2017/03/13/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

サウジアラビア健康・医療分野における協力関係構築の第一歩

メディヴァ海外事業部
コンサルタント 木内大介

1.はじめに

 今年2月のサウジアラビア保健省局長の訪日の際に、MEJ(Medical Excellence Japan)の主催により日本のヘルスケア分野の企業がプレゼンをする機会があり弊社も発表をしてきました。
 今回のサウジアラビア保健省一行の来日は、サウジ・日本政府間の協力関係の一環として行われたものです。この後にもサウジアラビア関係のイベントは続いており、3月12日から3月15日にかけてはサウジアラビアのサルマン国王が訪日されます。国王の訪日としては46年ぶりとなります。

2.「ビジョン2030」への日本の支援:健康寿命の延伸を中心に

 サウジアラビア政府は、石油依存型経済からの脱却のために2016年4月に2030年までの経済改革計画である「ビジョン2030」を発表しました。「ビジョン2030」は3つの柱(「活気ある社会」、「盛況な経済」、「野心的な国家」)からなっており、それぞれにさらに細かなテーマと具体的な達成目標が立てられています。その1つの柱である「活気ある社会」の「強固な基盤」というテーマの中の1つとして「医療制度の充実」があり、具体的な達成目標として平均寿命の延伸(74歳から80歳)などが挙げられています。

 これに対して、日本政府は2016年9月のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の訪日の際に安倍首相が「ビジョン2030」への協力の意を示し、「日本・サウジ・ビジョン2030共同グループ会合」が立ち上げられています。2016年10月にはサウジアラビアで第一回の会合が開催され健康・医療がテーマの1つとして議論されました。中でも健康寿命の延伸や人材育成に関して日本政府や企業に期待するところは大きく、今回の保健省局長一行の訪日の実現もその表れの1つと言えます。

3.サウジアラビアの医療改革における日本の先進的取り組み

 サウジアラビアの健康・医療分野の目標に対しては、これまでの日本の取り組みと成果を確実に伝えることで日本は十分に貢献することができます。その1つとして日本が世界でもトップクラスの長寿の国であるということが挙げられます。日本人の平均寿命は1950年には60歳でした。それが現在では83.7歳まで伸び、世界一の長寿国となっています(WHO 2016)。また最近話題になっている健康寿命に関しても74.9歳で世界一となっています(WHO 2016)。その要因には様々なものが考えられるのですが、主なものとしては国民皆保険制度の整備、定期健診制度導入などの予防医療への先進的な取り組み、医療機器などのテクノロジーの開発とその有効利用などが挙げられています(Ikeda et al 2011)。

 例えば、サウジアラビア国民の健康増進の施策に貢献できる一例として、日本の健診システムが挙げられます。日本は健診の制度を世界に先駆けて導入しており、長期間にわたって培ってきた知見があります。また富裕層向けの健診は世界的にも珍しくはないのですが、2008年から導入されている40歳から74歳の全国民を対象にしている特定健診は、イギリスで一部取り入れている他は世界でもほとんど例はありません(Kohro et al 2008; Thom 2015)。

4.メディヴァのミッション:サウジアラビアでの予防医療の推進

 このような流れの中で、メディヴァとしても予防医療の分野でのこれまでの知見をうまく生かし、サウジアラビアでも人々の健康増進に少しでも寄与していきたいと考えています。運営支援先として関わっているイーク丸の内やイーク表参道など、女性専用健診センターや、AIO(アイオ。乳がんに特化した検診バス)で培ってきた、立ち上げから運営までの経験、弊社保健事業部が取り組んでいる特定健診や特定保健指導に関連して、その分野において得られた人材育成、サービス運営、データ分析などの見識は特に大きな効果を与えることができると考えています。

5.国境を越える医療協力:日本の知見と経験を活かして

 日本では私たちが当たり前に享受している制度やシステムが他の国々の健康や医療に大きく貢献する例はまだまだあります。今回のような機会をうまく生かし、日本という枠を超え、人々の健康増進に貢献していきたいと考えています。

執筆:木内大介 Daisuke KIUCHI
東京都出身。京都大学農学部農林生物学科卒業。英国ロバート・ゴードン大学大学院理学療法科修士課程修了。英国公認理学療法士として英国の国立医療機関 (NHS)を中心に、10年間働く。英国の病棟、外来、在宅、スポーツクラブなどの臨床現場を経験し、患者視点の医療、多職種連携、エビデンスに基づく医療の大切さを学ぶ。2014年6月に英国から帰国を機にメディヴァに参画。メディヴァ参画後、国内案件では在宅医療、外来、訪問看護の運営支援、看護小規模多機能の開設支援、海外案件ではアジア、中東地域における健診センター開設支援や各種調査事業に関わる。また英国スターリング大学と協同し、認知症にやさしいデザインの高齢者施設への導入支援にも関わっている。

■参考文献
Ikeda, N et al 2011, ‘What has made the population of Japan healthy?’, Lancet, 378, pp. 1094-1105.
Kohro, T et al 2008, ‘The Japanese national health screening and intervention program aimed at preventing worsening of the metabolic syndrome’, International Heart Journal, 49(2), pp. 193-203.
Thom, F 2015, ‘The NHS health check’ in Tordrup, D et al (eds), Research Agenda for Health Economic Evaluation, pp. 42-53.
World Health Statistics 2016, WHO, accessed 9 March 2017

■関連事業
株式会社メディヴァ 海外展開・インバウンド支援