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2024/10/21/月

寄稿:メディヴァの歴史

無人島に街をつくれー 先駆者列伝37:医療連携で高い効果を

この連載を始めてから、10日に1度は用賀に通っている。メディヴァ・プラタナスの発祥の地には多くの人々が働いているからだ。長らく気になっていたのが、用賀アーバンと同じビルの4階に店開きしている「スパイナルケア用賀」だった。道路に面した看板には用賀アーバンクリニックの案内の隣に、「腰痛、肩こり、頭痛、しびれ、骨盤矯正」と書かれたスパイナルケア用賀の案内が並んでいる。

メディヴァグループに属するカイロプラクティックの治療院と聞かされ、大いに興味がわいた。さらに後押したのは、イークの事務局長である白根真取締役の一言だった。「大物俳優や経済人も用賀にやって来るし、往診もある。知る人ぞ知る治療院ですよ」。

肩こりはひどいし、腰も時折痛む。まずは自分の体のチェックから、と訪問を決めた。親切な問診をしたうえでの柴田泰之院長の診断は散々だった。

新聞記者時代からのパソコンへの向かい過ぎで、前かがみの姿勢で体が固まっている。頚椎の自然な湾曲を失ったストレートネックは職業病といえる。頭の重さすべてが首の根元にかかるため肩が張るのは当然で、座り仕事のせいで体を支える腰、尻、太ももの裏も圧迫されている。立ち仕事よりも負担は大きく、腰痛が出やすいという。

そこで凝り固まっている筋膜をほぐし、筋肉の動きを滑らかにすることになった。筋肉と皮膚の間、筋肉の間にある筋を伸ばすために、患部を固定して圧力をかけながら癒着をほぐしていった。「筋膜連携」と呼ばれ全身タイツのように体全体を覆っている筋膜は、どこかが癒着すると全身に影響が及ぶというのが柴田院長の説明だ。かなりの痛みが走るときもあったが、終わると不思議に体が軽くなった。これからも通うことになりそうだ。

この治療院の創業は2006年4月である。鎌倉アーバンが開院したのと同じ年で、イーク丸の内院がスタートする2年も前のことだ。メディヴァ・プラタナスが試行錯誤を重ねながら飛躍の機会を探っていた時期の意欲的な試みの一つといえる。当初は桜新町アーバンが入るビルのマンションの1室でスタートし、用賀アーバンの移転に合わせて、現在の用賀2丁目ビル4階に移った。

開設を主導したのは白根さんで、医療機関との連携で科学的なカイロプラクティックの確立を目指した。19世紀の終わりに米国で考案された療法で「脊椎矯正手技療法」と訳されることが多い。近年は「関節の動きの悪さが筋肉や骨格に影響を与え、自律神経の不調にもつながる」との考えから、この乱れを矯正して身体機能を回復させることに主眼が置かれている。医療そのものではないが、健康を保つ効果が期待される代替医療と呼ばれる領域に属する。

しかし、日本国内ではカイロプラクティックという言葉には胡散臭さが付きまとう。法律に基づく資格はなく知識や研修が不十分でも開業できるため、トラブルが少なくないからだ。4年前に総務省が公表した報告書でも、「整骨院での施術中、首をひねられ激痛が走った」「頸髄損傷で全治 3か月と診断された」という事故例が挙げられている。

半健康、半病気の人が少なくない日本だが、代替医療は西洋医学が基本の保険制度には乗りにくい。患者本位の医療を掲げて評判のいい用賀アーバンであっても、なかなか手が回らない領域だった。

それだけに解剖学や生理学までしっかりと学んだ専門家を起用したうえで、医療機関と連携して高い信用が得られれば、潜在的な需要が掘り起こせると見た。健康な人が通うスポーツクラブ、病気そのものを治す医療機関の間に位置し、健康の悪化を防ぐ役割が期待される。現に米国や英国、カナダ、オーストラリア、EUの一部などでは、主に筋骨格系の障害を取り扱う専門職として法制度化されている。

「患者視点に立った治療院」という構想を掲げた白根さんらは、伝説の名人が和歌山で開業していると聞いては現地に飛ぶなど、信頼できる人材の発掘を急いだ。当時はオーストラリアRMIT大学(Royal Melbourne Institute of Technology University)のカイロプラクティック学科日本校が東京・新橋に開設されていたことから、その校長に面談することにした。

しっかりとしたカイロプラクターを起用して、医療とも連携した治療院を作りたいとの申し出に学校側も賛同し、同校の8期生で当時26歳の柴田さんを推薦してくれた。授業のなかで医学的な知識をしっかりと習得したのに加え臨床経験でも高く評価され、学年の首席だった気鋭である。柴田さんに院長を引き受けてもらったうえ、その伝手から施術のプロを集めた。国際カリキュラムに準拠した6年制、4200時間の講義と実習を受けている面々だ。

カイロプラクティックにこびりついた負のイメージを捨て去るために治療院の名称は「スパイナルケア」とした。世の中にはデンタルケアやヘルスケアという言葉があることから脊椎のケアということで名付けた。

当初は、桜新町と用賀の2店舗で10人を雇ったこともあった。将来の大規模な展開をにらんでの積極策だったが、独立心が強い人が多くてなかなか定着してくれない。最終的に用賀に一本化した。残っているのは、2011年から22年まで柴田院長が非常勤講師をしていた時の教え子が中心だ。暖簾分けで目黒、高知、浅草、辻堂にも治療院があるが、こちらも医療連携の重要性を理解している仲間たちである。

現在は用賀のほか、イーク丸の内、イーク紀尾井町で施術している。3人が勤務する用賀には1日に20人から30人が訪れる。また、イークには非常勤も含めて4人が働く。丸の内院は女性専用だが、紀尾井町院は男女とも利用できる。

外科での関節についての対応が整形外科であるように、内科での関節や筋肉、骨格系の専門家を目指してきた。腰痛などで来院した患者でも内科系の疾患が疑われれば用賀アーバンでの受診を勧めるし、逆にカイロプラクティックを試してみるといい患者は野間口聡プラタナス理事長や田中勝巳院長が紹介してくれる。しっかりとした医療知識があるので信頼してくれている証左だ。

24年6月16-17日に、柴田院長は日本プラクティック科学学会の学術大会の大会長を務めた。テーマは『地域医療を通して最善の健康を考える』で、ここには桜新町アーバンの遠矢純一郎院長が登壇した。

まだまだ代替医療に冷淡な医師は少なくない。それでは医療連携は望むべくもないだけにプラタナスとのつながりは心強い。骨などに異常はないものの厄介な腰痛がある人は試すことを考えてもいいし、逆に医師の診察が必要な症状を抱えながら代替医療に頼っている人は早く医療機関に切り替えるべきだろう。そうした行き違いが防げることになる。

スパイナルケア用賀の利用者層は、地域でのかかりつけという性格から高齢者から小学校受験や中学受験の子どもまで幅広い。子どもたちの主な症状は、ストレスからくる頭痛や肩こりだという。近年は、以前診た人が親になり、子どもを連れて来るようになっている。この辺りは各地のアーバンクリニックと変わらない。

柴田院長が気がかりなのは後進の育成だ。豪RMIT大学日本校の後を継いだ東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(TCC)は、講師の確保などの運営コストが膨らみ2年前に閉鎖された。施術者の資格に法律の裏づけがないことも学生募集では不利だった。いま国際的に通用する学位を取るには、欧米などに留学しなければならなくなったのだ。

柴田院長によれば、医療の知識も持つ「有資格者」は国内に1000人ほど。若者が海外を敬遠する傾向もあり、今後は先細りにならないか気がかりである。さいわい若手と中堅で固めるスパイナルケア用賀に当面の心配はないが、法制化の機運が高まるのを期待している。