2016/08/19/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

健診センターのKFS ‐健保向けマーケティングの視点‐

コンサルティング事業部 猪股 幹基

1.健診センターのキーファクターは収益確保の戦略的営業にある

 人間ドック(以下、ドック)がメインである健診センターのKFS(Key Factor for Success:主要成功要因)は「健保契約数」と言われております。ドックは任意健診であることから、健保との契約があって初めて成り立ちます。従いまして、健保契約数が多いほど、受診者見込み数が大きくなる為、ドックの「予約枠」が埋まりやすくなります。元々、健診センターのビジネスモデルは固定費型ビジネスです。薬や材料等の変動費が少なく、施設・医療機器や人件費等の固定費が多く、そのため、安定した一定以上の収益確保が鍵となります。収益は大きく分けて、健保組合と契約してまとまった人数の受診者が見込める健保契約経由受診者と個人の受診者から構成され、特に健保経由が多くの医療機関では収益の8割以上を占めることが多いです。従いまして、収益を増やすためには健保契約数を増やす方が効率よく、経営管理のポイントは、収益確保、すなわち顧客増加のためにいかに戦略的にマーケティング・販促施策を効果的に行うか、になります。今回は私が運営担当として関わっております都内健診クリニックAの「マーケティング・販促」事例をご紹介致します。<Aクリニック概要:営業担当2名、契約健保数約130、年間ドック受診者数約6,000名、1日あたりドック数約25名>

2.収益全体の約8割は全契約健保の上位2割の主要契約健保(ロイヤルカスタマ)が占める

 Aクリニックの実績ですが、収益全体の約8割が全契約健保の上位2割の主要契約健保で占められています。この上位健保を収益貢献の高いロイヤルカスタマと位置づけています。更なるポテンシャルに期待することはもちろんのこと、契約更新できないと減収インパクトが大きい為、それを可能な限り防ぎたいという考えがベースになっています。(ちなみに減収事例として、ある健保と契約更新の際、健保担当者同意のもと、検査項目を追加した分、料金を3,000円上げたのですが、蓋を開けてみたら受診希望者数が半減したということがありました。また、都内某健診センターでは最大口顧客と解約となり、大幅収益ダウンとなったという話も聞きます。)

3.「契約健保=来院」が約束されるわけではないため、契約後のフォローが受診者確保には肝要である

 Aクリニックでは、相当数の健保との契約が締結された段階から、新規よりも既存契約健保への営業に比重をシフトしていきました。その背景には「契約済み=来院が約束される」という訳ではないことが挙げられます。ある時、被保険者の多い健保と契約が完了し、現場では相当の受診者数を期待していたのですが、1年経過してもほとんど来院実績がなかったということがありました。(見方によっては、健保にとって任意契約であるドック受診施設は「不要不急」なものであり、健保に営業したところで、直接的に被保険者に営業できるわけではない為、一医療機関が実績をコントロールするのは難しいといえます。ましてや健保の契約医療機関は当院以外にも多数存在するわけです。)そこで、四半期毎に健保別の実績(収益、受診者数、単価等)を降順に一覧、可視化し、その増減の要因を営業担当にヒアリングするなどし、分析しました。また、可視化することで大きく3つのセグメント(群)に分けられることが判明しました。大きく実績が伸びている健保、ほとんど伸びていない健保、減少している健保です。この中からターゲットを絞り、定期訪問しながら効率的・効果的に実績を増やす・保持する営業戦略に切り替えました。例えば、実績は既に多いが、更に伸びる余地がある健保には販促キャンペーン(オプションサービス、ご友人紹介特典など)を提案するイメージです。逆に実績が上位でポテンシャルがまだあるのに減少している健保には動向ヒアリングを行い、サービス改善の余地がないか模索しました。

4.ロイヤルカスタマへの定期訪問は有効である

 以前までは営業担当の男性2名が主に年末の挨拶で健保へ訪問していましたが、今回の戦略転換により、営業2名に医事科スタッフ女性5名を加え、1健保につき、営業と医事スタッフのペアで担当することにしました。訪問頻度は四半期に1回程度で、フォロー内容は、実績・予約状況の報告、販促キャンペーンの提案、訪問した医事科スタッフが実務窓口となる旨のお知らせ、ニーズヒアリング、運用面の確認、受診者アンケートフィードバック、学会等で注目されている医療トレンドのお知らせなどです。今後は担当健保の契約更新手続き(台帳・健診システム設定)も実施してもらうことを課題にしています。このようなスタンスでロイヤルカスタマへ定期訪問フォローすることは収益面において有意であると考えています。実績では、ロイヤルカスタマ(25健保)で740名受診者が増加し、4,800万増収となりました(自然要因も当然含むものと考えています)。具体例を挙げますと、A健保:90名増加(契約コースの追加)。B健保:80名増加(貸切健診イベントの提案)。C健保:100名増加(新検査の提案)。尚、実務面においても有効であることが示唆されました。以前は医事科スタッフ1名が契約担当として健保からの問い合わせ窓口としていましたが、対応スピードの限界や、業務ノウハウの偏りが課題となっていました。新たに契約担当1名に加え、医事科スタッフ5名を加える事で、対応スピードの向上やクレームの減少に繋がりました。また、業務ノウハウ、ナレッジの共有にも繋がり、組織として幅を拡げることができたと考えています。

5.顧客分析から始め、効率的・効果的なマーケティング施策を実施すべき

 健診センターの事務長と情報交換することがありますが、顧客の定期分析、定期訪問はほとんどしたことがないと言われる方がいます。受診者数増加を目的とすることはもちろん、解約・クレームなどのリスクを未然に防ぐ上でもこのような既存顧客フォローは怠らないようにするべきといえます。結果として、短期的には成果が出なくても、中長期的には安定的な収益をもたらしてくれることになります。まずは、現状の顧客を知ることから始め、ターゲットを絞った上で営業活動を実施してはいかがでしょうか。
 今回は健保向けマーケティング、とりわけ既存契約先(ロイヤルカスタマ)へのフォロー事例をお伝え致しました。次回、私の担当号では現場の業務改善の視点(検査フロー、業務プロセス、組織体制)で事例紹介をさせて頂けたらと考えております。

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