2019/07/05/金

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

米国の高齢者住宅事情(4)類型の振り返りと総括【最終回】

2014年も残り1週間ばかりとなりました。今年は診療報酬改定もあり、メディヴァにとっては厳しい一年でしたが、取り返すべく皆で頑張った結果、売上が伸び、組織が強くなり、結果として、素晴らしい一年になりました。これも支えて下さった皆様のおかげです。本当に、ありがとうございました。

▼米国高齢者サービス報告 全4回
(1)米国高齢者サービス報告(1)高級シニア向け施設を視察しました
(2)恵まれない層向けのデイサービスON LOK 
(3)シニアタウンのRossmoor
(4)米国の高齢者住宅事情(4)類型の振り返りと総括【最終回】(この記事です)
米国の高齢者住宅のタイプと特徴
こちらのブログでは、過去3回にわたり米国高齢者住宅事情をお送りしました。今回は最終回として、どういう住宅のタイプがあるかを書かせていただきます。まず、米国の高齢者住宅は、A.所有権型、B.利用権型、C.賃貸型の3つに分けることができます。それぞれの小分類と、特徴は下記の通りです(米国でのヒアリングに基づく分類です。必ずしも「MECE(論理的)」ではありません)。

A.所有権型(Equity Type)
(1)単純持ち分型(Equity)
Rossmoorのような高齢者コミュニティに代表されます。コミュニティ型、コンド型、タウンハウス型等建築方法はさまざま。介護が必要になれば、そのまま介護居室等に引っ越し、そこでの生活も保障されるCCRC方式もあります。
そのほとんどにおいて、購入時の「自立」と、ある程度の資産の保有が要件となります。
初期の購入金額以外に、初期費用と不動産の大きさによって決定される月々のフィーが、掛かります。月々の支払いは、建物や環境の保全以外に、セキュリティ、共同施設や余暇活動の整備、基本的な医療や相談サービスなどに充てられます。
このタイプの良いところは資産価値があることですが、反対にもしも重介護状態になった場合、介護サービスが十分ではなく、そのまま暮らせない可能性もあります。
(2)共有持ち分型(Equity-Co-Housing)
今回は訪問していませんが、サンフランシスコ近郊には、Pleasant Hill Cohousing、Temescalなどが存在します。デベロッパーにより開発された、コンド型、タウンハウス型が一般的です。
そのほとんどにおいて、購入時点での「自立」が要件となります。
建物の所有形態以外は、ほぼ(1)の単純持ち分型と同じですが、全般的にセキュリティ、共同施設や余暇活動、医療サービス等が少ない傾向にあります。
B. 利用権型(Entry-Fee)
Sequoiaが代表例です。多くはCCRC方式をとっており、要介護状態を含めて終身保障がされています。入居所年齢の下限制限が65歳以上と、A.所有権型より高く設定されています。「自立」が必須なので、診断書を提出する必要があります。
利用権と月々の支払は部屋の大きさによって決まり、セキュリティ、共同施設や余暇活動の整備、医療や相談サービスに充てられます。A.所有権型と異なるのは、多くではクリニックが建物内にあることと、食事が提供されることです。利用権は、退去時に90%程度の払い戻しがある方式もあります。
このタイプの良し悪しは、サービス提供者の良し悪しによって大きく左右されるので、運営者の評価が重要です。自己責任の考え方の強い米国では、国、州による規制はありますが、利用者本人が事業者に過去の運営実績を訪ね、判断することが求められます。
C. 賃貸型(Rental)
(1)自立向け賃貸型(Rental-Independent)
サンフランシスコでの代表例は、今回訪問していませんが、The Broadmoor Hotel、Merrill Gardens at Rohnert Parkなどです。「自立」が要件で、経済状態のチェックが入ります。入居一時金が必要な場合もあります。賃料にすべてのサービスは含まれており、例えばBroadmooreにワンルームを借りる場合は2800~3500ドル、1ベッドルームだと3800~6000ドルと、地域の相場に準じていて決して安くはありません。この費用の中に食事、掃除、光熱水費、イベントやクラブ活動が含まれています。
このタイプの良い点は、初期費用がほとんどなく、退去した場合、それ以降の金銭的な負担がないことですが、医療看護サービスは提供されていないため、認知症や重介護等で自立できなくなると退去しなくてはいけないというリスクは発生します。
(2)介護向け賃貸型(Rental-Assisted Living)
サンフランシスコの代表例は、今回訪問していませんが、Rhoda Goldman Plaza、Aegis of San Francisco、AgeSong at Laguna Groveなどです。
要介護者を受け入れていますが、入居には経済的なチェックが必要となります。Rhoda Goldman Plazaの場合など、5000ドル程度の入居金が掛かる場合があり、月々の支払いは要介護の状態によります。
月々の支払いは部屋の広さに応じ、Rhoda Goldman Plazaの例だと、ワンルームは5,800~6,400ドル、1ベッドルームだと6,500~6,800ドル。場所の差もありますが「(1)自立向け賃貸型」より高くなっています。この費用の中には、一日3食、掃除、光熱水費、イベントやクラブ活動に加え、セキュリティサービス、常駐看護師の存在などがあります。ただ、介護サービスは含まれていないので、外部から自費で入れる必要があるようです。
このタイプの良い点は、(1)自立向け賃貸型に準じる他、チャリティやNPOにより運営されているケースも多く、その大部分では、長生きして支払いが出来なくなっても追い出されません。ただし介護状態が進むと、外部介護事業者への支払いが嵩むことや、看護が常時必要になった場合などは退去しなくてはいけなくまります。
以上が、米国の高齢者住宅の簡単な類型です。
どれをとっても完全に安心できるものはなく、お金も掛かるので、高齢者や支える家族は必ずしもハッピーではない、と随所で聞かされました。
また日本のようなケアマネ制度がなく、基本的には高齢者本人もしくは家族が考え、比較し、選択しなくてはいけないので、時間や手間も掛かります。自己責任が問われるにも関わらず、他の国と同様、本人家族が「本当にコトが起こるまで」に準備することは稀らしく、やはり慌てたというケースも多く聞きました。
ボストン発の新たな動き、「村落コミュニティ運動」(Villages)
全般的に満足度が低いなか、新しい動きも出てきています。
例えば、ボストン発の「村落コミュニティ運動」(Villages)は、日本における「地域包括ケア」に概念的には近く、自分の住み慣れた家に住み続け、地域のボランティアやNPOが提供するサービスを受けながら、自らも参加して支えあいます。組織化と運営に対する対価として、一人当たり初期に200~600ドル、月額20~50ドルぐらいを支払います。
「村落コミュニティ運動」(Villages)は全米に急速に広まり、サンフランシスコにもSan Francisco Village、Sausalito Village、Martin Villageと多数発生しています。コミュニティの一員としてのつながりが出来、体操やが学習等いろいろなアクティビティに参加し、充実したシニアライフを送るには役立ちますが、地域によって提供されるサービスが異なります、特に介護状態が重くなった場合、ボランティアだけでは対応できなくなるリスクは存在します。その時点では、「自立型」を銘打った高齢者住宅には今さら住みかえることはできず、困ったことになるケースもあり、期待を高く持ちすぎないよう気を付けなくてはいけません。
今回は時間も限られていたので、米国における高齢者住宅のすべての類型を訪問することはできませんでしたが、また機会を改めて視察に行きたいと思っています。同行者も募集していますので、ご興味のある方は是非、お声掛けください。