2017/03/31/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

地域医療連携室と地域包括ケアシステム

コンサルティング事業部コンサルタント
医療福祉連携士 正者忠範

 今ではほとんどの医療機関に設置されている「地域医療連携室」ですが、どのように成立、発展していったのでしょうか。これまでの経緯に加え、これからのどのような役割を担っていくのかを考察しました。

1.地域医療連携室の成立

 地域医療連携室ができはじめたのは、2000年頃と言われています。その当時の診療報酬改定で「急性期入院加算」や「紹介外来加算」が創設され、紹介状を介した病病連携/病診連携が発展、その紹介状の管理部門として「地域医療連携室」が設置されました。当時の役割は、主に「前方連携重視」と言えます。

しかし2006年、いきなりハシゴを外されます。「紹介率ショック」と呼ばれ、医療連携加算が削除されました。それに代わり退院調整(退院支援、連携パス加算、退院時共同指導料)や在宅療養関連目が評価され、「地域医療連携室」にも看護師の配属が見られるようになりました。主に「後方連携への転換期」と言えます。

 その後、2008年には地域全体を包括する「地域医療計画」に基づいた医療連携が主体となり、地域性を踏まえた医療・介護・在宅支援機関(部門)同士のネットワーク作りが行われ、地域医療連携室の役割も変化していきました。地域での「医療連携協議会」などが林立したのもこの時期からではないでしょうか。

 このように成立経緯やその名称から一貫して「地域との繋がり」を担う最重要部門であることに変わりはありませんが、その業務は医療政策と密接に関わっていると言えます。

2.地域包括ケアシステム構築への関与方法

 ここ数年の医療政策のトピックスと言えば、地域移行や在宅移行の流れをそのままに「地域包括ケアシステム」の構築への「関与方法」が医療機関の課題となっていると考えられます。現在、政府を始め自治体も取り組む「地域包括ケアシステム」を、厚労省は次のように定義しています。

 「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進する」

 その中心には「住まい」があり、医療/介護/地域(老人会など)が周りを囲んでいます。このシステムの中での医療機関(地域医療連携室)の役割とは、地域で安心して暮らすために、医療機関毎の役割を分担し、継続して医療/介護を提供できる仕組み作りを行うことと言えるのではないでしょうか。

3.地域医療連携室から地域への働きかけ

 地域住民にとって「医療機関」は、やはりまだ敷居が高い場所のように感じます。だからこそ地域のことをよく知る「地域医療連携室」のスタッフが、今までのように受け身の姿勢でいるのではなく、地域の方々に医療機関を知ってもらい、急性期/慢性期等のそれぞれの役割をご理解いただき、上手に医療機関にかかっていただくために、つまり「地域に門戸を広げる」ために、「行事に参加する」「市民とともに医療について考える」という姿勢も大事ではないでしょうか。

 たとえば岡山県倉敷市では、市内20の医療機関の地域医療連携室有志が中心となり、地域包括ケアへの関わりを検討していく中で、「市民の皆様と医療従事者とが地域医療についてともに考える双方向のコミュニティデザインの場として、2013年から「わが街健康プロジェクト。」というものを企画しています。(1)医療機関と上手につきあう、(2)病気の予防と健康維持、(3)倉敷をもっと好きになる、という3つのテーマで倉敷市民に対しての講演会を実施しており、すでに14回の実績があります。市民の皆様に継続して参加していただけるよう、「ランクアップ制度」を導入し、ランクに応じてお渡ししているグッズもあります。有志の医療機関も急性期から療養型、さらには精神科まで幅広く参加しております。また、倉敷市や倉敷商工会議所の後援も得ており、地域の中に入り込んで活動します。

 また、地域のお祭りにブースを出し血圧や血糖の測定を行う、いわばごく簡易的な「健康教室」を企画する医療機関も増えてきているように感じます。倉敷の事例とともに、地域に「入り込む」ことによって、敷居を低くし、「上手に使って頂く」ことを企図しているものと考えております。
 講演会やお祭りへの出店も、地域連携室が企画、運営役として関わることが多いのですが、そのことによって、医療機関の収入が直接増える訳ではありません。しかし、地域住民の医療機関に対する意識は変わるのではないでしょうか。「怖い」と感じていた先生が、白衣を脱いでいるところを見たら、実は剽軽だったとか。看護師さんが実は同級生だったとか、身近な話題でも共通することがあれば、うれしいものです。

4.これからの地域医療連携室

 今後の「地域医療連携室」には、病病連携/病診連携だけではなく、病住(住民)連携にも関わる必要があるように感じています。そうすることによって、医療の面から地域の安全・安心を支えられるのではないでしょうか。「何かあれば、あそこに行けば安心ね。」というところまで信頼して頂けるよう、医療機関をアピールすることも、地域医療連携室が担う役割の一つではないかと考えています。

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執筆者:正者 忠範
株式会社メディヴァ コンサルティング事業部コンサルタント。東京都出身。駒澤大学経済学部経済学科卒業。在学時より非常勤職員として、二次救急病院で勤務。卒業後常勤となり、受付・総務・医療相談等多岐にわたり従事する。法人関連の介護老人保健施設に異動し、介護保険の業務にも携わる。別法人の病院での経験。現場経験を生かし、患者満足度・職員満足度の高い職場を作って行くことを目標としている。

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