2020/05/08/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
新型コロナで「医療崩壊」は確実に起こります。というか、すでに起こり始めています。当社は(一応)医療機関経営の専門コンサル会社なので、その観点からご説明させてください。
元々新型コロナでの「医療崩壊」は、武漢、イタリアで起こったようにコロナ患者が一気に増えて、病院が収容しきれず、ECMOや人工呼吸器装着の「命の選択」を迫られる状況を意味していたはずです。日本の場合は、幸いまだその状況には達していません。医療機関の頑張りに加え、自粛が効いたとか、元々掛かりにくいという説もありますが、科学的に検証はされていません。
一方、違う形の「医療崩壊」は確実に起こっています。
(1)予期せぬ院内感染により病院自体がクラスター化してしまった場合。(永寿総合病院等)
(2)スタッフ若しくは入院患者にコロナ感染者が出て、外来、手術、病棟の一部を閉鎖している場合。(随所に見られます)
(3)コロナを受け入れなくてはならないので、病院機能を縮小し、手術等を断っている場合。(随所に見られます)
(4)スタッフ(特にママさん看護師、外勤で来ていた非常勤専門医)が足なくなった機能縮小(随所に見られます)
(5)また今後はスタッフの退職により、更なる機能縮小が始まるでしょう
新型コロナ対策で病院に掛かる手間は大変なもので、特に受け入れている病院は莫大な医療資源(場所、スタッフ)をコロナ対策に取られてしまいます。その結果、脳卒中、心臓疾患、癌治療等の通常の診療が止まりつつあります。
今、交通事故を起こしたら助からないかもしれないので、バイク等に乗られている方は十分に注意してください。(うちは息子には、そう言っています)
更に、「経営的な医療崩壊」が追い打ちをかけます。今、全国の病院・医院が経営危機に喘いでいることをご存じでしょうか?コロナ患者がいっぱい来て、潤っているのではないかと思われるかもしれませんが、そんなことは全くありません。
病院と医院に分けてご説明します。
1)病院の場合
病院の利益率は非常に低く約7割が赤字です。
「経営者が医者で、経営を知らないから」と言われることが多いですが、実際は診療報酬が低いという構造的な要因の方が大きいです(その証拠に企業立病院はほぼ全件赤字で、かつ赤字幅は莫大)。しかも病院は、建物、医療機器、施設基準で定められている人件費等の固定費が高く、稼働率が落ちると一気にドボンします。
ところが、コロナで稼働率が落ちています。外来は2-3割減、病棟もコロナで場所や資源を取られ稼働ダウン、その他手術等も減らすので更にダウン。これで感染者でも出たら、風評被害も含めて完全にアウチです。
2)診療所の場合
診療所の診療報酬は比較的高く、固定費もそう高くないのでいきなり潰れることは少ないです。ただ、外来患者数は確実に落ちています。
・都心のビル診だと、半減以下は普通。通常の1~2割というクリニックも少なくありません(しかも、飲食店でないので家賃減免対象になっていません)。
・郊外、地方でも2~4割減は減っています。
・都心、地方を問わず小児科は激減しているそうです(親御さんたちが気にされるからでしょうね)。
今回、コロナ対応特例措置で電話・オンライン診療がOKになりました。約1万件(全体の1割)が参加していると聞きました。これは如何に困っているかを表しています。 「オンライン診療があれば、いいじゃない?」と思われるかもしれませんが、きっちり診ると一人当たり30分近くかかり、診療報酬は対面の7~8割です。
3)病院、診療所共通の課題
保険診療の単価が低いので、多くの病院・診療所の経営を支えてきたのは自由診療の健診です。ところが、人間ドック学会による「自粛要請」もあって、都心郊外では健診はほぼ完全にストップしています。経営的なダメージは莫大です。
在宅医療は患者数は落ちていませんが、施設や居宅にコロナを持ち込むのではないか、と神経をすり減らして診療しています。また、デイサービス等を併設している場合は、稼働は大幅に落ちたり、休止しているところもあります。
当社では医療機関のMAも扱っているのですが、地方を中心に売却希望が激増しています。日々経営的に弱っていたのが、とどめを刺されたのでしょうか。買い手がつけば地域医療は守られますが、この状況下では売れない医療機関も多いでしょう。その結果、地域医療は崩壊しかねません。
どうやれば、このような「医療崩壊」を防ぐことができるか。色々な方策はありますが、まずはこのようなことが起こっていることを知っていただくことが大事と考えています。対応策はまた後日まとめます。莫大な公的資金を 投入してと書かれている方もいますが、そんなことをしなくてもできることはあると考えています。
執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)