2019/07/21/日

医療・ヘルスケア事業の現場から

赤字病院の経費節減の方法「適切な経費コントロールという自助努力」

コンサルタント 小嶋 武仁

「病院現場業務」とは

広義で申し上げると、病院の経営再建の為、我々がコンサルタントの立場で現場に入り込み、様々な課題解決を通して経営立て直しのお手伝いをすることです。経営悪化と一口に言っても、原因は様々です。診療報酬の改定への対応遅れ、人員過不足、施設の老朽化、市場を活かしきれていないなどなど。
今回は見落とされがちで、マイナス方向のイメージがある経費のコントロールについて述べたいと思います。

経費コントロール

再生の現場において、最も重要な施策は「組織の収益向上のための施策」ですが、反面、組織の自助努力ともいうべき施策があります。それが経費コントロールです。
これは経費削減、経費節減、はたまたリストラといった言葉で表現され、後ろ向き感満載の言葉ではありますが、その効用は中々捨てたものではありません。経費コントロールというと、一言で申し上げるなら「これまでの常識を一新する」という事になります。あくまでも、変えるのは意識です。
「無理・無駄・ムラを無くすこと=効率化=経費コントロール」と巷では言われていますが、私は多少の無駄(余裕)がないと業務は効率化できないと考えています。経費コントロールの基本は「無茶をしない」に尽きると思っています。
無茶を定義すると法令違反、組織の信用低下(モラルダウンや品質低下)、職員のモチベーションを激しく下げるもの、あとは大義名分のないものとなりますが、これらは論外です。

コントロールの前提とその理由

経費コントロールの前提は、職員を含めた「納得性」です。何故、実行しなければいけないのか?これを丁寧に説明する事が重要です。これを怠ると、組織内部から「うち、大丈夫か?」といった不安や不満が醸造されます。所謂、モラル低下です。
「なぜ経費コントロールをするのですか?」
時折、職員の方から出る質問ですが、この回答がなかなかに難しいと思っています。利益の極大化は、分かってはいるが、腹落ちしない。「利益=売上―(原価+経費)」と言っても何方の反応もイマイチです。納得するのは、上層部だけで一般職員にまでは波及しないのは、医療機関に限った話ではないでしょう。
では「利益=売上―(原価+経費)」による利益極大化は全てに優先するのでしょうか?逆の立場なら、論に欠落があるもののその理論を私は論破できません。ですので私の場合は “うちの組織の存在(理由)を継続させるため”等の説明をします。その組織がなくなれば、職員・関連業者・患者様・関係医療機関全てが困ります。「困る人がいる=存在価値がある。だから、健全に継続させよう!」と説明して周っているのです。

削っていい経費、削ってはいけない経費

しかし経費にも「削っていい経費」と「削ってはいけない経費」があるのも事実です。「削ってはいけない経費」の具体例は、業務改善もなされず、適正人員も考慮されず、公正な評価もなされない中で、場当たり的に行われる“人件費のカット”です。これには全く納得性がありません(既述した“無茶”に該当します)。
何でも削ればOKというわけではありませんから、過度ではなく 適切な経費コントロールが求められるのです。そのためには、あえて高い経費を投入するという事もあるわけです。
医療機関の経費コントロールの進め方
経費コントロールは、思いつきや掛け声だけではまず効果が出ません。例示しますと通信費といった大きな括りではなく、固定電話の費用 携帯代 回線の本数といった微に入り細に入るといった、現場に入り込んだ現状把握があってこそ、成功率の高い立案とその実行が可能になります。

経費コントロールのポイント

1)職員のコスト意識を高める

職員にコスト削減の必要性を訴え、職員のコスト意識を高めることが大切です。広く意見を集めるために、委員会形式にするのも一つのアイデアです。

2)ターゲットコストの見極めと、削らないコストの選定

削っていい経費にも、【上】【中】【下】の種類が存在すると考えています。

【上】職員に負担を掛けずに行うもの(保守契約の改定など業者契約により経費を落とすもの)
【中】職員の手助けが必要なもの(通信手段の改変など一定の割合で職員に協力を願うもの)
【下】職員を不安に陥れるもの(電気を消す、裏紙使う、手当を減らす等々)

3)成果を明示する

何の項目でどの程度効果があった。今後は、こういった制度にして、平準化を図る。「」などを明示することです。キャンペーンで終わらせず、経費コントロールを「長続きさせる」コツは次のとおりです。
(1)経営陣が本気を見せる
(2)幹部職員はじめ一般職員まで、それぞれの立場で参加させる
(3)効果の確認を必ず行う
(4)効果の“見返り“を明示する(この難易度が高い)
(5)継続させる為の仕組みを作る

経費節減の具体例

関東南部のケアミックスの中型病院の例を挙げます。その病院は、慢性的な経営赤字であり 特に直近3年間は、診療報酬改定への対応が遅れるとともに、改定の打撃を受け続け、減収減益、連続(経常)赤字を出しており、早急な改善が必要でした。収益アップ施策も提案しましたが、病床稼働率は95%を越えており 大幅な増収は望めない状況でした。そこで経費コントロールに着目しました。

まず経営者に現況を説明し、今期の黒字化の合意を取り、様々な経費コントロール施策に取り組みました。役員報酬カット、通勤費最適支給を皮切りに、総勘定元帳をチェックし諸会費、新聞図書等を削減。更に、職員に協力を要請し日常使用している医療材料の見直しを行いうと共に、業務改善を推進し消耗品、時間外手当の削減を行いました。

反発もありつつ、年間合計1億3000万円の経費削減(内訳: 役員報酬 20M\、人件費 81M\、原価 20M¥、経費 1.9M\)に成功しました。翌期回しの効果もありましたが、何とか通期黒字化を達成しメインバンクを含めて組織内外で存続・発展の為の前向きな話ができはじめています。

最後に

経費コントロールは、類例が数多く存在します。しかし、その組織、組織に合った無理の無いものでなければ、効果が出ません。また、一部の部署・人の手で成り立つものではありません。経営陣・全部署一体となってアイデアを出し合い、その意味を理解して実行してこそ、継続された本当の意味での効果が出てくるのではないでしょうか。決して大上段に構えた大仰なものではなく、そのネタは常に現場にあります。

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