2021/03/24/水

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

アメリカの家庭医と新型コロナ

3月も下旬になり、ようやく暖かく、桜もあちこちで満開の便りがきかれますね。でも相変わらず天候不順で、先週の土日の物凄い雨と風には、びっくりしました。加えて地震まで。「10年前の3月11日を絶対に忘れるな!」と警告されているようです。

さて、先日、用賀アーバンクリニックの顧問医をお願いしている神保真人先生をお招きして早朝ウェビナーを開催しました。神保先生は現在、イリノイ大学の家庭講座の主任教授で、アメリカの家庭医療学で主任教授を務める唯独りの日本人です。

神保先生と私たちの出会いは20年前にさかのぼります。2000年に用賀アーバンクリニックを立ち上げた時、当時はまだ日本ではあまり知られていなかった「家庭医」を目指しました。「家庭医」は、「かかりつけ医」と似ているようで、異なります。「かかりつけ医」は、内科の「かかりつけ医」、小児科の「かかりつけ医」、婦人科の「かかりつけ医」等、いろいろな科の「かかりつけ医」がいて、患者と医師の間で、継続的に診療を受けていることにより築かれている信頼関係に重きが置かれています。これに対して、「家庭医」は一つの専門性(標榜科目)で、小児から高齢者まで、家族全体のプライマリケアを全人的に診る医療を意味します。

いずれにせよ、用賀アーバン設立当時、「本場の家庭医から学びたい」と思い、当時フィラデルフィアのトーマス・ジェファーソン大にいらした神保先生に顧問医になって頂きました。

余談ですが、神保先生にお会いできたのは、亀田信介院長のおかげです。当時から亀田総合病院は、アメリカ帰りの医師を積極的に招聘していました。定期的にアメリカでのリクルーティングも行っていて、それに着いて行かせて頂きました。創業したばかりでお金の無かった私に合わせて、信介先生もエコノミークラスに乗ってくださったのは、今思うと申し訳なかったです、、。

さて、ウェビナーの内容ですが、アメリカの家庭医の役割と新型コロナの状況についてお話頂きました。下記に面白かったと思う内容を列挙します。

・家庭医は、一人当たり1500~2000人の患者さんを担当し、年に2回ほど診察を行う
・初めの診察には40分くらいかけるので、その後の診察は時間を掛けないで済む
・一日当たりに診る患者さんは20人くらい
・患者単価は毎回100~150ドル程度で、ご本人の保険による
・家庭医の役割は治療だけでなく、健康診断や予防も含む一連の患者の健康管理
・米国ではコロナ禍の中、政府主導で積極的にオンライン診療が取り入れられた
・報酬は対面と同等。これにより出来る限り接触を減らすことに力をいれている
・zoom等の汎用機を使っても良いが、地方だとインターネットの回線が弱いのが問題
・PCR検査は家庭医とは別に、公的な仕組みの中で行われる
・コロナ禍の中、公的機関と民間の医療機関の連携はうまく行っていると感じる
・PCRもワクチンも公的機関と民間人材(ボランティアを含む)が協力
・速やかに、大量に実施できる体制が築かれた。ワクチンも急速に接種が進んでいる
・アフターコロナで、オンライン診療が定着するかどうかは不明で、報酬次第

神保先生は、家庭医の役割として健康診断と予防が入っていることが重要であると強調されていました。日本の場合は、制度上切れているのが問題だとも。

最後に神保先生から日本のワクチン接種状況を聞かれました。私達の世田谷区は、100万都市ですが、ようやく975人分のワクチンが手に入った程度、というのには驚いてらっしゃいました。

日本ではワクチンの接種体制もまだ未整備で混乱が予測されます。アメリカの医療制度には、無保険者の問題を初め、色々な課題がありますが、危機には強いように思われます。日本のように「責任を取る」ことを恐れず、「やるべきことをやる」という文化も大きな要因と思います。

1時間という短い時間でしたが、非常に興味深かいセッションでした。「定期的にやりましょう」、と仰って頂いたので次回開催するときには、またご案内をさせてください。