2020/05/11/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

介護現場での効率化を図る、「北九州先進的介護モデル」構築プロジェクトに参画

過酷な労働環境や高齢化によって、将来的な人材不足が懸念される介護現場。政令指定都市の中でも特に高齢化が進んでいる北九州市では、ロボット技術やアウトソージングを導入しながら、介護職員個々人の効率と質、そしてやりがいを高める「北九州先進的介護モデル(北九州モデル)」の構築に取り組んでいます。メディヴァのコンサルティングチームは、2018年より同市のプロジェクトに参画し、調査・分析からモデルの策定、実証の推進と結果評価まで、全面的にサポートしています。

1:実態調査

介護現場の労働環境を改善することで職員一人一人の負担を軽減し質を高め、人材不足に備えるべく発足した「北九州モデル」構築プロジェクト。弊社はまず、北九州市が公募によって選定した実証施設での実態調査を行い、日々行われる業務内容と、それぞれの業務に当たる人員配置の現状を分析しました。

その結果、介護・看護職員は専門職でなければ対応できない業務のみならず、施設の清掃や見守り、記録、食事の配膳等にも大きく時間が割かれていることが分かりました。また、その業務内容の多さから、業務のピーク時間に対応できるよう、必要以上の人員配置が行われているということも把握できました。

2:ICT・ロボット機器、アウトソージングの導入

弊社は次に、各職員の負担を軽減するため、働きたい高年齢者やボランティア等のアウトソージングの起用と、各業務で人材を補助するICT(情報通信技術)・ロボット機器の選定を行いました。

アウトソージング

介護・看護職員が専門職業務に集中できるように、専門職業務以外の食事の配膳や入浴準備、片付けや清掃などの業務を洗い出し、高齢者人材に委託しました。

ICT・ロボット機器

手書きや不要な転記を無くすために、記録システムを導入しました。また、夜勤職員の負担を軽減するために、全室に1台ずつ最新テクノロジーを用いた「見守りシステム」を導入。例えば入居者の「起き上がる」「離床」などの動作をセンサーで検知しながらモニターでの見守りを可能にし、定時巡回業務をなくすことを可能にしました。またそれを記録システムと一元化することで、記録時間も短縮。さらにリアルタイムでの情報共有を可能にするために、インカムを使用しました。そのほか、移乗アシスト装置や浴室リフト等の導入で、これまで複数人で行っていた業務を、一人でも対応できるようにしました。

3:人員配置と業務オペレーションの再構築

これまで介護・看護職員が一手に担っていたすべての業務を、専門職、アウトソージング、ICT・ロボット機器に分配した後は、より適切な人員配置を1日のタイムスケジュールの中で再整理していきました。2ユニットを1つの単位として、それぞれに介護職員を2名配置しました。また、介護・看護・アウトソージングを含む全職種が、互いの配置とそのとき行なっている業務内容を把握することで、他職種間の連携を意識することにも繋がりました。

4:その効果は?

以上の3ステップを踏んで各施設に新しい業務オペレーションを構築し、3ヶ月間の実証期間を経た結果、以下のような負担軽減効果が得られました。

2ユニットあたりの人員配置を、これまでの2.3 : 1から2.87 : 1へ

夜勤スタッフの人数を「4ユニットに3人」から「4ユニットに2人」に減らし、スタッフの負担を削減
夜間の見守り時間を1日あたり約6割短縮し、記録に割いていた時間を1日あたり約5割、そして掃除・洗濯等専門職外の業務時間を約6割短縮することに成功
介護・看護職員の業務時間を全体で約3割削減することで、各職員が一月あたり10日の休暇(有給1日含む)を確保できるシフトへ

各職員の、利用者との対話時間が約2.5倍増加

仮にこの「北九州モデル」が全国に広まった場合、介護人材が全体で27万人ほど増加するという試算も出ています
さて、ここまで読んでいただいた方には、ある疑問がわくかもしれません。「ICTロボット機器等の導入によって業務が少なくなった結果、職を失う人はいないのだろうか?」

本モデルの設計図に、「人員の削減」は含まれていません。目的は人件費の削減ではなく、職員一人一人にできる限りの余裕を持たせることで業務の質を向上させ、一人一人の「やりがい」を高め、職場に定着してもらうことです。昨今不安視される将来的な介護現場の人手不足を解消するため、今、全国で検討されるべきモデルであると考えています。

5:モデルの導入にあたり、現場職員の反応は?

施設での実証開始初期は、やはり現場職員からの反発が少なからず見られました。ある施設でアンケートを実施したところ、「長年やってきた方法で問題がなかったのに、なぜ今新しい方法を導入しなければならないのか」というベテランならではの意見や、目的の理解・浸透が十分でなかったことから、「ただでさえ人数が足りない中で、人員配置を変更すれば無理が出るのではないか」といった声が上がっていました。

実証開始から5週間程度が経過した中期には、新たな仕組みに適応するための疲労も蓄積されていたようですが、「これまで当たり前のように行っていた業務を見直す機会になっている」「使用機器が、作業を効率化してくれている実感が出てきた」など、職員の反応に徐々に前向きな変化も見られるようになりました。

そしてそこからさらに5週間が経過すると、現場はだいぶ安定し、「新システムに慣れてきて、利用者と関わる時間も増えてきた」「空いた時間で日頃できていなかったことに時間をかけられるようになった」という声が聞かれるようになり、ついに実証最終段階では「余裕が生まれ、中身の濃い業務ができて、モチベーションが上がった。自分の中で火がついた」「最初は戸惑いがあったが、慣れてくるとできることがわかったし、自信にもつながった」「周辺業務をしないので、利用者ケアに集中できて、残業も減った」など、その効果が顕著に現れるようになっていました。

こういった不安を抱える現場職員へのケアも、メディヴァのコンサルティングチームの業務のひとつです。メンバーには看護・介護現場での経験があり、現場感覚を理解しているスタッフも多数在籍しているため、現場で発生する不安の声や疑問を汲み取り、専門性の高いご相談にもお応えしながら、職員のモチベーション維持を図るアプローチを常に意識しています。

6:「提案→実証→導入」、そしてその先へ

とはいえ、モデル導入直後に改善が見られても、それを持続できなければ意味がありません。弊社は、この新しい働き方について職員から十分な理解を得るためのノウハウ共有や、新たな問題が起きた際に即時対応するための指示系統の構築アドバイスも行っています。

このように弊社のコンサルティングチームは、課題解決に向けたプロセスと結果のみではなく、その先の未来を見据えたご提案とサポートを常に心がけています。少子高齢化で、次々と喫緊の課題に直面する介護・医療現場。抜本的な問題解決から全く新しいチャレンジまで、時代のニーズに合わせたご提案が可能なメディヴァに、ぜひ一度ご相談ください。

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