2020/04/24/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
メディヴァ海外事業部
コンサルタント 鮑 柯含
目次
現在、新型コロナウイルス感染症が世界中に大きな影響を与えています。その中で、その発端となった中国はどのような対応しているか、日本とはどのような違いがあるのでしょうか。
横浜にクルーズ船が寄港してから、日本のコロナウイルス対策は中国からも注目され、SNSでは色々な賛否の声があがりました。このシリーズでは、中国がとった主な対策のうち、ロックダウンを除く、「オンライン診療」と「伝統医学の介入」を、日本との比較を交えながら取り上げます。
日本でも、コロナの感染拡大に伴う、オンライン診療の規制緩和が進められていますが、今回は両国の違いも踏まえながら、中国の「オンライン診療」を紹介します。
中国において、新型コロナウイルスの感染爆発は、医療機関に大きな2つの影響を与えました。1つは、多くの発熱や風邪の患者が、自分も感染しているのではないかと心配し、病院に殺到していることです。これにより、すでに感染している患者が十分な医療を受けられなくなると同時に、感染していない人も医療機関に来ることで人との接触が増え、かえって感染リスクが高まる結果となっています。もう1つは、従来の慢性疾患を持つ患者が病院に掛かりにくくなり、今まで通りの診察や処方薬が受けられなくなります。
そのような状況下、中国のオンライン診療において重要な役割を果たしているのは、「Ping An Good Doctor(平安好医生)」、「Ding Xiang Doctor(丁香医生)」、「アリヘルス(阿里健康)」、「微医」などのオンライン診療業者です。
医療資源の不足を解消すべく、武漢市政府は、オンライン医療提供業者に協力の要請を出しました。1月26日には、武漢市衛生健康委員会とPing An Good Doctorで、オンライン無料相談窓口を開設しました。その後、国家衛生健康委員会(日本でいう厚生労働省のようなヘルスケアに統括する最高権力機関)からも、「IT化による新型コロナウイルス肺炎予防とコントロールに関する通知 」が出され、各医療機関がオンライン医療プラットフォームを活用し、オンライン相談や軽症患者の在宅指導を進めました。
同通知では、新型コロナウイルスに限らず、生活習慣病などの一般的なよくある病気などのオンライン診療も提供するようにと呼びかけています。ただしこの時点では、オンライン診療は従来通り、医療保険適用外のままであり、診療や医薬品にかかる費用は全額患者負担となっていました。
そこで武漢市や上海市などは、政策を改訂し、2月末頃から、医療機関が主体となり行うオンライン診療だけでなく、オフラインの医療施設を持たないオンライン診療業者についても、一部は医療保険の適用を認めることとしました。医薬品も、保険適用の提携薬局から発送すれば、患者は自己負担分のみの支払いとなります。
そして、3月2日、3月5日と続いて、国家医療保険局、国家衛生健康委員会から「新型コロナウイルス期間“インターネット+医療”の医療保険に関する指導意見 」、中央国務院から「医療保障制度改革に関する意見 」などで、オンライン医療の保険適用化が推進されました。また、全国の医療情報の共有や管理、ビッグデータの開発によるサービス強化などの、今後の指針も出されました。
新型コロナウイルスの流行以来、もっとも活用されたのはPing An Good Doctorだと言われています。同社は「AI問診→医師による診察と相談→処方→医薬品の配達」までの一連のサービスを、24時間体制で提供しています。
1月20日から2月10日までに延べアクセス数が11.1億人になり、直近4月8日からは対象を国外にも広げ、WeChat、LinkedIn、Twitterなどを通じて外国人向け英語相談窓口も開設しました。
一方、日本のオンライン診療は、まだまだ浸透していないと言われています。その原因として、次の2つが考えられます。
第一に、日本ではオンライン診療の提供者、いわゆる「Provider」が少ないのではないでしょうか。中国の場合、いくつかのオンライン診療業者は、システムやプラットフォームだけでなく、自社で医療関係者を確保し、医療行為を行う、医療サービスの「Provider」でもあります。たとえばPing An Good Doctorは、定年退職後のトップレベルの医師を含め、自社に1,000人を超える医師を雇用しています。また、他の医療施設と契約し、外部医師5,000人以上とも提携しています。
これに対し、日本のオンライン診療業者は、遠隔診療システムの提供にとどまり、医療行為の主体はあくまでも各医療機関です。システムを医療機関の負担により導入し、そのシステムを介して診療を提供しなくてはならないため、日本では、導入する医療機関は限られ、「Provider」が必然的に少なくなります。
第二には、日本の保険診療が、厚い壁となっているのではないでしょうか。中国のオンライン診療は、実は今まで、保険診療に対応していませんでした。中国では、良い医療を受けるなら、自費診療が当たり前だと考えられているからです。
中国のトップレベルの公立三甲病院(病院のランク付けシステム、三級甲等は現在の最高レベル)は、夜中から並んでも受けられないことや、常に混んでいることが長らく課題となっています。そこで、一部の公立三甲病院が国際医療部やハイエンド窓口を開設し、UNITED FAMILY HOSPITALなどの外資系病院が進出してきましたが、その医療費は全額自己負担です。トップレベルの医師が、自分のファミリードクターとして、いつでも相談できたり健康データに基づく個別アドバイスをしてくれたりするようなサービスは、普通に病院に掛からなくてもオンライン診療によって実現できます。このような便利なサービスが自費であることに、中国の人々はあまり抵抗感がありません。
また、日本は医療行為に対して「自費」か「診療報酬」かが区分されていますが、中国はそういった規制もないのです。
以上、今回は中国のオンライン診療ついて紹介しました。
中国は、オンライン診療が急速に進められ、多くの人々が手軽に医療にアクセスできるようになりましたが、今後は品質管理や悪用防止など業界の規範化が必要となります。一方で日本は、多くの患者をいかに病院に集中させず、必要な医療を受けられるようにするかという課題に直面していくと思います。
メディヴァでも、多くの医療機関から、「どのようにオンライン診療を始めたらよいか」など多くのお問い合わせをいただいております。それについては、以下の記事をご覧ください。
次回は、中国の伝統医学「中医」による、新型コロナウイルスへの取組みについてご紹介します。
執筆者:鮑 柯含 Kehan BAO
株式会社メディヴァ コンサルタント。
中国上海出身。中国華東理工大学ソーシャルワーク学科卒業後に来日。日本女子大学、精神科ソーシャルワーカーについて研究。医療と社会福祉の円滑な仕組みを構築し、高齢者事業を中心に中国と日本の双方に貢献したく、2015年に入社。 入社後、日本の経験を活かした海外での健診センター、高齢者事業の設立などを担当。