2019/10/03/木
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルタント 入川文
株式会社メディヴァでは、事業者の経営改善だけではなく、医療介護の質の向上にも取り組んでいます。今回は、ご本人の自尊心に大きく関わり、介護者が最も困難と感じている介助活動の1つである、「排泄ケア」の改善ついて、取り組み方のポイントと改善効果についてご紹介します。
目次
排泄ケアは、他のケアと比べても1日あたりの実施頻度が高く、排泄というご本人のプライバシーに関わることでもあることから、ご本人と介護者の身体的、精神的負担が高いケアの1つです。しかしながら、排泄ケアは、従来の介護慣習の影響が強く残るケアであり、近年のエビデンス重視の効果的ケアには至っていない領域が多く残されています。
詳しくは後段で述べますが、この領域を改善できれば、ご本人、介護者、医療介護サービス事業者のすべての関係者にとってのメリットを生むことができるのです。
排泄とは、栄養摂取した後、不要なものを体外に排出することであり、私たちが生きている限り必要な身体の仕組みです。排泄は、栄養摂取後、図1のような流れで実行されるものです。また、排泄の仕組みを実行するにあたっては、ADL、食事、水分、疾患、薬剤、意志疎通、口腔嚥下、皮膚状態、精神状態など、様々な要素が関係しています。
【図1 排泄の流れ】
排泄を実行するにあたっては、私たちの自尊心も大きく関わってきます。排泄に関して多くの方が考えるのは、次のようなことではないでしょうか。排泄は多くの要素が関連しており、私たちの自尊心に大きく関わっているものでもあると言えます。
・排泄物、排泄動作、陰部(下着)は他人に見られたくない
・排泄時の臭いや音が気になる(排泄したことを他人に悟られたくない)
・時と場合によっては「トイレに行きたい」と言い出しづらい
・排泄後は清潔にしたい
・排泄用具(紙おむつなど)を使用していることを知られたくない
・他人から排泄の世話をされるような状態(いわゆる「下の世話を受ける状態」)にはなりたくない
排泄ケアとは排泄ケアとは、排泄の一連の流れの中(図1)で、本人ができないところをサポートするケアのことです。在宅、医療機関、介護施設などで、効果的な排泄ケアを実施するためには、本人のプライドへの配慮を基本としながら、下記の要素も必要とされます。
・排泄メカニズムの知識
・排泄そのもの及び排泄関連要素の状況に関するアセスメント
・排泄場所への誘導や排泄動作介助
・排尿排便促進方法に関する知識と技術
・排泄用具の選定と交換に関する知識と技術
・陰部を清潔に保つための知識と技術
平成23年度 老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業「家族介護者の実態と 支援方策に関する 調査研究事業 報告書」によると、在宅介護者が特に困難を感じている介助活動は排泄介助33.4%となっており、他の介助活動に比べて格段に高い割合を占めています。
医療機関や介護施設においても、問題への対応方法が認知されるようになってきたとはいえ、まだまだ解決されていない問題が多いと感じています。医療介護現場ごとに多少の違いはあるものの、よくある問題は次のようなものです。
このような問題を生じさせている直接的な原因は、排泄に関する知識や技術が提供されにくいことによる次の3点だと考えています。
・「排泄ケア=おむつ選定とおむつ交換」という意識が根強いこと
・医療や介護が必要な方が失禁することに対して違和感をおぼえにくいこと
・ご本人ではなく、介護者の視点に立った対処療法的な問題解決(疾患や薬剤等の原因にアプローチせず紙おむつの性能や装着方法で解決するなど)が多いこと
排泄ケアにおける課題を念頭に置きながら、改善の取り組みを効果的に実行していくためには、次のポイントをおさえておくことが重要です。
・ケアを受けるご本人の視点を大事にすること。そのためには、介護者自身が当事者として受けてもよいと思える排泄ケアの条件を持っておくこと
・排泄ケアは、おむつ選定作業やおむつ交換作業だけではないということ
・正常な排泄状況と異常な排泄状況の区別ができる知識を持っておくこと
例:一般的な1日の排尿量は? 異常な排便性状は? 便秘の定義は?
・治療やケアで根本解決する問題と、紙おむつなどの用具で対処的に解決する問題の違いを知っておくこと
・紙おむつなどの排泄用具は、メーカーによって標準の使用方法が異なり、使用技術の習得が必要であること
・アセスメントに必要な情報収集とケアを記録するための手順、ツールを整備すること
・ご本人、ご家族、職員、事業者など、誰にとっての課題なのか明確にすること
・どのような手順でいつまでに解決を目指すのか決めること
・取り組み前後の状態を把握し、改善効果を評価すること
・介護者によってケア方法が異なることがないように手順や注意点(マニュアル)を明示すること
・事業者の中で排泄ケアの改善に取り組むチーム(他の専門チームとの兼任でもよいので)を決め、推進者の役割責任を明確にすること
ただし、上記すべてを最初から取り組むことはほぼ不可能です。まずは排泄に課題がある患者・利用者1名を取り上げ、その方特有の改善目標に向かって、上記のポイントを意識しながら取り組んでみましょう。取り組みのポイントが掴めたら、次の1名と徐々に増やしていってはいかがでしょうか。
取り組み開始時は多少の苦労はありますが、取り組みが軌道に乗ってくると次のような効果を得ることができます。
多くの事業所において、排泄ケアが必要な対象者は存在し、1日に複数回の排泄ケアが提供されているのが一般的です。今一度、ご自分が所属する事業所の排泄ケアの状況を見直してみてはいかがでしょうか。
メディヴァでは、排泄ケア改善サポートの一環として、在宅事業者向けセミナーなどで、排泄のメカニズムに関する知識、アセスメント方法、排泄用品使用方法、個別課題への対応方法など、様々な情報発信を行っております。
■参加された方の感想(一部抜粋)
・排泄の基礎知識とアセスメントの手順の整理ができた。(訪問看護)
・利用者の個別課題への対応方法がわかった。(居宅介護支援)
・紙おむつの基本的な装着方法がわかった。今まで紙おむつの構造を理解せずに装着していた。(訪問介護)
最後に、排泄ケアに取り組み、質を高めることは、ご本人、介護者、医療介護サービス事業者にとっての様々なメリットに繋がります。ご本人の排泄でのお困りごと、介護者の負担、事業者のコスト増加や生産性の低下などを感じられた際は、排泄ケアの改善に取り組んでみられてはいかがでしょうか。
執筆者:入川文 Aya IRIKAWA
株式会社メディヴァ コンサルタント。福岡県出身。九州大学文学部人文学科卒業。グロービス経営大学院経営研究科(MBA)在学中。広告営業として主に官公庁や医療法人を担当した後、医療法人の在宅介護事業企画職として、通所系・訪問系サービス、住宅型有料老人ホームの企画運営や新病院建築PJに携わる。その後、紙おむつメーカーの営業兼排泄ケアアドバイザーとして、医療介護現場のケア改善に取り組む。各医療介護事業者の経営改善とともに、患者・利用者、家族、職員、地域にとって、より良い医療介護のあり方を模索したいと考え、メディヴァに参画。