2020/01/07/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院経営の2極化について

コンサルティング事業部長
小松大介

ここ2,3年、株式会社メディヴァは、中小規模の病院様からの経営コンサルティングのご相談を受けることが大変多くなっておりますが、その中でも、経営の厳しい病院と成功して事業展開のスピードを速めている病院の2極化が進んでいる印象を強く受けています。
背景には、診療報酬の改定がマイナス傾向かつ選択と集中が明確になっていることや、3-40年前の高度経済成長期に設立された病院の老朽化が進んでいること、また医師・看護師の獲得競争が激しくなっていることがあげられます。

経営の成功と失敗を分ける

ではこのような外部環境要因が、病院経営を大きく傾けたり、大きく成功させたりするのでしょうか。私の経験では、そのようなケースはまれです。本質的に経営的な成功・失敗を分けているのは、外部環境要因ではなく、経営そのものの巧拙であり、病院内部、特に経営陣や幹部陣に問題があると考えています。
例えば経営的に成功している病院様の多くは、事業領域やその選択した領域内での生き残り方が明確です。
例をあげると、
 
 1.産婦人科に特化。年間1,500件の分娩と婦人科・小児科の周辺領域
 2.整形外科の内視鏡下手術に特化。全国有数の手術実績
 3.リハビリテーションを徹底強化。60名以上のPTOTを抱え、患者当たりのリハビリを1日5単位以上に
 4.療養型病院として、認知症を診る特徴を出しつつ、徹底的なコスト削減
 5.差額ベッドを取らない精神病院。地域の社会的資源との連携を徹底
 
このように、診療科目・領域が明確なだけでなく、その中でも更なる差別化を行うことで、地域唯一のオンリーワン・ホスピタルとして存在感を発揮している病院は、経営的にも成功しています。これは、当社が独自に分析したDPC病院でも明確な傾向があり、MDC比率で見て、地域唯一の特徴を有する病院ほど、経営が良好な傾向が高いです。

これは、考えてみれば当然のことと言えます。中小規模の病院にとって、全ての診療領域を抱えることは、不採算の施設・人員を多く抱えることに他なりません。領域を絞れば、そこに施設・人員を集中投資でき、またその結果、機器の更新も早くなり、人材の質の向上も見込むことができるからです。

一方で、経営の厳しい病院は、多くの場合、似たような要因を有していると考えています。まず経営的に一貫した戦略がなく、そのために人材の確保、施設等への投資方針が曖昧で、全ての診療領域が中途半端になっています。その結果、全体的に不採算や非効率な部門を多く抱え、結果として人材への投資も施設への投資も十分に行う事ができません。そのため、医師不足・看護師不足が慢性的になり、更に施設基準維持すらも危うくなり、経営的に傾いていってしまうのです。

本来であれば、院長や事務長は、この経営の低迷を察知し、いち早く対応をすべきところですが、実際のところは危機感こそあれ、経営や財務への視点をおろそかにしていることが多く、先行投資に必要な資金繰り管理や、現場スタッフのモチベーションをあげるための指針作りや、訴えかけ、病床稼働のため多少無理をしてでも受け入れるべき患者状態の基準変更などを行わず、じりじりと経営が悪化するループから抜けられなくなってしまっています。

診療報酬の改定も、こうした傾向に拍車をかけています。今回新設された地域包括ケア病棟や7:1施設基準の絞りこみといった病棟構成の機能分化、複雑な手術にはより高評価をそれなりの手術はそれなりにといったメリハリ、またリハビリや検査機器等、一定以上の機能強化を行った病院への加点などがどんどん加速している印象を受けています。

執筆者:小松 大介
株式会社メディヴァ取締役。コンサルティング事業部長。

クリニック新規開業・経営支援、病院コンサルティング、介護施設のコンサルティングに関わる豊富な経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。

病院経営に強いメディヴァのコンサルティングについて