2020/01/14/火
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルタント 忠 竜宏
目次
人工透析においては診療報酬改定の度に単価は引き下げとなっており、単価ダウンの傾向は変わっていません。その減収分をどのように補っていくかはどの透析施設においても悩まれていることではないでしょうか。その1つの手段・対策として透析患者をしっかりと集患していく体制づくりは今後より大切になります。今回は実際に私がご支援している透析施設を例にどのように透析患者の集患に取り組まれているかについて触れていきたいと思います。
透析施設を運営していく上で透析収益の状況を常にモニタリングしていく必要があります。透析部門の収益は「単価」×「透析患者数」×「1人当たりの透析回数」にざっくりと分解できます。透析回数については、患者さんの症状・状態により異なりますが週3回、月に13回程度透析を実施されている方が多いと思われますので、ここでは「単価」と「透析患者数」の状況についてまず触れたいと思います。
2018年度の診療報酬改定では、透析時間により異なりますが人工透析1回あたりの点数が30~35点引き下げられています(慢性維持透析1の場合)。透析1回あたりの単価が30点引き下げによる収益への影響は非常に大きなものとなります。透析患者1人あたりで考えた場合、30点×透析回数13回/月×12ヵ月に相当するので、年間4,680点(46,800円)の減収になります。透析施設により数十人から多い施設で数百人の透析患者さんを診られていますので、減収額は数百万円にも及びます。
この単価下落の傾向は今回の改定に始まったことではなく、2008年度改定時に透析時間別で診療報酬が設定されてから診療報酬改定がある毎に点数が引き下げとなっています。今後の改定でも同様のマイナス改定が行われる可能性が考えられます。
2017年日本透析医学会統計調査報告書によると、2017年12月31日時点の透析患者数は334,505人となっており、2017年度時点においても透析を必要とされる方は年々増加し続けています。ですが、新規導入患者数をみると年によっては前年よりも新規導入数が少なくなっている年もあり、新規導入の成長率は鈍化傾向にあります。日本透析医学会では2021年の約34万9000人をピークに透析患者数は減少するとの報告もなされています。
図:慢性透析患者数と新規導入患者数の推移(参考:日本透析医学会)
厚生労働省は2018年7月に、2028年までに年間新規透析導入患者数を3万5000人以下に減少させるという「腎疾患対策検討会報告書–腎疾患対策の更なる推進を目指して―」を公表しました。国としても生活習慣病対策などに早めにアプローチを行い、いかに透析を導入しないようにするか力を入れているところでもあります。
人工透析の単価が下落している中で、透析患者数がこれからも増え続けていくとは限りません。単価ダウンによる減収分を補うためにどのように透析患者数を増やしていくか、いかに維持していくかはどのご施設でも考えられていることかと思います。次の章にて、患者集患のアプローチについて考えていきたいと思います。
透析患者さんに自院を選んでもらい、通院(入院)してもらうためのアプローチ方法を、下図から考えてみたいと思います。基本的に集患の経路としては(1)外来に直接通院されるケースと(2)他院から紹介をいただき受け入れるケースに分けられます。(2)のケースに関しては他施設との「連携」ということになるので、自院の持っている機能によって、どのようにPRを行っていくかが重要になります。
直接自院の外来へ通院していただくためには患者さんに自院を認知してもらうことが最も重要です。そのためにも、1度自院の患者さんにどこで当院を知ったかアンケートを行ってみるのは有効な手段です。既存のPR方法のどこに強みがあるのか、課題があるのか現状の把握をした上で次のアプローチに繋げることが可能です。
例えばホームページの充実は来院経路の1つのきっかけとして有効な方法となりますが、表示・記載の仕方が重要になります。保存期の患者さんが、自分がいきなり透析になると思って透析をキーワードにネット検索をされる方は少ないでしょう。血尿がでた、尿が泡立つなど患者さん視点に立ち、わかりやすい症状で記載してあげることも大切です。患者さんにとってわかりやすい情報を記載してあげることで検索にヒットしやすくなる可能性も高まります。
他院から紹介をいただくためには、自院の機能をしっかりと他施設に知っていただくことが重要です。例えば腹膜透析や在宅透析を選択することができる、シャント造設を行うことができる、比較的症状の重い患者さんも入院受入れができるなど他施設の方が自院の機能をしっかりと認識できていないケースなどもあります。そのため、他施設へのご挨拶など営業回りを行い、機能を認知していただくともに、顔の見える関係を築くことも大切になってきます。
実際に私がご訪問させていただいているご施設では、保存期・導入期・透析期(特に入院透析)でそれぞれのステージの患者さんを他院から紹介いただくために営業チーム(渉外部門)を設置し、挨拶回りを開始したことで紹介に繋がり、月当たりの透析回数が増加しているご施設もあります。実際にどのように活動を行われているか次章にてご紹介します。
私が支援しているA病院様は保存期からシャント造設(導入期)、入院対応を含む維持透析(透析期)まで対応されており、透析領域の強化を方針として打ち出されておりました。透析患者さんをしっかりとフォローしていくための機能はありましたが、他院から紹介が多いという訳ではなく、自院機能のPRが不十分という点が課題でした。具体的にはPRツールがホームページのみとなっており、病院パンフレットなどもなく、誰が広報ツールを作成し、どのようにPR活動を行っていくかという役割が明確ではない状況でした。このような状況では地域住民や外部医療機関の方がホームページを通して、能動的に情報を集めない限り、自院や機能を知っていただく機会はないことになります。A病院様において、このような状況を改善させるために立ち上げたのが営業チームになります。
営業チームの役割はPRツールの見直し、外部医療機関へのPR(営業活動)の2つと位置付けています。目的は「自院の機能をしっかりと認識いただくことで他院からの紹介数を増やす」ということであるため、外部医療機関へ訪問する際にどのようなツールがあれば、自院をPRしやすいかという視点から、まず病院パンフレットを作成し、他施設への営業・挨拶回りの際にパンフレットをお渡しし自院の特徴や強みをご説明することとしました。
営業チームの立ち上げにあたり、どのようなメンバー選定を行うか検討をする必要があります。A病院様では、1つの部署のスタッフで固めるのではなく、複数の部署から数名選出いただく形で営業チームを立ち上げました。パンフレットの内容を様々な視点から検討できるようにするためです。また、外部医療機関へのPRの役割も考え、紹介の窓口になる地域医療連携室や医療相談室で勤務されているソーシャルワーカーや透析領域に詳しい看護師の方もメンバーに入っていただきました。
営業チームメンバーの職種例:看護師、臨床工学技士、MSW、事務スタッフ
過去に紹介いただいているご施設の情報をピックアップします。様々なご施設からご紹介いただくケースもあるかと思いますが、普段から多くの患者さんをご紹介いただいている医療機関や過去と比較し直近で紹介件数が減少しているご施設など、紹介状況を把握することは大切です。実際にご挨拶に伺う施設の優先順位を決めていただく判断材料にもなります。A病院様では保存期、導入期、透析期のそれぞれのステージにおいて、ご紹介の多い医療機関をまずピックアップし、お礼回りをきっかけとして営業回りを実施することに決めました。実際に各ステージ別で下記のご施設を中心にピックアップをしています。
保存期:対象としては周辺地域の糖尿病クリニックや内科クリニック
導入期:シャント造設依頼の多い病院やクリニック
透析期:在院日数の関係などで出し先に困っている可能性のある急性期病院
営業先をピックアップした後は実際に他施設にご挨拶に伺います。事前にご訪問のアポイントを取り、あらかじめ訪問スケジュールを立てることで計画的に実施することが大切です。訪問の際には過去の紹介のお礼や自院のパンフレットをお渡しし、自院の機能をご説明いただいています。また、PRを行うだけでなく、訪問先施設のお困りごとなども聞いていただき、より良い関係づくりに努めていただいています。
A病院様の場合、具体的に下記のような形でそれぞれご施設に営業を実施しました。
I.糖尿病専門のクリニックや内科クリニック
糖尿病専門のクリニックや内科クリニックについては、A病院から近場のクリニックをまず優先的にピックアップしご挨拶回りを実施しています。上記クリニックにおいては将来的に腎機能が低下し、透析を導入する可能性のある方を診察されているため、自院のパンフレットなどを持参しPRを行っていただいています。透析患者さんの場合、お住まいの地域から近場の透析施設を選択される可能性は高いと思われます。その他にも送迎を実施している、腹膜透析を実施しているなど様々な選択要因があると思われますが、周辺医療機関の先生方にどのような治療体制かご認識いただくことで、ご紹介に繋がるケースも増えてきました。
II.透析病院や透析クリニック
透析病院やクリニックについては、過去の紹介実績などを調査し、ご紹介数の多い施設から優先的に過去のご紹介のお礼も兼ねて、ご挨拶回りを実施しています。A病院様の場合、シャント造設・PTAなどのオペを実施されているため、シャント関連の手術に関わるPRを中心行っていただいております。A病院様のケースですと、直近で紹介数の多い病院・クリニックを中心に営業回りを実施しておりますが、過去と比較し、直近で紹介数が減少しているご施設をピックアップし、ご挨拶に行っていただくことも紹介数アップの視点では大切になります。
III.急性期病院
A病院様では透析患者さんの入院対応も実施されているため、お困りごとを聞きにいくというスタンスで急性期病院を訪問いただくこともあります。急性期病院の場合、身体症状の悪化などにより治療を実施し、病状は安定したが、引き続き入院加療が必要な透析患者さんの退院先でお困りのご施設もあるようです。実際に自院でどのような症状の透析患者さんであれば、入院対応が可能かを伝えることで、自院の機能を再認識いただくことになり、入院紹介に繋がるケースもあります。
A病院様では現在でも定期的に外部医療機関への営業回りを行っていただいております。他職種でチームを構成したため、通常業務以外の部分で集まり、ツールの作成・営業回りを実施いただく時間確保が大変ではありましたが、活動スケジュールに沿って実施いただいたこともあり、少しずつ紹介数も増えてきました。
行われていることは非常にシンプルに感じられるかもしれませんが、実際に顔の見える関係を築いていただくことが非常に重要です。「そういえばこの前挨拶に来てくれたな」とご訪問先のスタッフの方に覚えていただけることで紹介に繋がるケースもあります。挨拶回りなど営業的な動きは少し抵抗があると感じられるかもしれませんが、まずは自院の集患の強みや課題はどこにあるのか、どこの医療機関と連携をしっかり取れているのかなど現状を把握してみることから始められた上で、自院のPR方法の検討を行われてみてはいかがでしょうか。
執筆者:忠竜宏 Tatsuhiro CHU
株式会社メディヴァ コンサルタント。新潟県出身。北海道大学大学院 社会医療情報学専攻 修士課程修了。北海道の民間病院にて企画部門スタッフとして各種プロジェクト運営やマーケティング関連の業務に従事。2018年12月よりメディヴァに参画。