2020/05/22/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
目次
新型コロナが、武漢で初めて確認された2019年11月から約半年が経ちました。この病気についてはまだまだ分からないことも多いですが、当初よりはだいぶ分かってきました。まず確実に分かっていることとしては下記の3つです。
(1)感染力が非常に強いこと
だから手洗い、マスク、「3密」(3つの「密」が重なる)のを避ける事が大事です。
※「3密」は3つが重なることにより、18.7倍の感染拡大を興します。
(2)無症状や軽症者が非常に多いこと
軽症と言っても、「インフルエンザより相当辛い」(体験者談)そうですが。
(3)軽症と思われていた人が急激に悪化することもあること
いつ悪化するか心配しながら過ごすこと自体が辛い病気です。
もしも罹患して、症状が現れたら、いつどういう経過をたどるのか、とても気になるところだと思います。何かないかと探していたところ、武漢の発症例からWHOがまとめた「新型コロナ 日々の経過」(YouTube)を見つけたので、日本語訳をつけてみました。個々人によって症状や経過は異なりますが、典型的な症状はまとめられています。詳しくは動画をご覧いただければと思いますが、次の項で、まとめと考察を記します。
(1)発熱、(2)乾いた咳、(3)呼吸困難、(4)倦怠感、は調査によって明らかにされた新型コロナの典型的な症状です。
ただ、症状はいきなり出ません。
はじめの3日間くらいは、ほぼ普通の風邪と同じで体温も平常どおり、せいぜい喉が痛くなり、軽い吐き気がする程度。
4日目くらいから、倦怠感、関節痛などの他の症状も併発しますが、体温はまだ平熱です。
5~6日目から体温が37.2°以上に上昇し、乾いた咳や倦怠感が出始めます。呼吸困難もよく発生します。ただ、この段階で快復する人もいます。
7日目までに快復しない場合、咳や呼吸困難が悪化し、熱は38°まで上がることがあります。頭痛、身体の痛み、下痢がある場合は悪化することも。この段階で入院する人も多いそうです。(※入院は、各国の受け入れ状況によって異なります。)
8日目に、基礎疾患のある患者はさらに悪化します。40%の患者に敗血症が見られ始めるのは、平均9日目だそうです。
10~11日目にICUでの治療が必要になる患者もいます。
12日目くらいから運命が分かれます。生存者の症状はこの時点で収まり始め、13日目には呼吸困難も和らぎます。
一方、悪化する患者(全体では少数ですが)は、15日目くらいから急激に循環器もしくは腎臓の機能が損なわれ、18日目あたりに死亡例が発生します。虚弱な患者では別の病原体による2次感染が起こって肺が侵されます。重症になると血栓を起こし、血管が詰まって亡くなることもあります。これが「サイトカインストーム」です。
サイトカインとは細胞から出る他の細胞に命令を伝達するたんぱく質です。身体に異常があることを知らせて、身体を守る作用をしますが同時に発熱、倦怠感、凝固異常を起こします。ウイルス感染が大きくなると暴走し、大量にサイトカインが放出された状態がサイトカインストームで、全身状態の悪化や血栓形成に繋がります。
一方、完治した患者は、症状が出始めて3週間当たりに退院しますが、その後も軽い咳に悩まされることがあるそうです。この後も、しばらく自宅待機が続くでしょうから大変ですね。
この経過を見ても明らかですが、新型コロナについて分かってきたもう一つのことには、(4)重症化しやすい患者の傾向があることです。高齢者、基礎疾患のある人、喫煙者等は重症化しやすいです。集中治療を要する新型コロナ患者の情報はまだ限られていますが、イタリアのロンバルディアICUネットワークの研究グループが同州のICU患者の調査を行ったものがあります。症例数1591例のうち、死亡率は26%でした。
症例の年齢中央値は63歳で、23%が71歳以上、13%が51歳未満、82%が男性でした。データが得られたのは1043症例とのことで、そのうち68%に基礎疾患があり、最も多かったのは高血圧で約半数(49%)、心血管疾患が21%、脂質異常が18%、2型糖尿病が17%で、肺の疾患であるCOPDは4%でした。死亡率は高齢患者が高く、64歳以上が36%に対し、未満は15%だそうです。(論文:Grasselli G, et al. JAMA. 2020 Apr 6)
最終的に亡くなった方の疾患状況はまだ数字が少ないのでしょうが、重症化する患者は高血圧、心血管疾患、脂質異常、2型糖尿病を抱えていたことは気になるポイントです。新型コロナで亡くなる方は、サイトカインストームを起しますが、こういう血管系の疾病を抱えている方はサイトカインストームが起こった時、心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞を起こしやすいと言われています。さらには、脂肪細胞もサイトカインストームに繋がりやすいという説もあります。
日本人は欧米人と比べて、何故か新型コロナの死亡率が低く、大体2倍弱の開きがあります。何故そうなのか?ウイルスの変異が違う、医療体制がしっかりしている、BCGを接種している、納豆を食べている??等色々です。
ただ、上記のように重症化する要因として、高血圧、心血管疾患、脂質異常、2型糖尿病、肥満があるとすると、日本人の健康的な生活が功を奏しているのかもしれません。日本は健康長寿を延伸するために世界に先駆けてメタボ健診・メタボ指導にも取り組んできました。近年は健康経営にも力を入れています。もしかすると、これらが良い効果を生んでいるのかもしれません。
いずれにしても、新型コロナは一旦収束しつつあります。ただ、海外から変異したウイルスが入ってくることも含めて、第二波には備えたほうがいいです。また、高齢者や入院患者等のハイリスク者のクラスター化は防がなくはいけません。それぞれの人がまず自分たちで出来ることは、自粛時と同じく手洗い、マスク、明らかに3つの「密」が重なる場所への出入りを避けることでしょう。それと重症化につながる疾患の予防や、そういう疾患がある場合は更に悪化させないことだと思います。
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執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)