2019/07/04/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

健診施設 差別化のためにできること

コンサルティング事業部
佐藤晶嘉
株式会社メディヴァでは、健診施設のコンサルティング事業と並行し、施設にオペレーターを経営者の一人として送り込み、社員と一緒に働きながら経営改善をさせる運営支援もしています。
そこで今回は健診施設を運営する上で留意すべきポイントの一部をご紹介したいと思います。

1.健診の背景

高騰する医療費を少しでも軽減するため、国は、施策として健康診断に力を入れています。2008年には特定健康診査を導入し、生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的として、メタボリックシンドロームの該当者及び予備群を減少させるための、特定保健指導を開始しました。
2017年にも、国の「健康・医療戦略」が閣議決定され、健康か病気かという二分論ではなく、健康と病気を連続的に捉える「未病」の考え方が導入されました。未病を早期発見、診断し、重症化させない試みがとられるようになっています。
そのような中で下記のグラフにあるように、生活習慣病予防健診などの受診率は、全国的に年々高まっている傾向にあります。

生活習慣病予防健診受診率推移

出所:全国健康保険協会 事業年報(※協会けんぽの被保険者の内、40歳から74歳を対象者として受診率を算出)

2.健診の種類

健診にも様々な種類があります。
分類としては対策型健診、法定健診、任意健診に分けられ、その中でもがん検診、定期健診、特定健診、生活習慣病予防健診、人間ドックなどに分かれます。さらに自治体や健保組合により、個人が負担する金額や詳細な内容は異なります。
一般的に健診の単価は、がん検診は無料~2千円程度、定期健診は5千円~1万円、特定健診は5千円~1.5万円、生活習慣病健診は1.8万円~3.8万円、人間ドックは3万円~10万円となっています。人間ドックの単価が一番高く、かつ幅が広いです。
医療機関においては、度重なる診療報酬の改定によって保険診療収入の伸びが期待できない中で、経営多角化の一環として人間ドック事業への参入を始める施設もあります。
数多くある健診施設の中で、選んでもらう施設になるために、どのような施策をとる必要があるのでしょうか。ここからは人間ドックを中心とした健診を提供する施設を運営する際の、差別化のポイントについてお話できればと思います。

3.他の健診施設と差別化するために

(1)「強み」「弱み」を調査・分析

まず競合を含めた外部環境と院内リソースである内部環境を分析した上で、健診施設としてのコンセプト設計である、「誰に、何を売っていくのか」を決めることが必要と考えます。攻めるセグメントと、どんな健診を売るか、を決めるということです。コンセプトに基づき、商品とサービスの設計を進めます。
そこから人間ドック健診施設として、「強み」を生かすことによって価値を構築します。たとえば施設認定の取得、各種認定資格を持ったスタッフの配置、健診を行う環境の整備、検査の精度向上などが重要なポイントになります。
周りの施設で提供することができない価値を提供すれば、価格競争に巻き込まれることなく、比較的単価の高い受診者層に訴求できます。

(2)将来性、需要のある分野に着目したオプションで検査メニューを充実

人間ドック実施施設での基本項目検査は、大体どこの施設も均一化していますが、その中で他施設と差別化を図るためには、オプション検査が重要になってきます。オプション検査を実施している施設の中で一番多い検査は、骨密度検査といわれています。その他、ABC(胃がんリスク)検診や腫瘍マーカー検査なども一般的になりつつあります。
一方、先進的なところでは遺伝子検査、腸内フローラ検査、LOXindex(心筋梗塞リスク)検査、アミノインデックス(がんリスク検査)、男性向けにはAGA(男性型脱毛症)リスク検査、女性向けには婦人科系のリスク検査を導入している施設も増えています。設備投資ができる施設では、脳ドックMRI検査や、肺、心臓ドックCT検査、PET検査など、機器は高額ですが単価の高い検査を導入する施設も増えつつあります。
将来的に需要が高まりそうな分野のオプション検査を取り入れ、積極的に差別化を図る事は、事業所や健保、個人から選んでもらう上での大きなポイントとなります。

(3)医療機関との連携

受診者の病気が見つかった場合、自施設で2次検査、その後の治療までカバーできることが望ましいですが、そうできない場合、提携する医療機関をいかに増やしておくかが重要です。それも信頼でき、柔軟な対応が可能な医療機関と関係を構築する事が非常に大切になってきます。
関係性がきちんと構築されていないと、ただ紹介するだけになってしまい、十分な情報提供がなされないまま不要な検査が行われたり、同じことを繰り返し聞かれたりと、受診者の不満をあおる結果になる可能性があります。特に専門分野に強い病院と「顔のみえる連携」をしておくことは、受診者の安心感にもつながると考えています。

(4)スタッフの教育

人間ドック健診施設においては、スタッフの教育も極めて重要です。来院される方は病気で受診する「患者」ではなく、健康な「受診者」が大半です。受診者に対する対応は人一倍気を遣う必要があり、「サービス業」のマインドが求められます。
よくある事例として、病院から転職してきた医療職のスタッフが、患者に接する時と同じように健診受診者に接した結果、「態度がなれなれしかった」等のクレームにつながることがあります。そうならないためには「お客様」としてホスピタリティにあふれた対応をする事がスタッフ1人1人に求められます。教育体制を確立し、定期的に接遇研修等を行うことが重要です。
受診者満足度をアンケートで測っている施設は多いと思いますが、弊社の支援先では、総合評価だけではなく項目ごとの評価を分析し、施設、各部署の対応、待ち時間等など、どこに改善が必要かを考察し、現場にフィードバックしています。
ここで重要なことはフィードバックを受け、今後現場でどう行動するかです。「お客様目線」を意識し、満足度をさらに高めるためにはスタッフ同士の目線を合わせ、個人個人の対応力を向上させる必要があります。
そのために弊社の支援先ではクレドを導入して、スタッフと共有し、浸透させています。(クレド:従業員が心がけるべき企業の信条のこと)
クレドの導入により、組織が大事にしている事を丁寧に共有し、スタッフに浸透させることで、スタッフ一人ひとりが考えて、マニュアル通りの形式的な対応ではなく、最善のおもてなしを提供しようと行動するように仕向けることが期待できます。これにより利用者の満足度も高まり、他施設との差別化につながると考えます。

(5)スタッフの満足度調査

受診者の満足度を測ることには力を入れていても、スタッフの満足度を測っている施設は意外と少ないのではないでしょうか。スタッフの満足度調査を定期的に行うことで、モチベーションを維持する環境づくりが可能です。
スタッフの満足度調査に基づいて、定期的に面談を行い、個々のモチベーションの源泉がどこにあるかを探り、働きやすい環境作りを目指します。
弊社の支援先では、定期的にスタッフのモチベ―ションを確認するため、外部機関にアンケート分析を依頼します。モチベーションをスコア化し、どの部門に改善が必要かを客観的に見ることができます。
改善が必要な部門には面談の機会を増やし、どこに問題が生じているのかを分析し、必要な改善を丁寧に行います。それを半年に1度程度行い、どのくらい改善しているか、また別のところに問題が発生していないかを確認します。
そのような組織づくりをする事が離職を防ぎ、ひいては受診者満足、他施設との差別化につながると考えています。

4.最後に

ここまで挙げたポイントはほんの一部でごく当たり前のことかもしれませんが、実践するのは容易ではありません。また一度の実践するだけではなく、定期的に見直してこそ効果を期待できるものだと考えられます。今一度、自施設のあり方を見直し、できるところから改善して見るのはいかがでしょうか。
弊社では健診施設の様々なコンサルティングを展開しております。どうぞこちらからご確認ください。

執筆者:佐藤晶嘉
株式会社メディヴァ コンサルタント。宮城県出身。東北大学医療短大卒業後、診療放射線技師として病院で勤務。そこで病院経営のあり方に疑問を持ち、横浜国立大学/大学院で効率の良い病院経営の在り方を研究。医療・介護の分野において、幅広い視点で携わっている(株)メディヴァに魅力を感じ、入社。医療機関と患者が共に満足し、かつ国が持続・発展できるような医療に貢献したい。現在は脳専門病院の実行支援、健診施設の運営支援などに携わっている。

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