2018/11/19/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院経営における、放射線診断科の積極的増収策

株式会社メディヴァ コンサルタント 真鍋文朗

 皆さんは、放射線診断科にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
 大きな役割は、各診療科からのオーダーを受け、CT、MRI、PET検査等を実施し、読影結果を主治医に報告すること。各診療科からのオーダーありきで、安全かつ正確かつ迅速に検査をすることが使命。診療においては必要不可欠な存在でありつつ、病院の収益向上に積極的に貢献するイメージはないように思われます。
そこで今回は、放射線診断科における積極的な増収策が、病院の収益向上に大きく貢献したケースをご報告します。

画像診断管理加算を1から2へ

 弊社メディヴァのクライアントである病院(以下、支援先病院)は、従前は画像診断管理加算(以下、加算と省略)1という画像関連の加算を算定していましたが、収益向上のため、加算2の算定を目指すことになりました。
診療報酬の体系は少々複雑ですので、まず、加算2の算定で収益がどのように変わるかをご説明します。

画像診断管理加算の診療報酬体系

 表1の通り、加算1から加算2に上がることで、撮影単価は110点(180点-70点)増えます。さらに加算2を算定するメリットとして、64列以上のマルチスライス型CT、3テスラ以上のMRIを保有している場合、表2・3の黄色部分である、64列以上のマルチスライス型のCTと3テスラ以上のMRIの各点数(その他の場合:CT 1,000点、MRI 1,600点)を算定できます。

支援先病院の場合の試算

 支援先病院は、64列以上のマルチスライス型CTと3テスラ以上のMRIを保有しています。しかし加算1で届け出をしていたため、CTは16列以上64列未満の点数(900点)、MRIは1.5テスラ以上3テスラ未満の点数(1,330点)を算定していました。支援先病院(DPC対象病院)は、加算2を算定することで、外来検査の撮影単価が次のように上がり、CTで計210点(2,100円)、MRIで計380点(3,800円)上がり、年間の検査関連収益が8,000万円近く増収するという試算です。しかし、これらの点数の算定には、加算2又は加算3に関する施設基準の届出をしている必要があります。ここで加算2を加算するために求められる、施設基準をみてみましょう(一部文言を割愛)。

画像診断管理加算2の施設基準

(1) 放射線科を標榜している病院であること。
(2) 画像診断を専ら担当する常勤の医師が1名以上配置されていること
(3) 当該保険医療機関において実施される全ての核医学診断、CT 撮影及び MRI 撮影について、(2)に規定する医師の下に画像情報の管理が行われていること。
(4) 当該保険医療機関における核医学診断及びコンピューター断層診断のうち、少なくとも 8 割以上の読影結果が、(2)に規定する医師により遅くとも撮影日の翌診療日までに当該患者の診療を担当する医師に報告されていること。
(5) 画像診断管理を行うにつき十分な体制が整備されていること。
(6) 当該保険医療機関以外の施設に読影又は診断を委託していないこと。
(7) 電子的方法によって、個々の患者の診療に関する情報等を送受信する場合は、端末の管理 や情報機器の設定等を含め、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守し、安全な通信環境を確保していること。

 一般的に、上記(1) ~ (7)のうち、満たすのが最も難しいと言われている基準は(4)です。検査件数が多い病院にとって、8割以上の読影結果を撮影日の翌診療日までに返すことは、とても高いハードルとなります。
 支援先病院は、従前で7~7.5割の結果を返すことができており、他の施設基準はすでに満たしていたことから、あと少しという状況でした。(※以下、読影結果を検査件数に対して撮影日の翌診療日までに返した割合を読影率と呼びます。)

施設基準を満たすために

課題の抽出

 支援先病院の読影率8割を達成するため、弊社メンバーは支援先病院で調査分析、ヒアリングを行いました。その結果、大きくは下記3つの課題が明らかとなりました。

1.読影医の読影率8割を達成するモチベーションが低い
2.読影医が読影に集中できる環境をつくれていない
3.特定の医師に読影負荷が集中していて、医師間で読影負荷が偏在している

施策の考案と実行

 上記3つの課題を解決するべく、病院とファクトベースでディスカッションを重ね施策を考案、実行しました。

1.読影医の読影率8割を達成するモチベーションが低い
 従前は、読影率を月ごとに算出し、翌月に責任者のみに報告していました。それでは、他の多数の先生が現状把握できず、モチベーションが上がらないということで、事務員が読影率を毎日算出し、視覚的にわかりやすいようにグラフにすると共に目標達成に必要な読影件数を記載した資料を読影室に貼り出しました。
日々の自分の読影の成果が目に見えるようになり、読影率8割達成できそうだという期待感が生まれ、読影のモチベーションが上がりました。リアルタイムでの定量的な成果の見える化が大切だと実感しました。

2.読影医が読影に集中できる環境をつくれていない
読影は非常に集中を要する業務です。その集中を妨げる1つとして、高頻度でかかってくる電話がありました。概ね医師宛にかかってくるのですが、事務員が電話を受け取り、医師以外でできることは、放射線技師で極力対応しました。また、スキルドナースを配置してこれまで医師がしていた造影剤の注射を看護師に移管して注射の負荷を軽減しました。多職種のスタッフがこれらの施策を実行して、医師に読影業務に集中できる環境を提供しました。

3.特定の医師に読影負荷が集中していて、医師間で読影負荷が偏在している
読影の経験、スキルの差や専門性、そしてコミット度合いが異なるため、各読影医の読影件数に差がありました。特定の医師の読影件数が多いという状況で、その医師が学会、休暇等で不在時に読影率が低下していました。そこで(1)事務員が読影を依頼する際に、可能な限り、読影件数の多い医師を避け、少ない医師を選ぶ。(2)読影医別の読影件数を公表し、各医師に自分の読影件数を認識してもらうことで、件数の少ない医師に読影を促す。(3)放射線科の責任者の号令で、自分の専門以外の部位の読影にトライして守備範囲を拡大。まだまだ特定の医師に読影負荷が集中していますが、徐々に読影負荷の均一化が進んでいます。

 以上の施策を実行した結果、検査件数は増加しているものの、以前70%台だった読影率は80%以上を達成して加算2を届出でき、1年以上算定を継続しています。

最後に

 この支援先病院の場合、人件費の増加はほぼなく、増収分が増益になりました。経営のみならず診療面においても、オーダーした診療科が速く治療計画が立てられるようになり、患者さんやそのご家族にとっても有益であると考えています。
読影医の努力と協力が一番ですが、事務員が医師を盛り上げ、多職種のスタッフが医師の負担軽減に尽力した結果、加算2を算定できるようになったと考えています。
今回の件で、ひたすら読影しろという根性論に走らず、全スタッフが一体となってどうすれば課題解決できるかを考えることの大切さを学びました。皆さんも放射線診断科からの積極的な収益向上を考えてみてはいかがでしょうか。

※参考図書(表1~3、および画像診断管理加算2の施設基準):『診療点数早見表[2018年4月版]』(医学通信社)、作図:メディヴァ

執筆者:真鍋文明 Fumikaki MANABE
 株式会社メディヴァ コンサルタント。化学メーカーでドラッグデリバリーシステム研究・開発に従事したほか、ベンチャー系医療機器会社では、冠状動脈ステントの研究・開発に携わった。現在は大規模病院の画像診断・手術関連の運営支援や透析施設の設立支援、病院の再生に従事している。京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻修士課程修了。

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