2016/03/09/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

平成28年度診療報酬改定が病院・診療所経営に及ぼす影響(在宅医療を除く)

医療機関チーム コンサルタント 伊丹晃仁

 平成37年(2025年)に向けて、国や各自治体が地域包括ケアシステムの整備を進める中、今回の診療報酬改定は小幅な改定にとどまった印象です。ただ、次回は医療・介護の同時改定が控えています。今回の改定が発するメッセージをしっかり理解した上で、各医療機関は地域におけるポジショニングをより明確にする必要があります。本稿では、平成28年度診療報酬改定が病院・診療所経営に及ぼす影響について、前回配信された在宅医療以外のポイントを纏めました。

1.急性期病棟の要件厳格化

 今回改定の最大のトピックスは「7対1病棟の要件厳格化」です。具体的には「(1)重症度、医療・看護必要度の区分見直し」「(2)重症度、医療・看護必要度の患者比率引き上げ」「(3)在宅復帰率の引き上げ」となりました。
(1)は、主に術後患者を評価する項目としてC項目が新設されています。またA項目に救急搬送及び無菌治療室での治療を評価する項目、B項目に認知症を評価する項目が加わっています。
(2)は、重症度、医療・看護必要度の患者比率が15%から25%に引き上げられる一方、対象患者比率の要件が「A項目2点以上かつB項目3点以上」「A項目3点以上」「C項目1点以上」に拡大されています。
(3)は、前回改定で設定された在宅復帰率75%が80%に引き上げられ、在宅復帰の対象先に在宅復帰強化加算を有する有床診療所が加わっています。
特に影響が大きいのが(1)(2)となります。救急を積極的に受け入れている、もしくは手術適用患者を獲得できている7対1病院は、より新規入院患者を獲得するために病床の回転を意識したオペレーションが必要になります。一方、救急を積極的に受け入れていない、もしくは手術適用の患者が少ない7対1病院は、10対1及び地域包括ケア病床への転換を視野に入れつつ、地域における自院の役割を再度見直す必要があります。

2.回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価導入

 回復期リハビリテーション病棟については、リハビリ効果を定量的に評価する「アウトカム評価の導入」がポイントとなります。提供しているリハビリに一定の効果が見られない場合、1日6単位以上のリハビリが入院基本料に包括されることになります。リハビリの実績評価については、過去6ヶ月間の機能的自立度評価の改善度、及び改善に要した期間から算出します。今回改定の背景には「回復期リハビリテーション病棟におけるリハビリ提供単位数が増える一方、受け入れている患者層やリハビリの機能改善の結果にバラつきがある」というデータがあります。患者の機能回復及び在宅復帰を促進するために、リハビリの提供量だけでなく質を評価する目的で今回の改定に至っています。質の高いリハビリを実施するためには、リハビリスタッフだけではなく医師や看護師、社会福祉士とリハビリ計画及び進捗状況を共有し、在院日数短縮に向けた協働が必要となります。

3.療養病棟における医療区分見直し、及び入院料2の要件厳格化

 療養病棟における改定のポイントは2つあります。1つは医療区分の見直しです。従来は酸素療法の適用患者は無条件で医療区分3となりましたが、今回改定では酸素の使用量、及び重症度に関する要件をクリアした場合のみ医療区分3となります。クリアできない場合は医療区分2となります。また、従来医療区分2として評価していた頻回の血糖検査については、1日1回以上のインスリンもしくはソマトメジンの注射実施、という要件が加わっています。同様に医療区分2として評価していたうつ病治療についても、精神保健指定医が治療をしている場合に限る、との要件が加わっています。療養病棟入院基本料1を算定している病院は、今回の医療区分見直しによる医療区分2・3比率の変動幅を把握し、基準値の80%を下回る可能性がある場合は、医療依存度が高い患者の獲得に向けて周辺病院との連携強化、受入患者の基準見直しをおこなう必要があります。
 2つ目のポイントは療養病棟入院基本料2に関する内容です。入院料1と異なり従来は医療区分2・3比率に関する基準はありませんでしたが、今回改定で「医療区分2・3比率50%」という基準が新設されました。医療区分1の入院患者が50%未満の病院は、医療区分2・3患者の獲得に向けて早急に動く必要があります。ただし、前述の通り医療区分が厳しい方向で改定されているため、療養病床が多い地域においては、医療区分2・3患者の取り合いが激化することが予想されます。繰り返しにはなりますが、受入可能な患者層を見直し、幅広い疾患の患者を受け入れられる体制の構築と意識の変革が重要となります。

4.かかりつけ機能の評価

 前回改定で新設された地域包括診療料・地域包括診療加算の要件が緩和されました。具体的には、診療所において大きなハードルとなっていた「常勤医師3名」という要件が「2名」となりました。機能分化を図る上で、地域のゲートキーパーとなるかかりつけ医は重要な役割を担うことになりますので、要件を緩和してかかりつけ機能の充実を意図した改定となりました。また、複数疾患を有する認知症患者に対するかかりつけ機能を評価する名目で、認知症地域包括診療料・認知症地域包括診療加算が新設されました。認知症患者が今後ますます増えることを見越した上での改定となっています。
 以上が病院・診療所に関する改定のポイントになります。総論としては、要件の厳格化や包括化など小幅とはいえ厳しい内容であることに変わりはありません。一方「機能分化」「重点対応が必要な医療分野の充実」に取り組む医療機関にとっては必ずしもマイナスではなく、むしろ自院の特色を出す良い機会ととらえることができます。
 次回の医療・介護同時改定まで待ったなしの状況です。改めて、地域における自院の役割を考えた上で、戦略を再構築することが重要です。

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