2017/11/09/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

バイオシミラーと後発医薬品の課題に関するアンケート調査結果

コンサルティング事業部 コンサルタント・医師 澤井潤

はじめに

 平成26年度にDPC/PDPSの機能評価係数IIに後発医薬品係数が追加されて以降、DPC病院における後発医薬品採用シェアは劇的に拡大をしています。平成29年5月に公開された、平成29年度機能評価係数IIでは、DPC参加1664病院中、1338病院、80%がすでに後発医薬品係数において最高点を獲得しています。これは大病院の薬剤作用に対する経営マネジメントとして、後発医薬品に対する数量ベースの検討は「やったほうが良い」から「やって当たり前」の時代に変わってきていることの証左といえます。

 一方で高額医薬品であるバイオ製剤の後発品、バイオシミラーの普及については、後発医薬品全体に比して十分とは言えません。例えば関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎などに適応のあるレミケード(R)は2012年の国内売上高が735億円ですが、そのバイオシミラーであるインフリキシマブBSの先発品に対するシェアはわずか数%と言われています。

 後発医薬品係数のような政策的な後押し(病院へのインセンティブ)が乏しいことなどが一因と考えられますが、前述のとおり大半のDPC病院が数量ベースでの検討を当たり前のように実施している現在、薬剤採用において病院経営に起因するのは金額ベースでの観点であると言えます。
 今後病院経営の一つの方策としてバイオシミラーが普及していくために必要な病院経営の内部環境は何かを検討するために、DPC病院に対してアンケート調査を実施しました。その結果の一部をご紹介します。

◎調査査結果の詳細版はこちらからダウンロードいただけます。

調査概要

 平成29年8月8日~31日に、全国DPC病院を対象に郵送方式によるアンケート調査を行いました。105病院(6.3%)から回答いただき、うち有効回答数は84、5.0%(I群5件、II群17件、III群62件)でした。

後発医薬品数量シェア80%を超える病院が6割を超える

 後発医薬品係数の最高点の基準は数量シェア70%であり、回答病院中80%が達成していました(図1)。この結果は平成29年度機能評価係数IIと相違はありませんでした。さらに数量シェアが80%を超えている医療機関が6割を占めております。これは将来的に、後発医薬品係数の最高点基準がシェア80%に引き上げられることを見越しての対策が取られている、ということと考えられます。

図1 後発医薬品採用シェアとその割合

バイオシミラーは経営部門に注目されていない

 回答病院の8割で後発医薬品の採用が十分に進んでいましたが、バイオシミラーについて経営方針として導入ないし一部導入していると回答した病院はわずか28%でした(図2)。また、自院でどのバイオシミラーを把握しているか把握していない病院が57%(図3)を占めており、病院経営部門サイドにおいて十分に注目されていない現状がわかります。

図2 バイオシミラーに関する経営方針とその割合

図3 経営部門が把握している、院内で採用されているバイオシミラーとその割合

 経営方針としてバイオシミラーを導入している病院の経営部門は、薬剤採用に関わる傾向がある
 バイオシミラーを経営方針として導入している病院とそうではない病院では、経営部門のマネジメントを含め何が異なっているのかを検討しました。図2に示しているバイオシミラーに関する経営方針とその割合、の結果より、バイオシミラーの経営方針として「積極的に導入している」、「状況に応じて導入している」と回答した病院を導入層、それ以外の回答をした病院をその他層として比較をしました(n = 24 vs 60)。

 その結果、導入層はその他層と比較し、後発医薬品の採用について「薬剤部に一任している」との回答は少なく、「経営部門と診療科・薬剤部が協議しながら判断」との回答が多い傾向にありました(図4)。すなわち薬剤採用において経営部門が現場と意思統一を行うことが、経営方針としてバイオシミラーを導入するためのキーポイントであることがわかります。

図4 バイオシミラー導入層とその他層における、後発医薬品採用の検討方法の割合

経営方針としてバイオシミラーを導入している病院の経営部門は、バイオシミラーに対しての理解がある傾向にある

 バイオシミラーを経営方針として導入している病院は、後発薬品採用への関わりが強いことがわかりました。ではその理解についてはどうでしょうか。図5のように、導入層のほうがバイオシミラーについての理解が深いこと、また経営方針として導入していることを反映して、聞いたことがない/興味がないとの回答はありませんでした。現場と協議するためには、金銭的な面だけではなく、薬剤そのものについても(おそらく専門的レベルではなく)理解が必要であるということがわかります。

最後に

 以上が調査の概要です。

 病院経営において薬剤の数量ベースによる検討は既に頭打ちであり、今後は金額ベースによる検討が求められます。経営方針としてバイオシミラーを導入する場合には、後発医薬品同様、薬剤採用において現場と協働しつつも経営部門として関与すること、情報収集を行い理解を深めることが必要であることがわかりました。

 事実、既に金額ベースでの検討に取り組まれている病院があります。例えば千葉大学医学部附属病院では平成25年度の薬剤使用状況調査にてインフリキシマブの先行品の購入が4000バイアルを超え、うち67%を消化器内科が使用していること、バイオシミラーに置き換えることで約1億円の節減効果があるということが判明しました。

 そこで、病院長のトップダウンで消化器内科で新規に投与を開始するすべての患者にバイオシミラーを使用することが決定され、薬剤部、担当医が中心となってバイオシミラーについて情報収集、データ精査を行い、現在は問題なくバイオシミラーを使用しているとのことです。

 この事例は病院長のトップダウンにより、現場に影響を及ぼし、経営改善を行った好事例です。もちろん経営部門の薬剤採用への関わり方は病院のスタイルによって異なり、トップダウンで行うことが大切と言っているのではありません。病院経営の改善のために、薬剤採用では金額ベースでの検討を行うこと、経営部門が薬剤採用に関わることが有効であることが示唆されます。

◎調査結果の詳細版は、こちらよりダウンロードいただけます。