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人事ブログ

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2023/11/20/月

寄稿:メディヴァの歴史

無人島に街をつくれ ー 先駆者列伝14:DX化生かし、健康経営を後押し

メディヴァの歩みを後押ししてくれる風は、いろんな方角から吹いてくる。近年、勢いが強まっているのが「健康経営」だ。

今や会社が働く人々の心身の充実を重視するのは常識で、「個人の責任」と言い放つ経営者は絶滅危惧種である。それどころか健康への戦略的な投資は、従業員の活力を引き出して生産性が高まり、医療コストの削減や業績の向上につながるとされる。さらに良質の人材が集まるリクルート効果や企業イメージの向上も期待でき、理屈の上ではいいとこづくめだ。「失われた30年」からの脱却を目指す政府も、未来投資戦略に掲げる「国民の健康寿命の延伸」に直結する取り組みとして推進に余念がない。

では実際の現場はどうだろうか。きれいごとばかり言っていられない現実が広がる。大会社でも全国の支社や事業所までは行き届かず、中小企業となればさらに厳しい。従業員の健康管理、生産性の向上が重要であることは十分理解しつつも、「何をどのようにしたらいいのか」「産業医や保健師を雇ったとしてもうまく活用できない」「どうマネジメントしたらいいのか」といった疑問を抱え込みがちだ。

ならば、困りごとをかかえた会社に知恵と力を貸しましょう。旧来の医療の殻から飛び出し、新たな領域を築き上げてきたメディヴァの面々なら当然の発想だろう。いま、世田谷・若林のビルにオフィスを構える保健事業部は、働く人々の健康づくりを支える拠点となっている。そこに産業保健チームと健保チームが入っている。

永尾嘉康シニアマネージャー、医師でもある澤井潤マネージャー、小西飛鳥マネージャーが率いる産業保健チームは、直接の治療ではなく、会社に代わって健康管理の役割を引き受けるのが主な仕事だ。専門の組織を会社に立ち上げたうえ、専門職を選任して内部から運営を支援している。従業員からこころと身体の健康についての相談を受けたり、オンラインで健康指導をしたり。現在の契約先は50社ほどに増えた。永尾さんが一からスタートさせたのは2015年4月。スタッフは保健師さんが1人いるだけだった。9年目を迎え、ここにも大きな街が生まれつつある。

臨床心理士として精神科病院に勤めた後、全国に300店舗、15000人が働くレジャー産業で人事制度や労務部門を担当し、健康管理室を立ち上げた永尾さんは、産業保健が抱える社会課題の解決、さらには医療と結びつけて展開するメディヴァの取り組みに関心を持ち転職してきた。

これまでにない分野を切り開くとあって手探りが続いた。健康経営を支援するために、どのようなコンセプトで事業を展開したらいいか。コンサル業務の一環として業務フローを見直すところから携わるという戦略はいいが、ではいくらで契約するのか。新事業の成否につながる課題が少なくなかった。

なかなか契約が伸びないなかで分かったのは、会社トップの理解が重要だということであった。社員が健康を損ねることの深刻さを体験した社長は真剣に話を聞いてくれる。現職の部下を亡くした、メンタルヘルスをめぐる労務裁判で訴えられた、地方の出先の健康管理が不十分なことを労組に突き上げられた――そんな経験のある経営者は従業員の健康管理の重要性を認識しており、当方からの提案への納得感が高かった。

とにかく、「メディヴァの産業保健」を世の中に広めるために飛び回り、気づけば半年くらい用賀の本社に戻ることがなかったが、メディヴァの他のビジネスで関わりのあった会社からの紹介もあり、次第に顧客が増えていったという。それから9年近く。その間この分野の市場の移り変わりは激しく、世の中の働き方は大きく変化した。

データ化やオンライン化など、健康管理の分野でも「DX化」が進むなか、去年7月、満を持してスタートさせたのが、シェア型オンライン健康管理室「WellaboSWP」である。中小企業はもちろんのこと、大企業でも目が届かない職場は少なくない。そこをオンラインの力を活用してカバーするサービスだ。これまでの保健師が契約先に常駐する支援業務もそのまま続けるが、期待の新戦力が加わった。

大迷惑だったコロナ禍は大きな置き土産を残した。オンラインによる仕事が浸透したことだ。在宅勤務も当たり前になっている。これまでならテレビ会議など限られた会社しか使わなかったが、この3年ほどで社会は変わった。場所や時刻を問わないサービスが受け入れられる素地は着実に広がっている。

WellaboSWPには三つの柱がある。健康管理室サービス、健康づくりサービス、健康管理システムである。社員一人ひとりの健診データの管理も従業員への連絡も人減らしの進む組織では大きな負担となっている。ここに目を付けたのが健康管理システムで、用紙に記録された健診結果のデータ化も引き受ける。これまで契約先ごとの工夫で培ってきたノウハウを一つに集めたと永尾さんは説明する。

契約先の企業はサービス全部でも一部でも選べる。産業保健チームが当初ターゲットにしたのは、産業医の訪問が法律では義務付けられていない従業員50人未満の会社。どうしても従業員の健康管理は後回しになりがちだからだ。そうした会社にはフルパッケージで従業員1人当たり月1000円という料金は手頃だろう。「そんなに安いのか」という反応に手ごたえを感じたという。

産業医と契約すると「2時間で8万円」が相場という。では、すでにそうしたコストを払っている会社ではニーズがないかと思ったら、こちらも感触は悪くない。フルパッケージの必要はないが、保健師がオンラインで対応してくれるなら月一の産業医で足りない部分を埋めたうえ、日ごろの職場への目配りが期待できるからだ。また紙で持ち込まれる健診記録の処理に頭を悩ませていた会社にも魅力だろう。

中小企業ではメンタルの問題への適切な対応は難しく、休職でも復職でも専門医により管理が欠かせない。ここは医師である澤井マネージャーの出番である。最近、産業医の目から気になるのが、体調が万全ではないが、欠勤するまでもなく出社するというプレゼンティーズムの広がり。メンタルの不調から肩こり、腰痛、目の疲れや花粉症など原因は様々だが、無理して働いても十分な仕事にはならず生産性を落とすだけだ。こうした事態をどうやって予防していくかは、日本企業の共通の課題となるという診立てだ。これまで健康問題による欠勤(アブセンティーイズム)に関心が集まりがちだったが、作業管理や作業環境管理といった「より良い働き方」を扱う産業医の重要性は一段と高まっている。

実際にWellaboSWPを導入するとどう変わるのだろう。ある社会福祉法人の実例を紹介しよう。特別養護老人ホーム3施設を持つ法人の悩みは離職者の多いことだった。健康経営を実践することでこの問題を解消したいが、嘱託産業医に何を頼めばいいのかも分からない。

メディヴァの保健師や事務スタッフが健診後の職員や長時間勤務者への対応を心がけたことで、それまで月数件だった健康相談が20件以上に増えた。信頼できる健康管理室として認知されつつあるのだろう。職務でのけがで休職し、再発への不安から退職を考えていた職員には定期的な連絡で症状が改善していることを確認し、不安についてもしっかりと話を聞いた。その結果、職場復帰できた実績もある。

このことは、組織の大きさにかかわらず、きちんと産業保健が機能すれば「人財経営」で大きな貢献ができることを実証している。事例を学会発表するなど、継続的に実績を積み上げている。健康経営の優良法人を国が認定するホワイト500にも選ばれている大企業で、データの管理を効率的に進めるために健康管理システムを導入し、実務担当者の業務工数が以前の3分の1になったという話もある。

いま保健師23人が働く産業保健チームが取り組んでいるのは、健康教育のコンテンツ作りである。こちらは健康づくりサービスの一環だ。とくに動画は人気で、見る側の集中力を考え1本は15分と短い。出来立ての「ガンについて知ろう」を見せてもらった。「知っておきたいこと」「ならないようにできること」の二つに絞り、ガン化の仕組み、発症の要因などを優しい言葉で説いていく。上映時間が短いのもありがたかった。

小さなことかもしれないが、筆者は検査結果をもとにしたコメントを受診者に送る際に、定型文を一切排除していることを評価したい。専門職が職場の特性も加味して臨場感のある文面にすることの効用は大きい。勤め先から健康アドバイスが届く体験は何度もあったが、そのほとんどが定型的な文面の焼き直し。機械的に送られているのが見え見えで、読む気も起らなかった。

政府が健康経営や人的資本経営を唱える時代である。ビジネスとしての注目度が高まりライバルが増えるなか、外部の人材を使わず、社員がすべて対応する質の高さ、医療機関の受診では医療法人社団プラタナスのオンライン診療という選択肢も用意する面倒見の良さなどで勝負している。本当に機能する産業保健の提供で健康経営を実現する、という理念を掲げたメディヴァにとって、これまでに蓄えた実力を発揮する舞台が整ってきた。

(続く)