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2024/01/22/月

寄稿:メディヴァの歴史

無人島に街をつくれ ー 先駆者列伝18:適切な運動で機能を保つ

平日の午後2時過ぎ、80歳代の8人が椅子に腰かけた。機能訓練指導員としての経験を積んだ看護師のリードで準備体操が始まる。手足を回したり、体を屈伸したり。座っての軽い運動とはいえ、一緒に体を動かして15分もすると全身が温まり、汗ばんできた。

ぽじえじステーション西小山を訪問した。ポジティブ・エイジングを略して「ぽじえじ」。いつもながら、メディヴァは4文字の愛称が大好きなようである。

準備体操の後は、個別の機能訓練プログラムだ。マシンやボールなどを使い、それぞれの体力や障害に合わせたトレーニングが休憩を挟みながら2時間ほど続く。正月明けのこの日は5人が休んだそうだが、指導員とのやり取りが弾み、なかなかの活気だった。

ぽじえじ事業は14年目に入った。理学療法士の資格を持つ社員が介護の世界を変えようと発案した社内ベンチャーとして始まった。当時は介護認定を受けた高齢者を一日預かり、風呂や食事を提供するデイサービスが主流だったが、機能訓練に特化したプログラムで身体能力の低下を防ぎ、さらには改善させようというのだ。

年を取れば徐々に足腰が弱まり、日々の動作や歩行が難しくなる。それでも適切な運動を続けると、老化のスピードは抑えられるし、何より「できるだけ自立して暮らしたい」という当人の希望を叶えることにつながる。前向きな加齢という目標を掲げ、ぽじえじと命名した経緯がある。

西小山のステーションは2012年に開設され、間もなく満12年となる。5人のスタッフとともに、延べ100人ほどの利用者と向き合っている施設長の黒﨑祐介さんは、開設直後から西小山で働いている。当時から通い続けてくれる利用者が10人ほどいるのが誇りだ。

収益も出ているし、利用者の評判はいい。1年間デイサービスに通った利用者の状態では、要介護度が改善した人は16%(全国平均9%)、重症化は12%(同30%)という実績がある。デイサービスでは、地域コミュニティとのつながりを保ってきて社交性のある女性に比べて、男性の参加が少ない傾向が強いが、ここでは男女半々である。マシンを使った機能回復という目標が評価されているようで、訪問した際も半数は男性だった。

現在、ぽじえじステーションは世田谷区を中心に6カ所展開している。ただ、この事業をさらに拡大するには、いくつもの壁を乗り越えないとならない。

介護保険の枠内での事業であり、主な利用者は要支援と要介護1、2の認定者となる。通所して運動ができる人が対象となるためだ。ただ、こうした層については、保険財政の悪化でサービス内容が見直される傾向にあり、すでに要支援は自治体の事業に移されている。今年は見送られたものの、要介護1と2についても同じように移行させる構想がある。自治体の懐具合によっては、軽度の認定者へのサービスの点数(単価)が抑えられかねない。そうなれば、施設の経営にも大きな影響が出るだろう。

さらに機能回復にも目配りしたデイサービスを始めるライバルが増えている。ぽじえじが切り開いた領域であっても、成果が上がれば追随者が出るのは避けられない。食事や入浴サービスを伴わないことからフロアも小さくて済み、参入しやすい面もあるだろう。

いま黒﨑施設長は営業活動に忙しい。相手先は周辺地域のケアマネジャーだ。要支援・要介護の認定を受けた高齢者やその家族からの相談を受け、介護サービスの給付計画を作る専門家たちである。ぽじえじ利用を計画に盛り込んでもらいたいが、施設や事業所に所属するケアマネの中には、自社のサービスを優先する人もいる。ぽじえじの良さがなかなか伝わらないもどかしさがあり、収益面でコロナ前の水準に戻したものの気は抜けない。

とはいえ、これまでの蓄積が新たな街づくりにつながる期待は小さくない。

年明け早々、メディヴァに中央アジアのウズベキスタンからメールが飛び込んだ。案件名は〈パートナーシップ〉。「自国にはデイケアセンターがないが、今後を考えればニーズはあるはず。提携できないか」という内容である。メディヴァのサイトをみて、関心を持ったとしていた。

すでに中国・天津の開発業者にノウハウを提供し、7年前に中国版ぽじえじ「普済艾継」が店開きしている。中国には介護保険がないうえ、施設の周辺には高齢者が少ない。さらに新型コロナの影響もあって運営は楽でないようだ。とはいえ、アジアの国々でも高齢化はじわじわと進んでいる。今のところ、日本ほど深刻ではないにしても、将来を考えれば避けて通れない難題である。ウズベキスタンからのメールは、海外事業にも意欲を見せるメディヴァの将来性を示している。

ぽじえじは、メディヴァの子会社シーズワンが運営してきた。去年からシーズワンには、コミュニティホスピタル事業も加わっている。医療と介護という隣り合った領域を一体でみる医療拠点が生まれれば地域の再生にもつながる。10年以上にわたって介護事業を現場で手掛けてきたメンバーがいることは極めて心強い。

見学した西小山ステーションのコースは3時間ほど続き、体力測定やトレーニングの合間に参加者が見せる笑顔が印象的だった。体を動かすことの効用に加え、コミュニティとしての役割も果たしている。週末に青葉アーバンクリニックの管理栄養士を招き、栄養や食事を学ぶイベントを開催すると、多くの人々が集まったという。地域に開かれたデイサービスという新たなコンセプトの実験である。

介護事業部の青木朋美マネージャーは「コロナ前はそれぞれの施設がバスツアーも企画していた。花見に行ってランチを食べて戻ってくるだけでも、とても喜んでもらえた」と振り返る。復活を楽しみにしている利用者は少なくないそうだ。

政府は後期高齢者の健康を維持し、積極的に社会活動に参加するアクティブシニアを増やすことに力を入れている。高齢者当人にとって健康寿命が極めて重要なのは言うまでもないが、医療介護財政をこれ以上悪化させないうえでも欠かせない。そこには患者視点の医療改革を掲げ、次々と新たな領域を広げて来たメディヴァの出番もありそうだ。ぽじえじの取り組みが、今後どんな化学反応を「無人島」で起こすのか。興味は尽きない。