2020/12/17/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

クリニックにおけるコロナウイルス対策

コンサルティング事業部  正者忠範

はじめに

オリンピックイヤーで前途洋々の年明けだった筈の2020年。2月の横浜港での「ダイヤモンド・プリンセス号」対応あたりから、世の中の様相が大きく変わりました。新型コロナウイルス感染症が猛威を奮い、マスクの着用が当たり前となり、外出の自粛が求められました。3月から4月にはさらに拡大し、史上初の「緊急事態宣言」も発令される事態となりました。

医療機関もその影響は大きく、ほとんどの医療機関で減収、減益となりました。主に打撃を受けたのは、「小児科」「耳鼻咽喉科」です。やはり、来院することによる子どもへの感染の不安や、直接鼻や喉に触れる処置を行うことへの懸念などがその理由として考えられます。

弊社が支援している都市型家庭医クリニック(内科、小児科)でも、その傾向は顕著に見られ、一時は新患数が7割減まで落ち込みました。経営判断で「内視鏡検査」「小児科外来」を休止し、内科、乳幼児健診/ワクチン外来を充実させて、このコロナウイルス感染症を乗り切ろうとしておられますが、今回、そのいくつかの施策をご紹介致します。

新型コロナウイルス感染症に対する診療

当時の現状

3月、陽性者の報告が増え始めました。当院でも今後、発熱者のみならず疑い症例が増えることが考えられました。

課題

発熱等の診療について対応方針とスタッフへの理解ができていませんでした。

対策

院長からスタッフへ十分な説明を行った上で、「発熱・かぜ様症状外来」を設けることを決めました。

まず、「家庭医クリニックとしてどうあるべきか」について院長からメッセージを発出し、コロナ禍での当院の対応方針についてスタッフへ丁寧に説明をし、理解を促しました。

次に現場の対応を所属医師会からの「発熱者は時間的・空間的分離を行っての診療を」という通知を基に詳細に検討を行いました。外来の設置にあたっては、当然、スタッフ自身にも感染リスクは伴いますし恐怖があることは否定できませんが、院長の熱い想いがスタッフにも通じ、前向きな議論となりました。院長のメッセージはHPにも掲載し、患者様にも安心して来院頂けることが伝わるよう工夫しました。結果的に、「昼の時間帯を使って診察」となりました。昼休みを設けていないクリニックのため、午前/午後の区分け時間を日ごとに考え、前後の消毒時間を設けることとし、1時間半枠で3月22日に開始致しました。受入れにあたり以下の対策を実施しました。

 1. 入口で検温と問診を実施(看護師対応/終日)
 2. 発熱、倦怠感のみならず、胃腸炎も感染症として扱う
 3. 待合室の椅子も密を避けるため、座れる箇所を制限
 4. 本棚、ウォーターサーバーの使用中止
 5. 定期的な換気(排煙口を利用)

結果

当初は、案内が行き届いておらず診察をお断りをすることも多く、ご迷惑をおかけすることもありましたが、徐々に浸透し、今ではお断りはほとんどない状況です。
ただ、開始当初は多数いた患者数も、「緊急事態宣言」中のStay Home、外出自粛となってからは、どんどん減ってしまい1桁が続きました。そこで、1時間半から1時間とし、現在は30分の診療受付時間で運用しております。

新患及び既存患者対応

当時の現状

感染が拡大してくるにつれ、来院控えで外来数が減少してきました。前述の通り新患数で7割減というものでした。そのような状況下、3月3日の通知で、「電話再診料(73点)で処方が可能」となりました。また、4月10日の事務連絡で「初診から電話等を用いた診療が可」となりました。従来のオンライン診療料(71点=施設基準届出要)と違い、特例で214点という初診料が作られました。

対策

来院を控える患者様のため、3月8日からは電話での処方に対応しておりましたが、初診が解禁されたので、いよいよオンライン診療(特例)の検討を始めました。前述の通り、大きな設備投資はせず、ミニマムスタートとしています。
オンライン診療の申し込みはHPからとし、今まで利用していた順番管理システムと連動し、予約管理が出来るようにしました。カード決済も可能としました。また、処方については、3パターン用意しました。

 1. 院内薬局(取りに来て頂く)
 2. 院外薬局(処方箋をFAXor郵送)
 3. 院内処方にて郵送

割合としては、「6:2:2」となっており、取りに来る割合が多いです。やはり「近いので取りに行く」「早く薬を服用したい」というところがあるようです。一方、慢性疾患の方だと、郵送が多くなっています。残薬に余裕のある状態で診療を受けていることがわかります。現在は、やはり来院を避けての感冒症状の方が利用されているケースが多く見受けられます。感染者もある程度の落ち着きを見せておりますので(、待合室の様子をみても、来院されている方が増えています。

ある意味、「えいや!」で開始しましたので、いろいろと不具合や手間も出ています。このオンライン診療は恒久化の話題も出ておりますので、まだまだ効率化できることを進めていきます。このオンライン診療(特例)には東京都からの補助金(40万円上限)もありましたので、電子カルテ用のパソコンやスマートフォン周りの機器整備に使いました。実際の振込は来年とのことですが、うまく活用できたと考えられます。余談ですが、感染対策についても補助金があり、受付のアクリル板の設置などを行うことができました。定期的に補助金の確認をする、情報収集をするのも大事な業務です。

減収対応

現状

今年の3~4月、外来患者が激減し、このままでは倒産してしまうのでは?という危機感のもと、「発熱・かぜ様症状外来」「オンライン診療」を進めてきましたが、赤字は解消できていません。

対策

患者数の戻りはすぐには見込めないため、現状でも来て頂いている患者様の診療単価を上げることを考えました。患者数が少ないので、お一人お一人に向き合える時間が増え、結果的に診療の質が向上するという副次的効果も狙っています。

対応と結果

今年は、4月に診療報酬改定がありましたので、例年通りの勉強会を講師に来て頂き、スタッフ全員で行ったのですが、それとは別に、医師向けにも講習会を実施しました。内容は、「カルテの記載内容がどういう点数に繋がるか」とし、意外と知られていなかった点数を専門家より教えて頂きました。その結果、取り組んだ施策として、

 1. 診療情報提供料の算定
 2. 検査を増やす(エコー、血圧脈波、血液検査)
 3. 特定療養疾患管理料の算定

を行いました。特に診療情報提供料については、今までの検査値異常や手術依頼での高次医療機関への紹介に加え、内視鏡検査依頼、糖尿病患者の眼底検査、心療内科コンサルトなどで地域の医療機関への紹介が増え、図らずも「診診連携」が深まりました。また、今までは算定出来ませんでしたが、今年の診療報酬改定でいわゆる「返書」でも「診療情報提供料3(150点)」が算定可能になりましたので、先方にもメリットがあるものと考えております。
(※この点数は「かかりつけ医機能を有している診療所(地域包括診療加算等を算定している)からの紹介」への返書となりますので、注意が必要です)

紹介状を記載する医師のみならず、検査が増えたことによりスタッフの手間もかかりましたが平均150点ほど、上げることができました。

まとめ

このコロナウイルス感染症は、医療機関に大きな変化をもたらしました。件のクリニックも開業当初と違い、ここ数年はどこか旧態依然としたクリニックで、新しいことに手を出すことに不安から先に入り、避けてきたところがあり、いろいろと苦労したこともありましたがが、発熱・かぜ様症状外来やオンライン診療には、自ら積極的に改善に取り組むことにつながり、結果として意識改革が起こりました。

このような急激な外部環境の変化に対応するには、院長のリーダーシップが重要です。院長がはっきりと意思表示を行うことで、スタッフにその「想い」が伝わり、不安を和らげ、少しずつ変化に対応する意欲を醸成していくように感じます。

新型コロナウィルスの収束の見通しは立っておらず、医療機関経営はまだまだ厳しい状況が続くことが予想されます。目まぐるしく外部環境が変わる可能性も高いため、現状を短い期間で都度把握し、その時に患者様に何ができるかを考え、スタッフにも伝えることが重要だと考えます。また、スタッフも様々な不安を抱えながら仕事をしています。職員が安心して安全に働ける環境をつくることも大切ではないでしょうか。

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