現場レポート

2022/03/14/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

愛着を持って一族経営をしてきた介護事業の承継事例

 コンサルタント 江原 修司

概要 

・九州・沖縄地方の老人ホーム 
・一族経営から大資本企業への承継 
・譲渡理由;職員の教育研修など一族経営の限界を感じた 
・買手にとっては未進出地域であり足がかりになった 

ゼロから老人ホームを立ち上げ、オーナー家が10年程度一族経営してきました。さまざまな工夫や施策を通じ経営状況は良かったものの、教育研修、人事評価制度、コンプライアンスなど、入居者・利用者・従業員へより品質の高い環境構築を考えた時に現経営体制への限界を感じ、より資本の大きな同業者へ承継を決断しました。 

他方買手にとって当該案件は未進出地域であったものの、事業展開を望んでいた地域であり今後地域における拡大の拠点となりました。 

本事例におけるポイント

・入居者・利用者・従業員へより品質の高いサービス・業務環境の構築 
・複数の説明会、食事会を通じ従業員への丁寧な説明を実施 
・リーズナブルな承継対価による双方の合意 

はじめに 

弊社は医療・介護などヘルスケア領域に特化したコンサルティングを行っていますが、様々なクライアント、金融機関、関わる業種・業界の企業と協業する中で事業承継に関してご相談を受けることが多々ございます。 

その中でご支援した、とある老人ホームの承継案件についてご紹介します。今回の売主様の動機と同様の悩みを抱える法人様は世の中に多くおられると感じ、悩み解決の一助になれば幸いです。 

介護事業の概況 

少子高齢化、人口減少が進む国内において、介護事業は成長余地を感じる市場で、過去に多くの個人や企業が進出しました。実際に事業運営をすると、定期的に改定される報酬体系を都度理解する必要があったり、他産業と比較し高い離職率を受けて継続的に採用活動、職員教育が必要であったり、昨今では新型コロナウィルス感染症の発生による感染防護体制の構築であったり、他産業と比較し安定的に経営するためには、とても苦労が多いと感じられる方も多いようです。結果として過去と比べ介護事業者の倒産や休廃業件数が増加傾向にあります。 

介護事業の倒産・休廃業・解散数の推移
介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

出所:株式会社東京商工リサーチ 

またご存じの通り介護の担い手は現在において不足感があるものの、今後さらに不足感が強まるものと考えられています。 

出所:厚生労働省 

本件の承継背景

今回承継を希望された法人さまは九州・沖縄地方に所在し2010年頃に他業種から介護事業に進出され、地道に事業を拡大して来られ、創業者からお子様たちへ世代交代されました。話をお伺いすると誠実に経営して来られた印象を強く持ちましたが、3年おきに改定される介護保険制度の情報収集、毎月の介護保険請求や給与計算、常時行う必要が出ており年々難易度が上昇している募集・採用活動に疲弊しておられました。 

職員の定着率が向上すれば、年々難易度が上昇している募集・採用活動に割く時間が減少し、他業務を改善するために時間が作れると考えておられたものの、定着率向上に効果があると考えた人事制度や職員育成・研修のアイディアを上手に考えられず苦慮しておられました。 

そのような中にあり事業を第三者へ譲り渡す模索を始められ、縁あって弊社が関与させて頂くことになりました。 

お困りのポイント

・介護保険制度の改定に際した情報収集 
・毎月の介護保険請求 
・毎月の給与計算 
・職員さまに満足頂ける人事制度 
・職員さまに満足頂ける育成・研修制度 

承継者の選定

今回のクライアントは先述の通り運営面での課題をいくつか抱えておられます。 
また拡大する中で数億円の金融機関借入を抱えておられました。 
一方立地は地域の人口動態や介護サービス需給から見て魅力的でした。 

運営面の課題内容と借入額の規模から、管理業務や採用・職員育成を上手にでき、かつ財務体力がある大規模法人が承継者として望ましいと考えられました。 
しかし大規模法人側も展開地域、建物、設備、価格帯、オペレーションに対し、それぞれの考えやこだわりがあります。 

弊社としては現経営者さまのご希望と、承継候補者の立場を総合的に勘案しながら、事業モデルが比較的近いしと考えられた複数社に対し打診を行ったところ、ちょうど当該地域における足掛かりを作りたいと考えておられ、教育機関をグループ内に保有し教育・研修について一方ならぬ情熱を持っておられる承継候補者にたどり着きました。 

折衝、譲受 

双方の譲り渡したい、譲り受けたいとのニーズが合致したら、次に条件と譲受スキームを詰め双方合意する必要があります。 
本件では最終的には現経営者が望んでいた譲渡対価の60%程度を総額で支払うスキームで合意がなされました。それでもこの60%程度の価格は客観的に財務諸表から得られる事業価値と見比べると高額でした。 
しかし希望価格を引き下げる決断をした現経営者と、現経営陣への慰労し割高でも支払う決断をした承継候補者の双方があっての合意でした。 

また合意に至るまでには承継候補者と弊社間で他にも様々検討し実行しました。 

・税を考慮し現経営者の手元に残る金額が最大化されるスキームを徹底して検討 
・現経営陣の中で継続関与の希望を持っておられる方を承継後も顧問として受け入れ 
・初めての事業承継に不安を感じる現経営者のため対価を複数回に分け早期にお支払い 
・引き継がれる現場職員の皆様との丁寧な会話・説明会・食事会を実施 

事業承継を進めるに当たってはさまざまな課題が発生しますが、本件はとてもスムーズに進みました。経験上スムーズ運ばない原因に、現経営者にとって事業を譲り渡す経験は多くの場合で初めてであり、遠慮から思っている条件を全て表現することは容易ではないことが一因と考えます。 

本件においては弊社を挟み密にコミュニケーションを図ったことで、表現されてこなかった要望を拾い上げ、検討できたことがスムーズな譲受に繋がったものと感じました。 

さいごに

コロナ禍でご苦労をされておられる事業者さまがたくさんおられるものと推察します。 
運営を負担に感じている、資金繰りが厳しいなどお悩みがございましたら、お気軽にお問合せください。 

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