2017/08/18/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

有料老人ホームの再生 経営改善のご報告

コンサルタント 真鍋文朗

老人ホームの経営再生を支援させていただいたきっかけから、経営改善のための提案内容、現在までをご紹介します。老人ホームをはじめとした介護施設の経営に携わる方のご参考になれば幸いです。

1.経営難の老人ホームを再生支援したきっかけ

このたび株式会社メディヴァは、医療法人が運営する有料老人ホームの再生支援をいたしました。弊社が支援した有料老人ホームは、稼働率(入室率)が60-70%と周辺施設より低く、赤字続きで併設するリハビリ病院等の黒字を食い潰している状態でした。そこで、医療法人の理事長から有料老人ホームの稼働を上げて財務の改善を図ってほしいとのご依頼がありました。

2.有料老人ホーム経営改善までの経緯

(1)外部環境調査

まずはクライアントである有料老人ホーム(以下、同施設)の外部環境調査をしました。市場調査の結果、当該地域は高齢者人口、及び、高齢者の単独・夫婦のみ世帯が増加傾向にあることがわかり、商圏の市場成長性はあると判断しました。需給調査においては、競合の施設数は多いものの、現状で80%の稼働は見込めるとの結果を得ました。

さらに競合施設を個別に調査したところ、稼働率の高い施設は、「重介護者や認知症患者の受け入れ可能」「外出や食事、アクティビティの充実」「綺麗で心地良のよさそうな外観」といった施設ごとの売り・強みが明確でした。同時に、ウェブサイトでの訴求にも力を入れておられることがわかりました。それと比較し、同施設は、ホームページ内のアクティビティ紹介が数年前から更新されていない等、自施設を外部へ発信する姿勢に大きな差が見られます。

以上より、競争環境は激しいものの市場は十分にありますので、稼働率が低いのは当施設内部に原因があると考えました。

(2)内部環境調査

職員へのヒアリング

職員へのヒアリングによる内部調査の結果、入居者の受け入れ制限をしていることがわかりました。入居の引き合いはあるものの、現状では人手・対応力不足により、経管栄養等の医療対応の必要な入居者の受け入れを断っているとのことでした。同施設は、医療法人により運営され病院が併設していることから、医療対応が必要な入居者の相談が多い傾向にあります。過去には、医療対応が必要な患者を多く受け入れた結果、稼働率は一時的に増加したものの、介護士が疲弊してしまい、大量離職につながっていました。

また、医療対応が多いということで、看護師が優勢になり、介護士との間に上下関係が生まれ、それを不満に介護士が離職するという事情もヒアリングできました。不足した介護士を補うために、給与水準を相場より高くした結果、人件費が上昇し、収益を圧迫するという悪循環に陥っていました。このような状況の中、施設長は、介護士の離職や職種間のいざこざ等の内部の問題を解決するのに労力をとられ、見学者の対応や紹介会社への営業等の集客活動ができていませんでした。

紹介会社へのヒアリング

内部の受入制限をなくすだけでなく、入居者を増やすには、入居の相談件数と成約率(相談件数に対する成約件数の割合)を増加させる必要があります。直近数年の実績を調べたところ、特に紹介会社の紹介件数と成約率が顕著に減少していました(法人内の病院からの相談件数、成約率は向上していました)。 そこで、紹介会社からの相談件数増加が稼働率向上のキーと考え、紹介会社へヒアリングを実施。次の2点をご指摘いただきました。

(1) 病院を併設している割に、医療対応が必要な入居者を受け入れられていない。
(2) 他施設と比較して営業努力が圧倒的に不足している。

(2)に関しては、他施設は「どのような入居者を何人受け入れられるかをリアルタイムで知らせてくれる」「入居希望者やその家族に見せるために施設で開催されたイベントをアピールする」等、入居者を獲得するために必死である一方で、同施設には売りがない。しかし、医療対応でもリハビリでも施設の売りを作れば、入居希望者を紹介しやすいという具体的なアドバイスをいただくことができました。

前述の、職員へのヒアリングにより見えてきた組織の問題は、同施設単独での解決は難しいと考え、併設する病院スタッフにもヒアリングを実施。その結果、リハビリ病院は、医師・看護師・セラピスト・介護士等の連携が優れているとの声を聞くことができました。さらに、リハビリ病院のセラピストは、若くてやる気のある方が多く、実践の場を求めているとの声もありました。

3.コンセプト立案と組織再編のご提案

調査の結果をふまえ、我々はメディヴァ社内にて、同施設の方向性として、基本コンセプトと組織の再編について議論しました。その結果、同施設単体の力で黒字化させることは難しい。併設するリハビリ病院のリソースを最大限に生かすのが望ましいと考え、下記の提案に至りました。

基本コンセプト

同施設の売りを生活リハビリとし、外部に訴求します。リハビリを希望する入居者を積極的に受け入れ、アクティビティを充実させます。介護士の活用と共に、併設するリハビリ病院所属の医師・セラピストがサポートし、リハビリを充実させて当施設の強みにします

組織再編

当施設をリハビリ病院との一体運営にし、組織の立て直しを図ります。施設内部の問題を病院が介入して解決し、施設長の集客活動を病院の地域連携担当者がサポートします。また、当施設スタッフのリハビリ病院への研修を実施することで、スタッフのスキル向上を図り、入居者へより良いサービスを提供し当施設の競争力を高めます。

4.提案後、再生に向けて

基本コンセプトについて医療法人と議論したところ、「病院の併設を売りにするならば、医療対応が必要な入居者を多く受け入れるべき」という意見もありました。しかし、第三者の視点で考えても、介護士の離職が多い現状で、これ以上の受け入れは難しい点、併設病院のセラピストを活用できる点から、リハビリ強化に向かうことを選択しました。リハビリ病院の病院長も施設の再生に意欲的であり、この有料老人ホームは再生に向けて動き出すことができました。

上記の提案を経て、同施設のリハビリを強化し、外部への訴求にも力を入れた結果、すでに入居待機者が出るほどに稼働率は向上しています。有料老人ホームと病院の連携が進み、結果が出はじめているとみています。現時点では途上段階にある組織再編が進み、運営が安定すれば、今後は常に入居者を獲得、高稼働を維持し、施設の黒字化を実現、継続できると考えます。

今後は、病院のみならず、上記のような介護施設のコンサルティングも積極的に実施し、介護の知見を深めると共に医療・介護連携の在り方についても考えていきたいと思います。

関連ページ: 株式会社メディヴァの介護施設・サービス支援

投稿者:真鍋 文朗│Fumiaki MANABE
株式会社メディヴァ コンサルタント。千葉県出身。京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻修士課程を修了。学生時代は核酸化学の研究を手がける。化学メーカーでドラッグデリバリーシステムの材料の研究開発に従事後、医療機器のベンチャー会社で冠状動脈用ステントの研究開発に携わる。幅広い視点から医療の問題を解決したいと思い、2014年よりメディヴァに参画。