2021/02/02/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

「良い採用」のための3つのポイント~医療業界の事例紹介~

コンサルティング事業部 伊藤悠紀

はじめに

 医療業界の人事の特徴として、離職率が高い、人件費率が高い、というものが挙げられます。離職率は平均で15%1)と言われており、宿泊・飲食業・娯楽業、その他サービス業に次いで4番目に高い水準となっています。また、一般病院(医療法人)の場合、人件費率は平均値で収益比率56.7%と売上の半分以上を占めている一方、医業利益率は2.8%と低いことも特徴です2)。中小の医療機関では、わずか数人の採用による人件費増が経営的に痛手になるケースも存在します。つまり、人の入れ替わりが多いため定期的な採用を行う必要がある一方で、人件費率が高く利益率が低いため、採用は経営戦略上非常に重要なポイントとなります。

 それでは、良い採用とは一体どのような採用を指すのでしょうか。筆者は、「採用によって解決すべき明確な課題を持っている状態で、求める人材とマッチした人材を採ることができる採用」を「良い採用」だと考えています。ミスマッチの採用となると、採用によって解決したかった課題が解決されないだけでなく、不要な人件費増につながる可能性があります。本稿では、良い採用のためのポイントのうち、特に筆者が大切だと思うものを3つご紹介したいと思います。

「良い採用」のための3つのポイント

 筆者が考える良い採用の実現に向けたポイントは、以下の3つになります。
(1) 採用が必要な部署の業務を調査し、課題を明確にする
(2) 自院の特徴を具体的に掴み、ありのままの情報を発信する
(3) 面接では、求職者の本音を引き出す工夫をする
 これら3つについて、順に解説していきます。

(1)採用が必要な部署の業務を調査し、課題を明確にする

 現場からの増員の希望や退職等で欠員が出れば、すぐに採用計画作成に取り掛かりたくなるかもしれませんが、具体的な採用計画を考える前にやるべきことがあります。それは、目の前にある問題の解決方法は本当に採用なのか、を考えることです。現場から「業務が大変で人が足りない」「規模を拡大するなら今の人員のままでは難しい」という問題が挙がってくることは良くあることだと思います。ただこの問題に対して、「採用で人を増やす」という単純な解決策を用意することは危険です。この問題の本質が「マンパワーの不足」という課題であれば採用という方法が選択されますが、「生産性の不足」という課題であれば業務改善という方法が選択されるべきだからです。そこで採用計画作成の前に、現場の業務を調査して採用以外の方法での解決は可能かどうかを見極めることが大切です。この作業を行うことで課題がマンパワーの不足だと特定ができた場合、いつ、どんな業務でマンパワーが不足しているかがはっきりするため、どのような人柄・スキル・経験を有した人材が必要なのかが明確になるという効果もあります。

 筆者が関わっている透析センターをもつ支援先の例を紹介いたします。こちらの病院の透析センターは増患傾向であり、規模拡大を計画しておりましたが、現場からは現状でも既に人手が足りないという声が聞かれました。人手が足りないという問題をより具体的に掴むために、現場の業務の状況を確認したところ、実は特定の時間帯が非常に忙しく、一日の中で業務量に偏りがありました。そして、最も忙しい時間帯でのみマンパワーが不足しているということがわかりました。つまり問題の本質は特定の時間帯における多忙さを解消することだったのです。特定の時間帯における多忙さを解消することを課題として設定すると、業務の無駄を減らして生産性を向上させることや他部署からのヘルプをお願いする等の方法でも課題解決が可能であったため、結果的に増員をせずに課題を解決することができました。

(2)自院の特徴を具体的に掴み、ありのままの情報を発信する

 課題を明確にし、業務改善等、採用以外の方法による解決の可能性も検討した上で採用が必要な場合は、いよいよ採用計画を作成します。採用計画では、いつ、どのような人を、何人必要なのかを具体的に決定します。採用計画が決まったら募集要項を固め、募集をかける求人媒体を決定すれば、募集開始となります。ミスマッチの採用を減らすためには、この募集要項を作りこみ、自院をありのままに発信することがポイントとなります。

 募集要項は、仕事内容、労働条件、会社の情報、選考情報などといった項目から成ります。求人媒体によってフォーマットが決まっていることもありますが、自院のホームページはもちろんのこと、求人広告や紹介会社の情報サイトでも、多くの場合自院のPR等を記載することができます。ここで、自分の病院の特徴をありのままに発信することが大切です。また紹介会社を利用する場合、エージェントには自院が他院と比較して見劣りする部分や、マッチする可能性が低い人材についても含めて、包み隠さずに伝えておくと良いと思います。「このような方は当院には馴染みにくい」と伝えることは、自ら募集の間口を狭めているようで、意外とできていないことも多いかもしれませんが、ミスマッチを防ぐうえでは非常に大事な点になります。

 ありのままに情報を発信するためにやるべきことは、自院の特徴を詳細に、具体的に掴むことです。自院で働くことで、経験できることとできないこと、教育体制や自己学習時間及び勉強方法、残業の状況、職場の雰囲気、場合によっては細かい業務フローなども知っておくと良いと思います。そして調査した内容を使って、「勉強意欲の高い職員が多く自主的な勉強会を多く開催している」「ライフワークバランスを重視している職員が多くメリハリがはっきりしている」といったように、職場の特長としてまとめられると情報発信しやすくなるかと思います。これらの調査は、求職者の立場だったらどんなことを聞きたいかを考えながら行うと、より的確にできると思います。また職種によっても職場選びの際に重要視する事項に傾向がありますので、おさえておくと良いと思います。例えば新卒の理学療法士であれば、上司のリハビリに対する理解や教育指導体制といったものが就職決定因子として重要性が高い3)と示した報告がされています。筆者の経験上でも、リハビリ職の面接時に教育体制についての質問されることが度々ある印象です。また、言語聴覚士の求職者からは嚥下造影検査の可否が質問されるケースが多くあります。自院の状況と求職者が求める条件の傾向を抑えた上で、求人媒体での情報発信や紹介会社エージェントとのコミュニケーションに活かしていただけると求める人材に出会いやすくなるかと思います。

(3)面接では、求職者の本音を引き出す工夫をする

 面接は、求職者の就職目的及び特長と職場の採用目的及び特長が合致しているかを直接確認できる貴重な機会です。そして、この機会を効果的に活用するためには、求職者から面接用に周到に用意された想定問答ではなく、いかに本音を引き出すかが大切だと考えております。求職者にも就職することで達成したい目的があるはずですが、選考となれば合格したいと思う気持ちが大きくなるので、本音から外れても面接で喜んでもらえそうな受けがいい回答を探してしまうことが多々あります。しかしそれでは、求職者の就職の目的が理解できず、結果としてミスマッチに繋がってしまいます。

 求職者の本音を引き出す工夫として筆者が行っていることをご紹介いたします。

・ 面接の導入
面接の導入タイミングでは、アイスブレイクをしつつ、面接はこちらが一方的に求職者を評価する場ではなく、この採用・就職でお互いに目的が達成できるかを見定める時間にしたいという意図を伝えています。対等にお話しをしましょうという場を意識的に演出することで評価されるというプレッシャーから多少でも解放され、本音での話がしやすくなれば良いと思っております。

・ 面接中
面接中においても、なるべく対等なお互い様の雰囲気を作れるよう工夫をしています。求職者1人に対し、面接対応者は複数いることも多いので、求職者対面接対応者という2方向性の構図になると、どうしても求職者が不利な雰囲気が生まれてしまいます。そこで時には筆者から面接対応の管理職(例:看護部長)に対して「最近の看護部の残業時間はどうですか?」といったような求職者からは聞きにくいであろう質問をすることで、参加者全員でディスカッションをしているような雰囲気を作れるよう意識しています。

・ 面接後
面接実施後に病院を案内する時間を設けるようにしています。案内しながらあえてラフに会話をすることで求職者も少し緊張から解放されて本音での会話が出てきやすくなる傾向にあります。
これらは筆者が行っている一例ですが、求職者が過剰に緊張してしまわない工夫を試行錯誤してみることをお勧めいたします。

最後に

 「良い採用」のために意識すべきポイントを、現場の事例に触れながらお伝えさせていただきました。自院に興味を持って下さった求職者に対して、自信を持って一緒に働きましょうと声をかけることができるようになるためには、採用担当者自身が、自院に関心をもって、自院の強みや特徴が何かをしっかり把握することが大切です。その過程を通して自院をもっと好きになり、活き活きと採用活動に従事していただければ、良い結果にも繋がるのではないかと思います。

■参考
1)大石佳能子、小松大介:病院経営の教科書. 日本医事新報社, 2015, 64-65.
2)政府統計の総合窓口(e-Stat) 2019年医療経済実態調査(https://www.e-stat.go.jp/)
3)石坂正大他:理学療法学部生の就職決定因子 ―主成分分析による検討―. 理学療法科学, 2017, 32(4), 531-536.

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