2021/07/29/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院物流調査から業務改革へ

コンサルタント 中小企業診断士 佐々木一弘

病院の物流調査とは?

メディヴァでは日々様々な病院や診療所、医療系企業と経営や運用の改善、マーケティングなどの業務支援を行っています。そんなある日、クライアントから「院内の物流調査をしてみたい」と言われました。

院内物流の定量調査は病院の建替え計画段階でよく行われますが、健康診断のように定期的に実態調査を行うことがおススメです。費用削減はどの病院にとっても悩みの種ですが、物流を見直すことで費用削減や業務改善につながる可能性があります。

今回は院内物流の概況とここから広がる業務改革についてのお話しです。

1 院内物流調査は病院の健康診断

物流調査は病院の健康診断です。私たちが毎年健康診断を行うように、病院の物流も定点観測することで病院の健康経営に活用できます。

物流調査によって、自院の物の流れと共に人(職員)の流れも明らかにすることで、業務のムリ・ムダが見え、ここから業務改善や費用削減につながるからです。

とはいえ、病院の規模が大きくなるほど病院内の物の流れは複雑になるため、自院の物流状況を構造的・定量的に把握することは難しくなります。

また、把握できたところで、実際どのぐらい成果があげられるのかわからないし、調査も大変なので、なかなか手が付けられないのではないでしょうか。そこで、できるだけ手間ヒマかけずに調査する方法とその成果がどうなのか、事例を交えてご紹介します。

2 手間ヒマかけず物流調査

院内物流調査は365日稼働している病院側の負担も大きくなるため、調査の視点を明確にしたうえで、(1)ヒアリング方式、(2)アンケート方式、(3)調査票方式などを組み合わせて行います。以下に、各調査の方法と各調査方法に適した調査対象を例示します。

調査の視点(例)

いつ(何時に)●誰が●何を●どこからどこに●なぜ(緊急・臨時・定時)●搬送にかかった時間 など

調査票による実態調査期間はまるまる2~3日かかり、調査対象物品は診療材料や薬剤、検体や血液製剤など多岐にわたります。また対象者も医師、看護師、医療技術者など多くの院内関係者の協力が必要となるので、複数回の説明会や各部門への訪問説明を行います。

メッセンジャー(配送専門職員)等による「定期搬送」については頻度やルートが比較的明確であることが多いため、アンケートとヒアリングを組み合わせた簡易法、それ以外の「臨時搬送」や「緊急搬送」を調査票方式とするなど、出来るだけ「手間ヒマかけない」やり方で病院側の負担を減らします。

3 搬送物の傾向をつかんで業務改善へ

今回の調査病院は500床超の急性期病院でしたが、1日当たり50時間(累計)の搬送が発生しており、7割を看護部門が担っていたことから、メッセンジャーのさらなる活用が示唆されました。

病院内の搬送は看護部門によるものが63%を占めており、メッセンジャーの更なる活用が示唆された

また、搬送物は薬品が3割強、検体が3割弱ありましたが、伝票や書類だけの搬送も3割弱発生しており、一層のペーパーレス化が示唆されました。

「搬送に投入される費用」は主たる業務に隠れて見えにくいものですが、このように実態調査を通じ具体的な搬送時間が把握できると、その費用(搬送者の時間給などで換算)も見えるようになってきます。

搬送割合の高い部署の業務内容をECRSのフレームワークで整理しながら院内ワーキンググループで業務改善を検討することもできます。

4 実態調査でコスト効果の高い物流改革を

物流実態調査の結果を根拠資料として活用することで、コスト削減効果の高い業務(改善ボリュームゾーン)へ集中的に経営資源を投下することができます。

今回の院内物流調査では、SPDや滅菌、リネン、薬剤など外部委託業者へのアンケートやヒアリング調査も同時に行うことで、総合的な物流運用の見直しが示唆されましたが、このような調査手法は医療機器や備品などの資産管理にも範囲を広げた応用が可能です。

病院の物流を「物の配送」という点の捉え方から飛び出し、運用業務の改善、調達物品の適正管理(数量×価格)、医療機器などの大型投資更新計画のような将来計画までつなげて考えてみると、まだまだ改善の余地がある分野だと感じます。

物流調査を通じ、院内全体での業務改善・コスト削減につなげていただけたらと思います。

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