2019/02/18/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

後発品使用体制加算の取得について

コンサルティング事業部
コンサルタント 松葉 広昭
今回は、後発品使用体制加算の取得についてです。医療機関が、後発医薬品の割合を上げることは、必ずしもメリットばかりではありません。収入の減少につながるケースもあることを、院内処方のクリニックにおける、実例とシミュレーション結果とともに検討します。
はじめに
日本の医療費は年々増加しています。実際に、H29年度の医療費は42.2兆円(前年比+2.3%)であり、その中で調剤費は7.7兆円(前年比+2.9%)で医療費全体の18.2%を占めています[1]。
増加する医療費の削減に向け、厚生労働省は様々な方針を打ち出しており、その内の1つに「後発医薬品の使用促進」があります。先発医薬品に比べ価格の安い後発医薬品を使用することで調剤費を抑えることが目的です。
この施策はH19年から始まり、当初34.9%であった後発医薬品率は、H29年9月には65.8%と10年間で約倍になりました[2]。更なる後発医薬品の使用促進を目指し、H29年6月に、「H32年(2020年)9月までに後発医薬品の使用割合を80%とする」という新たな目標が発表されました。
この目標を達成するための施策として、H30年度の診療報酬改定では、後発品使用体制加算の加算取得条件が厳しくなりました。院内調剤の医療機関にとっては、加算を取得しつつ後発品切替によって薬価収入が赤字にならないようなバランスのとれた対応が求められています。
外来後発品使用体制加算とは
ここからは院内処方のクリニック(X院)の、実際の事例をもとに紹介します。
X院では、H28年度の診療報酬改定時に新たに新設された「外来後発医薬品使用体制加算*」を取得するため、後発医薬品率を60%まで上げていました。しかし、H30年の診療報酬改定により、加算取得の最低ラインが70%に引き上げられ、現状のままでは加算を取ることができなくなりました。
*外来後発医薬品使用体制加算
H28年度診療報酬改定
*カットオフ値:全医薬品中の後発医薬品が存在する薬剤の割合
*後発医薬品の割合:後発医薬品が存在する薬剤の中で、実際に後発医薬品を使った割合

H30年度診療報酬改定
以下の3段階に変更になり、かつ、加算が取得できる後発医薬品の割合の最低ラインが70%となりました。

外来後発品使用体制加算の取得のために
そこで外来後発医薬品使用体制加算を再度取得した場合、X院の収益に、どのような影響があるかを調べました。加算取得に必要な2つの条件であるカットオフ値、後発医薬品の割合は、ともにレセコンで計算できます。
・カットオフ値
カットオフ値はH28年度、H30年度の診療報酬改定ともに50%以上であり、X院はすでに50%以上にしていたため、今回の改定でカットオフ値を上げる必要はありませんでした。
・後発医薬品の割合
X院ではH28年度の改定時に、後発医薬品の割合を加算取得ギリギリの60%にしていました。しかしH30年度の改定により、加算取得の最低ラインが70%に上がったことで加算が取れなくなりました。そこで加算1~3のそれぞれを取得した際のシュミレーションを行いました。
・収益シミュレーションの基本的な考え方
加算取得時の収益シミュレーションの基本的な考え方は、下図のとおりです。

後発医薬品の割合を上げ、後発医薬品使用体制加算を取得した場合、以下2つに起因する収益への影響があります。
・後発医薬品の割合に応じた後発医薬品使用体制加算を取得することで増収
・後発医薬品に切り替えると、薬価差益により減収
これら2つのバランスにより、図(A)のように「加算による増収は少ないものの、薬価差益による減収が少ないため、結果的には増収」となるパターン、図(B)のように「加算による増収は多いものの、その分薬価差益による減収も大きくなり、結果として減収」となるパターンが想定されます。
・X院のシミュレーション
シミュレーションの際は、加算による増収と薬価差益による減収のバランスを考え、結果的に増収になるよう切替医薬品の選定を行います。
X院が各加算を取得し、かつ、最も増収となるよう切替医薬品の選定を行った場合のシミュレーション結果は次のとおりです。
後発医薬品使用体制加算1 -1万円
後発医薬品使用体制加算2  +120万円
後発医薬品使用体制加算3  +60万円
ただし、これは最も増収するようシミュレーションした、経営的視点でしか考えられていない結果です。これに加え、下記のような医学的視点を踏まえる必要があります。
・医師が後発医薬品に切り替えたくないものは除く。
・商品名が同じで有効成分の量、剤形が異なるものは先発医薬品か後発医薬品どちらかにそろえる。
最終的にはこれらの点を踏まえて、後発医薬品へと切り替える医薬品を決定します。その結果、X院では後発医薬品の割合を75%以上とし、増益を見込むことになりました。
最後に
後発医薬品の普及は、医療費(薬剤費)の削減だけでなく、患者様の自己負担が減ります。しかし、病院やクリニックにとって後発医薬品の割合を上げることは薬価差益による収入の減少につながります。
後発品使用体制加算を取得し、薬価差益による減益を補える、もしくは増収を生むのであれば、医療機関、患者様の双方にとってプラスなことです。一度、後発医薬品の割合について考えてみてはいかがでしょうか。