問題を考えてみると、主に以下のような場合に分類できます。

・パフォーマンス要因
- 体調が落ちている
- フィジカル面で特定のどこかに支障がある
- メンタル面に問題がある(意欲、積極性、自信を失っているなど)

・相対要因
- 役割の変化(役割が変わり、求められるタスクが変わる)
- 周りのレベルアップ(成果のために高いパフォーマンスが必要となる)
- 未知のケース(時間の経過とともに対応できないケースに遭遇する)
- 環境の変化(市場環境、顧客ニーズ等が変化し成功要因が変わる)

経験を振り返ってみれば、コンサルティングにおいて自分一人分の仕事が出来ればよかった段階から、クライアントを含めて複数のメンバーをリードしてチームで成果を出す役割が求められていたことを充分に意識できず対応できなかったことが、スランプの原因だったと思います。

また、良いアウトプットを出すために必要な思考力、集中力が、体調を崩すことで発揮できなかったこともあります。明らかに体調不良、というようなことでもなく、自分でも気付きにくいような微妙な不調のほうが厄介だった記憶があります。

上のような分類は、仕事やスポーツに限った話に聞こえるかもしれませんが、プライベートでの家族関係、友人関係にも同じことは当てはまると思います。家族内であっても、子供が生まれることで役割が変わったり、長い時間の経過とともに相手が求める役割、相手との関係が変化したり、といったことはよくあるでしょうし、年齢の経過とともに以前と同じことができなくなることも必ず出てきます。

また、分析、思考といった頭脳的な活動に関して問題があるときに、実は身体的なコンディションが影響していることが多いと感じています。頭脳面に身体面が影響していると想像できず、原因が分からないスランプ状態に陥ることはありがちだと思うので、細かいポイントかもしれませんが、重要だと思うので指摘しておきます。

(3)原因へのアプローチと解決
大きくパターンを把握したあとに、上記のように個別の原因を推定することで、より的確な対応が可能となります。

もっとも単純な例を挙げると、相対要因は変化していないのに、自分のパフォーマンスに問題があって成果が出ていない状況だと気付くことができれば、パフォーマンスを上げることに集中すれば良いということです。

問題が相対要因であった場合には複雑ですが、相対要因を理解した後には結局それに対応しなくてはならず、そのためにはパフォーマンスをさらに上げる、違った対応が出来るようにする必要があります。

相対要因への対応は多岐に渡り、ここで言い尽くすことはできませんが、以下に私が重要だと思っている視点を上げておきたいと思います。

相対要因の変化に対応しなければならないとき、対応は大きく以下の2つに分けられると考えます。
・横のアプローチ
・縦のアプローチ
言葉は、私の頭の中にある感覚なので、少し説明したいと思います。

例えば、未知のパターンに遭遇して対応できなかったときに、誰かに教えてもらうなり、ネットで調べることで、新たなパターンを得て、対応のレパートリーを増やすことが出来たとします。
そして、次に未知のパターンに出会ったとき、また新しい対応のレパートリーを増やす、、、とどんどん横に幅を広げていくような対応を「横のアプローチ」と呼びます。

一つのことのパフォーマンスを上げるために、もっと練習量を増やす、もっとトレーニングの負荷を上げる、といった「もっと〇〇」という対応方法も、横に厚みを広げていくようなイメージで横のアプローチと捉えています。

縦のアプローチですが、例えば、ある分野で多くのパターンが出現して、対応しなければならないときに、まず「多くのパターンが出現してくるメカニズムは?」と原理に近付くことを考えることなどを垂直方向の対応と考えています。より深く掘り下げるというイメージです。原理が分かると予測が出来るかもしれないですし、対応方法もより原理にアプローチすることで、一つずつ別のアプローチを使い分けなくても良いかもしれません。

人間の対応力を、機械の設計に例えると、今より多くの機能を発揮しなければならないときに、新たな機能を付け加えていくのではなくて、まったく新しい原理の機械を設計することで解決できるかもしれません。これも縦のアプローチだと思っています。

また、同じ縦方向でも掘り下げるのと逆のイメージで、上の方向に向かうことで、より俯瞰的な視点から物を見るアプローチも有り得ます。狭い範囲の現象と思っていたものが、関係ないと思っていた隣の分野と一体で見ることで、新たな視点を得られる場合があります。

会社・事業に例えると、鉄道会社が事業不振に陥ったようなときに、鉄道事業の改善を考えるよりも、沿線の価値をトータルで捉えて上げていく発想もあるでしょうし、広く輸送という視点から事業を定義することで新しい発想が生まれる可能性もあります。

横と縦のアプローチは、どちらも必要ですが可能であれば縦のアプローチの方がより好ましいと思います。本質的な解決につながると考えるからです。しかし、いつも原理に則した解決や、俯瞰的な視点からの解決ができるとは限らないので、横のアプローチも必須であると理解しています。

いずれにしても、大きなパターンを見極めて、原因を把握して対処することで解決に向かうことを目指します。

パターン分けのなかで、両要因が悪循環している場合、パフォーマンス要因と相対要因の両方へのアプローチが必要ではありますが、両方へ同時にアプローチするのは難しいのであまりお勧めできません。

経験則では、まずパフォーマンス要因を改善することを優先したほうが良い場合が多いと思います。もちろん相対要因にも問題があるので、パフォーマンス要因を戻しただけでは多くの成果は望めないかもしれませんが、 ある程度は成果に目をつぶりつつ、 まずは前と同じことが出来るようになり、次に相対要因に取り掛かるほうが良いと思っています。

相対要因があまりに大きく変化している場合には、パフォーマンス要因を改善しただけではまったく成果が出ないはずなので、同時並行でアプローチする必要があるでしょう。この場合も、重要なことはどちらの要因に、どの対処をしているかを区別して、ごちゃ混ぜにしないことです。ごちゃ混ぜにしてしまうと、何が悪いか分からないカオス状態、悪循環に逆戻りする危険があります。

【どんな場合でもとても重要なこと】
スランプのパターン分けや原因へのアプローチについて述べましたが、どんな場合にも共通して重要なことがあります。
それは焦らないことです。

スランプから早く脱出できたら良いに決まっているのですが、そう思うあまり、スランプのパターン分類や原因特定の途中で、焦ったり諦めたりしては、逆戻りしてしまいます。原因への対応途中についても当然そうです。まだ成果が出る段階ではないのに、成果を求めてしまうと中途半端な段階で逆戻りしてさらに悪化してしまいかねません。

どうすれば良いでしょうか?
まず一つは、スランプからの脱出を目指すときに、時間を基準にするのではなく、プロセスのどの段階にいるかを基準にして考えるということです。

焦りは、スランプから早く脱出して低迷した分まで取り返そうと考えることから生じる場合が多いと思いますが、低迷はすでに起こってしまったことなので、その分は一旦あきらめ、「損切り」して新たにスタートする感覚の方が焦りを避けられます。

仕事上で成果を求められる場合など、個人の気持ちの持ちようだけでは「焦らない」を果たせないこともあると思いますが、その場合は上司に相談するなどして、時間的な猶予を確保することをお勧めします。プライベートなことについても、自分だけで悩むより、当事者と話し合うといったことが有効な場合は多いと思います。

いずれにしても焦ることで事態を悪化させることが多いと思いますので充分気を付けたいものです。

【スランプ脱出の実例】
ここまでで言いたいことはほぼ書き終えましたが、最後に一つ実例を挙げたいと思います。冒頭に少し野球のことを書きましたが、私が最初にスランプという言葉を知ったのは、ジャイアンツの王貞治選手がスランプになりホームランを打てなくなったときのことです。

最近の方にとって王さんといえば侍ジャパンWBCの優勝監督?ソフトバンクの終身監督?そんな感じかもしれませんが、私にとっては「ジャイアンツの王選手」です。
それまで8年連続の打率3割越え、ホームラン王も何度も取っていた彼は1972年のシーズン序盤戦に深刻なスランプに陥りました。

当時は打率3割、ホームラン40本が最低限の“ノルマ”となっており、その重圧でバッティングについてあれこれと考え始めたことが原因のようです。

当時の長嶋選手の解説では「ワンちゃん(王選手)のバッティングは機械で言えば人間が手を加えて作り上げた精密機械。自分の場合は自然とやっているから多少どこかに狂いがあっても、あまり全体には響かない。ワンちゃんは一つでも部品に狂いがあっても、全体がおかしくなっちゃう。」ということだそうです。

スランプを見た川上哲治監督から「王、どうせ打てんのなら思い切り振ってみろ」とアドバイスを受け、その日に2本ホームランを打ちスランプを脱け出すきっかけとなったそうです。それについて本人のコメントが残っています。
「あれで本当に踏ん切りがついた。8年前53号の日本記録をつくったころは、来た球を無心にひっぱたいていた。それで面白いように打てた。あれでいいんだ、ということですよ」

また、生活習慣を変えて朝9時に起きていたのを11時にしたことも語っています。「早く起きすぎると、考える時間というのが多すぎる。野球選手は理屈を考えだしたらダメ」

練習量も増やしました。「結局、その壁を破るきっかけとなったのは練習量でした。世間では日本式の練習至上主義を笑い、休養が一番だと勧める声もあった。それは理想に違いないけど、現場で苦しんでいるものの気持ちを考えていない。」という言葉も残っています。正しい理屈より、もがくなかで何かを掴むこともあるでしょうし、極端に練習量を増やすことであれこれ考えられなくなる、という面も有りそうです。

ネットで検索すると、柴田選手とネオン街へ気晴らしに行ったことが良かった、という話も出てきました。

この一連エピソードを並べてみて、川上監督、長嶋選手、柴田選手などの逸話にそれぞれのキャラクターが滲み出ていて、プロ野球が世の中のど真ん中にあった世代の私にとってはたまらなく面白いと感じます。

長くなりましたが、王選手の場合はスランプのパターンとしては、パフォーマンス要因に問題があり、原因としては、プレッシャーからあれこれ考えて、無意識にできていたことが狂い始めたことだと思われます。

対処方法としては、考えずに無意識に動く精密機械のようなバッティングを取り戻すこと。具体的な方法は、
・思い切り振る(意識の切り替え)
・睡眠時間を増やす(考える時間を減らす)
・練習量を増やす(もがくことできっかけを得る、行動により思考を止める)
・ネオン街での気晴らし(メンタルの切り替え)
といったことが挙げられます。

【蛇足?】
この実例を紹介しているなかで、ふと「スランプ未満」という言葉が頭に浮かびました。バッティングを極め、精密機械となった王選手の場合はスランプという概念が当てはまりますが、我々凡人は、そこまで極めておらず多くの場合はスランプですらない、スランプ未満なのではないか?ということです。

スランプじゃなくて、いま何かを作り上げている途中ということで、出来なくても当たり前。できない状態でも、安心して(?)取り組めばいいじゃないか。どちらにしても、やることはここまで述べたプロセスなのかもしれないですが、自分はスランプなんかじゃない、スランプ未満と開き直ってやるほうが焦らなくてすむと思います。

ちなみに、スランプ未満ということで言えば、王選手が精密機械になる前のエピソードで私がとても気に入っているものがあります。一本足打法をものにして最初のホームラン王になったあとのシーズンオフに若き王さんが慢心した、という話で、のちに荒川コーチはインタビューで「王のヤツ、サボりやがって、また打てなくなった」と語っていたと記憶しています。

気に入っている理由は、世界の王ですら若い時にはそんなことがあったと思うとホッとするからです。完成した姿だけを見ると、世界一ストイックで世界一ホームランを打ったことしか思い浮かびませんが、実は様々な紆余曲折があったうえで完成されたのだ、ということです。

王さんですらそうなんだから、我々レベルは、ちょっとくらい上手くいかないことがあっても、クヨクヨしている場合じゃない。出来なくて当たり前。出来なくても、自分なりに少しでも前に進むしかない、今はレベルアップしている最中なんだと前向きに開き直れると思います。また、スランプでもスランプ未満でも、壁に当たったと感じるということは、それだけ真面目に取り組み続けているということです。途中でやめてしまった人には無いことですから、そのことに胸を張って良いと思います。

自分は常にスランプ未満、発展途上。スランプなんて高尚なことは100年早い、と思うことがスランプに対する最大の対処かもしれませんね。(岩崎克治)

筆者プロフィール
岩崎克治 Katsuji Iwasaki 株式会社メディヴァ取締役
大阪大学大学院 情報工学分野 修士課程修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て、1997年に(株)インクス入社。ITによる高速金型事業の立上げ、クライアント企業の製品開発プロセス改革等に従事。2002年メディヴァに参画。

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