2016/11/02/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

在宅医療の現状を可視化する―緊急往診が多い患者像に関する分析結果

 在宅医療の現状を可視化する―緊急往診が多い患者像に関する分析結果―
企業・行政コンサルティングチーム 吉村和也

はじめに

 平成28年7月、厚生労働省が事務局を務める全国在宅医療会議が開催されました。この検討会は、日本の喫緊の課題である地域医療構想の実現と地域包括ケアシステムの構築の成否の鍵を握る在宅医療の推進方策を議論する大規模な会議です。こうした会議が開催されるということは、国も在宅医療の充実に向けて本腰を入れ始めたということだと思います。

 一方、在宅医療については、病院と比較して実施されてきた調査や研究はまだ少なく、その実態が十分に明らかになっていないという課題があります。
メディヴァでは桜新町アーバンクリニックのデータなどを用いて在宅医療の見える化にも取り組んでいます。今回は、各地で在宅医療推進のボトルネックの1つになっている医師の確保に関する問題に対して、「緊急往診」に着目して分析した結果の一部を紹介します。
 ※本内容は、「第18回日本在宅医学会大会」および「在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク第22回全国の集いin鹿児島 2016」で報告した内容を改変したものです。発表内容の詳細を希望される方は「お問い合わせ」までご連絡ください。

24時間対応が在宅医療普及の課題

 2025年まで後期高齢者が増え続けることは周知の事実ですが、在宅医療を必要とする85歳以上人口が2025年を超えてその先まで急増し続けることは意外に知られていません(図1)。

(図1)日本の高齢化の現状

厚生労働省および国立社会保障・人口問題研究所のデータより作成
 各地域で在宅医療の需要を受けきれるよう、現在自治体や地区医師会は在宅医療を手掛ける診療所・医師を増やす取組に励んでいます。メディヴァが支援をしていた茨城県筑西市の調査では、地区医師会会員のうち57%が在宅医療への取組に消極的でした。その理由として多いのが、コールや往診を24時間対応する人員を確保して体制の整えることができない、ということでした(図2)。また、実際に在宅医療に取り組んでいる在宅療養支援診療所(在支診)でも、24時間の電話対応や24時間往診対応に対して負担を感じているのが現状です(図3)。在宅医療では患者からの連絡がいつ来るか分からない状況が続くため、実際にコールや往診などが発生しなくても、常にそれに備えることで精神的な負担が圧し掛かってくるのが現状です。

(図2)在宅医療に取り組むうえでの課題(筑西市)

筑西市資料より作成

(図3)在支診・在支病における24時間対応の負担度

メディヴァ調査

往診は意外に少ない?(図4)

 24時間対応を聞くと誰もが「夜間対応」を頭に浮かべます。しかし、実は定期訪問以外の往診の9割は日中(午前9時~午後6時)に発生しています。また6ヵ月の調査期間中、およそ半数の患者では往診は1度も発生していませんでした。往診に行った患者もその頻度は決して高くなく、往診に行く患者のみを集計しても、およそ50人・日に1度に留まります。診療所が抱える在宅患者のうち約半数でのみ往診が発生するため、診療所全体ではおよそ1回/100人・日のみです。計算上、もし50人の患者を抱えている場合に2日に1度、100人の場合は1日1名往診に行く数字です。さらに夜間往診にのみ着目すると、1回/420人・日となり、100人の在宅患者を抱える診療所で4日に1度という頻度になります。往診体制の観点に限定すると、この数字は工夫することで十分に対応可能な範囲であると考えられます。

(図4)往診の発生状況

メディヴァ調査

往診が多い患者特性は時間帯で異なる(図5)
 往診が多い患者の共通点にはどのようなものあるでしょうか?今回の調査では、年齢や要介護度、同居家族の有無、施設か居宅か等の患者属性との関連は認められませんでした。前記のほか調査期間中の入院や死亡といった重度な患者の影響を調整してもなお、「がん末期」の患者で往診が多いことが明らかになりました。
 また、往診が発生する時間帯にも患者特性が見えてきました。日中では肺炎や発熱等のトラブルを伴う患者に往診が多いのに対して、夜間に往診が多いのは経鼻経管栄養や慢性疼痛管理をしている患者でした。これは日中と夜間で往診発生に寄与する要因が異なることを示唆する結果です。

(図5)往診頻度に関連する患者特性

メディヴァ調査

今後の調査の方向性

 今回の調査結果には現場の人が感じる違和感があります。それは、実際に往診に行くのはコールがあった患者のうち一部であり、電話のみで対応するケースや、訪問看護等によって対応されるケースが多くあるということです。24時間対応の実態を明らかにするという観点を踏まえると、こうした側面も総合して分析していくことが必要不可欠です。
 本調査内容は、「第22回全国の集いin鹿児島2016」においてフォローアップ発表に推薦いただいたため、来年度の全国大会にてさらに洗練されたデータを示していきたいと考えています。

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