現場レポート

2021/05/31/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

ウォッカ大国ロシアの健康づくり(日露医療協力推進事業)

メディヴァ海外事業部
マネージャー 小倉昭弘

1.はじめに

弊社は厚生労働省「令和3年度 日露医療協力推進事業:健康づくり・予防医療分野」の実施団体に採択され、2018年度から続くロシア予防医療プロジェクトの事務局を本年も担う事になりました。本事業は日本とロシアの医療研究機関が協同で、ロシア版の保健指導プログラムを開発するものです。モスクワでパイロット研究の成果をもとに、現在はモスクワ他5地域でも応用を進めています。ロシアでは企業健診が法定化され、予防医療への関心がますます高まっています。

2.大国ロシアの平均寿命

ご存じの通りロシア連邦は、東西に大きくまたがる世界一の国土面積を誇ります(日本国外務省によると、約1,710万km^2、日本の45倍)。そのため地域によって気候や生活習慣も様々で、保健指導を行うにあたっても考慮が必要です。今回の実証エリアには、遊牧民族が多く住む北極圏の自治管区も含まれており、研究から貴重なデータが得られることも期待されます。
ロシアの人口は約1億4,680万人(2017年1月)で、日本の約1億2,600万(2020年3月)と大差ありません。しかし寿命を比較すると、日本は世界第1位の84.2歳に対し、ロシアは71.9歳で第103位(北朝鮮、リビアと同じ)となっています。世界平均は72.0歳であり、それと比較しても決して寿命が長いとはいえません。男性については、日本81.1歳(スイスに次ぐ第2位)に対し、ロシア66.4歳(第125位)で世界平均69.8歳を下回りますWHO” World Health Statistics 2018”より。データは2016年のもの。 。

3.心血管疾患による死亡が過半数

WHOの統計によると、ロシアでは全死亡要因のうち心血管疾患が過半数を占めています(「故意の怪我」は、日本の場合は自殺がほとんど、ロシアは半数が自殺、残りは暴力Violenceと戦争Warです)。生活習慣の改善により心血管疾患や悪性新生物を予防し、平均寿命の延伸に貢献しようというのがプロジェクトの目的です。
寒冷な気候では消費カロリーも増えることから、食事も高カロリーになりがちです(ロシアは世界一の「マヨラー」=マヨネーズの年間消費量は1人あたり約6.4kgで日本の4倍株式会社野村総合研究所「平成29年度 病院食等に関する調査委託事業」2017年12月)。またロシアといえばウォッカのイメージが強いですが、ウォッカが死亡率を引き上げる原因になっていることを示す露英仏の共同研究結果もあるようです BBC NEWS “Vodka blamed for high death rates in Russia”(しかしそうはいっても、実際に私がモスクワを訪れロシア人研究者と話した感覚では、一般の人にとってはウォッカよりもワインが好まれるそうです。ウォッカ=アルコール中毒者の飲み物というイメージもあるらしい ちなみに日本人が「ロシア」と聞いて想起しがちな食べ物ピロシキも、現地の人はほとんど食べないそうです。二度訪問したモスクワ市内では、私もお目にかかったことがありません…)。

4.日本の健康づくりをロシアへ展開

日露の専門家らのご尽力により、ロシア国民の食生活や運動習慣に沿った、無理なく健康を目指せる仕組みづくりが進んでいます。出汁などにより塩分を抑える日本食を応用し、ロシア版減塩食のレシピも開発されました。
もともとこのプロジェクトは、2016年に安倍首相とプーチン大統領の間で交わされた8項目の「協力プラン」に基づき、厚生労働省の委託を受けてスタートしました。日本は資源大国であるロシアから原油や天然ガスを輸入しています。「健康大国」としての日本のノウハウは、日露の関係性強化に大きく寄与していくでしょう。

執筆者:小倉 昭弘│ Akihiro OGURA
神戸大学を卒業の後、日本オラクル(株)にてソフトウェアのコンサルティング営業に従事。さらなる営業の経験を求め(株)リクルートに転職。その後、医療機関の立ち上げに携わる。その時の経験から、医療業界への思いが強まりメディヴァに参画。医療の世界に新しい価値を生むべく、日々奮闘中。