2019/08/30/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

サウジアラビア女性健康増進事業整備促進プロジェクト(3)│GLOBAL

海外事業部
コンサルタント 木内大介
メディヴァでは、経済通産省の平成29年度医療技術・サービス拠点化促進事業の一環で、サウジアラビア女性健康増進事業整備促進プロジェクトを行いました。国内でのクリニック開業や運営、病院経営や再生に関わってきたノウハウを生かし、プロジェクトに着手してまいりました。その経緯と背景、このプロジェクトを通して明確になったサウジアラビアの医療・健康分野に関連した課題、今後の事業の方向性について、全3回にわたり紹介します。(過去の記事は、こちらをご覧ください。第1回、第2回)
外国資本によるクリニックの設立・運営に連携が必要な理由
サウジアラビア国内で外国資本の企業や組織が事業をするには、いくつかの障壁があります。特に医療分野においては、通常の事業で必要なサウジアラビア総合投資院からの認可に加えて、保健省を始めとした医療分野の管轄機関から認可を取り付ける必要があります。またクリニックを含めた一部の医療サービスにおいては外国資本の企業や組織が開設を認められない規定があります。
そこで今回の事業は、現地組織による健診センターの開設と運営を軸に行う事業モデルを想定し、日本側は医療機器の導入と開設・運営支援という役割を担うことになります。このように事業開始前の事前調査は重要であり、サウジアラビア国内で事業ができる適切な事業モデルを同定していく必要があります。
インフラ整備に貢献できるが、市場創出も必要
健診対象人口は最も少ない試算(対象地域はリヤード州全域、対象年齢は40歳から69歳まで)で53万人、最も多い試算(対象地域はリヤード州全域、対象年齢は20歳から69歳まで)では130万人に上りました。サウジアラビアでは国家レベルでの健診プログラムは確立されておらず、公的な健診サービスの提供は、一部の地域に限られています。また民間医療機関による健診プログラムも存在していますが、大部分は外国人やサウジアラビア人の富裕層を対象とした限定的なものです。
先行事例として調査したリヤドの既存健診クリニック2施設での年間受診者数は、リヤード州全域の健診対象人口の1.7%から4.3%に過ぎません。現状では健診対象人口に対して、健診プログラムを提供している施設数が足りていない状況です。本事業で目指す女性向け健診センターの設立は、サウジアラビア国内における予防医療のインフラ整備に貢献できることがわかります。
しかし、サウジアラビアにおける健診サービスは、まだ国民の認知度が低く、健診の意義や疾患に対する知識不足や誤った理解が一般的です。例えば乳がん検診の場合、胸部の検査であるということが受診をしない理由の上位にくることが報告されています(Amin et al 2009; Bcheraoui et al 2015)。女性向け健診センター設立の際には、女性に対して早期発見の機会を提供するだけでなく、健康や予防に関する教育の場としての役割を担うことも視野に入れ、市場を創出していく必要があります。

サウジ・スポーツ庁と覚書に調印、協力体制構築へ
2018年1月、首都リヤドで「日・サウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム」が開催されました。サウジアラビア総合投資院(SAGIA)と日本貿易振興機構(JETRO)、中東協力センター(JCCME)の共催によるもので、サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相、日本の世耕経済産業相が出席した他、サウジアラビア企業130社、日本企業70社が参加しました。
このフォーラムにおいて、「日・サウジ・ビジョン2030」の枠組みのもと、サウジアラビアスポーツ庁、富士フイルム、メディヴァの3者間で女性の健康増進、疾患予防、健康教育の3分野で協力していくことの覚書に調印しました。これは、サウジアラビアの医療・健康課題解決のために、予防医療分野においてサウジアラビア・日本間の協力関係を構築していく一歩になります。
メディヴァでは今回のサウジアラビアの他にも、ベトナム、マレーシア、中国、ロシア、イギリスなどで日本や現地のパートナーと協力してさまざまなプロジェクトを進めています。次回は、アジア地域を対象にした調査プロジェクトについて、海外事業部鈴木から報告いたします。

投稿者:木内大介│Daisuke KIUCHI
株式会社メディヴァ コンサルタント。東京都出身。京都大学農学部農林生物学科卒業。英国ロバート・ゴードン大学大学院理学療法科修士課程修了。英国公認理学療法士として英国の国立医療機関 (NHS)を中心に、10年間働く。英国の病棟、外来、在宅、スポーツクラブなどの臨床現場を経験し、患者視点の医療、多職種連携、エビデンスに基づく医療の大切さを学ぶ。2014年6月に英国から帰国を機にメディヴァに参画。メディヴァ参画後、国内案件では在宅医療、外来、訪問看護の運営支援、看護小規模多機能の開設支援、海外案件ではアジア、中東地域における健診センター開設支援や各種調査事業に関わる。また英国スターリング大学と協同し、認知症にやさしいデザインの高齢者施設への導入支援にも関わっている。