2017/01/13/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
医療機関チーム マネジャー
コンサルタント 小 塚 正 一
目次
現在、精神科病院の経営を取り巻く状況は大変厳しくなっています。精神科の入院患者数が減少を続けているためです。これは、精神科入院の多数を占める統合失調症において、以下のような状況が生じているためです。
(1)薬が良くなっている(外来通院で済む。入院となっても短期間で済む)。
(2)現在の長期入院患者の高齢化が進んでいる(死亡退院が増加している)。
この状況に加え、次のような政策の流れも合わさることで、今後、精神科の入院患者数はさらに減少する見込みです。
(1)長期(1年以上)入院患者の地域移行(退院)を推進する
(2)新たな長期入院患者の発生を極力抑える
こうした流れの中、平成29年1月6日(金)の社会保障審議会障害者部会(第83回)において、国の基本指針案が示されました。
基本指針には、障害福祉サービスや地域生活支援事業の提供体制の確保に係る目標をどのくらいにするかという項目があり、各自治体はこれに即して障害福祉計画を作成することになります。これを見ると、精神科の入院患者数は今後3年間で最大約4万人減少する目標値となっています。このような数値だけに注目して慌ててしまいがちですが、本質的な意味合いを考え、対応策を検討すべきだと考えます。
精神科の入院患者は高齢化が進んでいることもあり年間22,000名弱(※)の方が亡くなって退院(死亡退院)しています。したがって、H32年度末までの3年間で約4万人の入院患者を減少するという目標の達成はそれほど難しくはないとわかります。
※「精神保健福祉資料(630調査) H27暫定値 (個票16)」によれば、平成27年6月退院患者数のうち死亡によるものは、全都道府県合計で1,824名となっている。
基本指針案では、精神病床における早期退院率(入院後3か月・6か月・1年の退院率)の目標値も示しています。むしろ精神科病院で問題となるのは、こちらの方だと考えます。新たに1年以上の長期入院になる患者を極力抑えようということであり、約70%の入院患者は3ヶ月以内に退院させようということです。従来の精神科病院の状況を踏まえると、かなり厳しい目標だと思います。
病棟においては、これまでと比べると非常に回転を早くしなければならないということになります。退院の観点からは、1年以上の長期入院患者の地域移行推進に加え、新規入院患者の早期退院が合わせて求められます。この実現のためには、入院時点(できれば入院相談があった時点)から、早期に退院させるためのプランを多職種で検討する必要があります。早期退院の実現のために、各専門家がどのタイミングで具体的にどのような関与をするかという事を検討することが重要なので、そのような場の設定を今から準備する必要があります。退院後の行き先の問題も生じます。より短期間で適切な退院先を確保する必要がありますので連携関係をより強固にしなければなりません。
新規入院の観点からは、どんどん落ちていく稼働率に対しての対応が求められます。急性期対応や身体合併症対応など国はいくつかの特定の役割が必要であるとしています(精神科における機能分化です。この内容は別な機会に取り上げたいと思います)。そのような役割を担当する力を付け、地域の精神科医療の枠組みの中で、その役割を確保していく動きが必要となります。具体的には医師を始めとする人材を確保し、自院がその役割を担うという姿勢を手挙げして発信するといった動きが求められます。
今回の障害者部会において示された国の基本指針案の主な内容(精神障害関連部分)をまとめてみます。各施策の「成果目標」が掲げられますが、精神障害に関しては主に以下のように記載されています。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
関連ページ:メディヴァの精神科病院・クリニック経営コンサルティングサービス
執筆者: 小塚 正一 │Shoichi KOZUKA
東京都出身。明治大学経営学部卒業。(株)あさひ銀行(現りそな銀行)にて営業店勤務を経験後、中央青山監査法人に転職。その後、有限責任監査法人トーマツに移籍。2つの監査法人のヘルスケアコンサルティング部門の勤務を経て2011年(株)メディヴァに参画。
医療機関のデューデリジェンス複数件、大学病院の画像センター業務改善、医療機関経営者向け講座の企画・実行等を実施。現在は、約400床の精神科病院の事務長を行いつつ、沖縄の精神科病院など他医療機関のコンサルティングを実施。