2016/10/11/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

台湾の介護事情│GLOBAL

メディヴァ海外事業部 コンサルタント 鈴木勝也
 日本はアジア諸国に先立ち、高齢化が急激に進む社会を経験しています。そこで得られた知見には、今後さらに急速な高齢化が見込まれるアジア諸国からの期待が寄せられています。
 そのような背景の中、2015年の夏に台湾の病院にお招きいただき、代表の大石と私は、日本の介護や地域包括ケアなどの取り組みを講演いたしました。今回はその時の様子や見学した台湾の施設をご紹介します。

台湾での公演
 台湾での講演は新光火獅紀念医院(台北市)と屏東基督教病院(屏東市)にて開催し、主に看護師や医師、リハビリ専門職の方々に参加いただきました。
現時点では、台湾には介護保険制度がありませんが、2015年に介護保険に関する法案が可決され2019年度から開始するべく、準備が進められているようです。
 そのため、医療機関や医療関係者は介護に関して非常に熱心に勉強されており、当日も身近に迫った問題として、実際の運用面での課題などについて質問頂きました。
 台湾では自宅で亡くなる人の割合が4割以上(日本は1割強)と高く、在宅ケアから看取りまで地域で行うという地域包括ケアの考え方や、単なるお世話ではない「自立支援」としての介護に、特に興味を持っていただいたようです。

台湾の介護事情
台湾の介護には、簡単にまとめます次のような事情があります。
・介護保険制度はない。現在は地方政府が運営する介護制度が運用されている。
・施設介護、在宅介護サービスはあるが、家族介護が中心。
・家族介護と言いつつも、介護労働者に占める外国人の割合は約8割。住み込みのメイドが、自宅で介護も担当する状態。
・外国人の介護労働者のうち、8割がインドネシア、1割がフィリピン、1割がベトナムからの労働者。
・外国人労働者に介護資格要件が無いため、多くの施設では介護の質に影響を与えていると認識されている。
 このような状況のようで、介護の専門性の確立や質の高い介護職の育成ということにおいては、日本の介護福祉士育成などのノウハウが役に立つ一方、台湾からも日本が直面している、外国人介護職の受入問題については、学ぶことが多々あると考えています。(このあたりのお話はまたどこかで。)

 講演の合間には、台湾のリハビリ施設やデイサービス、老人ホームを見学させて頂きました。おおむね日本の介護施設と共通する部分が多い一方、日本では見かけない点、興味深いと感じた点をご紹介します。
・台湾風の内装や創作物
こちらはデイサービスです。創作物がもはやアートです。みなさん、非常に達筆で、配置された昔ながらの自転車との組み合わせもすごくいい雰囲気です。
中には、足湯のある施設も。

・カメラによる管理の徹底
室内を撮すカメラがいっぱいあることも、日本とは異なる特徴だと感じられました。日本の介護施設で、カメラが施設内に設置されているところは、少ないという印象を持っています。しかし台湾の施設では、至るところにカメラが配置されていました。画像記録として残しておくことで、なにか事故があった場合などに、スタッフを守ることもできるとの説明を、聞くことができました。

・リハビリや外出はメイド付き
リハビリ施設では、患者とセラピストともう一人3人セットでいる方が多くいました。聞くと、前述のメイドさんが付き添いで来ているということ。このあたりも文化の違いを感じました。

・日本語のしゃべれる高齢者
日本の統治時代もあったという歴史のある台湾では、高齢者が日本語をしゃべれる方も何人かお会いしました。そして、皆さん日本人の私たちに非常に好意的に接してくれたのが印象的でした。

 普段見られない海外の介護施設や医療機関を見学することができました。
日本は確かに高齢化を先に経験し、介護保険制度というシステムが構築された、いわゆる高齢化の先進国ではありますが、アジア諸国の介護から学ぶことも数多くあります。
 例えば、先ほどの施設内のカメラ配置は、もっと日本でも見守り機能と組み合わせて広がるべきだと思いますし、台湾式マイナンバーは医療の質の評価などサービスの妥当性を図るには、とても良い仕組みが出来上がっています。

 今後、日本式の介護を広めるということについても、決して日本のサービスがベストというわけではなく、それぞれの国の高齢者を取り巻く環境を理解し、良い部分も尊重しながら、現地で受け入れられるサービスを展開していく必要があると感じました。
 最後に今回、台湾では北から南までを往復しました。その移動には台湾高速鉄道を利用しました。
 新幹線の社内が「とても落ち着くな、、、」と思ったら、中身はまさに日本の新幹線!調べてみると、JR東海の海外展開プロジェクトでした。空席が目立ったのは気になるところでしたが…、まさに日本の新幹線の乗り心地でした!

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株式会社メディヴァ海外事業部
株式会社メディヴァ介護事業部

執筆者:鈴木 勝也│Katsuya SUZUKI
 愛知県出身。株式会社メディヴァ コンサルタント。
 名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻卒業、同大学院医学系研究科修了。痛みに関する基礎研究を行う。在学時より理学療法士として介護老人保健施設に非常勤勤務し、地域医療・介護問題に関心を持つ。医療従事者と利用者の満足を両立し、誰もが質の高い医療・介護を受けることができる環境の実現を目指す。