2020/06/24/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

保健師目線で考える、コロナ禍における企業の産業保健

コンサルタント・保健師
金子奈美
緊急事態宣言発令直後に、弊社は在宅勤務推奨の方針が出されるとともに、保育等で勤務が困難な場合に活用できる特別休暇が創設されました。感染の最前線で働く社員を感染リスクから守るとともに、お客様の感染源となることも避けるべく柔軟な働き方を許容する方針が迅速に発信されたことで、コロナに立ち向かう勇気がわいたことを昨日のことのように覚えています。
緊急事態宣言が解除されたのも束の間、都内は東京アラートたるものに翻弄されつつ、コロナ禍での企業活動は今後も続く見通しです。また、今後第2波、3波により再度自粛が求められることが懸念されます。この第1波の経験を踏まえ、通常営業しなければならないものは何か、どのように進めるのがいいのか、また新しい働き方を支えるにはどうしたらよいかについて、コンサルタント兼保健師目線で考えてみました。

コロナ禍での産業保健業務の「通常営業」
先送りにしてはならない業務を見落とさない
コロナ禍で、通常業務や健康経営施策のPDCA管理をこれまでどおりすすめることは、多くの企業の悩みの種となっています。
最たる例が、健康診断です。延期やむなしという厚労省の見解はあるにせよ、いつもの医療機関で自分の計画で受診したいと考える社員に対し、安全に必要な受診枠を通常と変わらない時期にどう確保していくか、再検査の受診率を向上させるための適切な実施時期の延期の限界はいつなのかなどの議論を重ね、1つ1つ決定しています。議論の中で忘れてはいけないのは、いくらコロナ禍であっても(コロナ禍であるからこそ)、健康診断の目的である「病気予防に努め、早期発見し治療すること、重大な病気が発見された場合でも、早期に治療を開始することで肉体的にも精神的にもダメージを最小限に抑えること」だと思います。特に有害業務などの特殊な業務に従事している社員の健康状態を把握するための特殊健診は、実施時期を動かすべきではないと考えます。
健康面からさらに考えると、弊社産業医澤井による6月9日の投稿『産業医目線で考える、緊急事態宣言解除後の働き方』で、「コロナ時代の安全配慮義務」への言及がありました。あくまでも現場感覚での私見ではありますが、喫煙者(特にヘビースモーカー)がコロナに罹患すると若くても一気に重篤化しやすいことを踏まえると、マナーから義務へと前進した、改正健康増進法下の受動喫煙防止対策は、「コロナ罹患予防対策」の柱として、より一層推進していく必要があると考えます。
さらに、コロナ罹患者が発症した場合の対応フローを含めたBCP対策が、第2波、第3波の到来への備えとなるよう、専門職としてBCP対策が企業内で定着していくよう、積極的に参画していきたいと思います。

コロナ禍の経験を踏まえた産業保健業務のすすめ方
これまでの業務のすすめ方を合理的効率化の視点で見直す
半強制的にスタートした時差出勤、テレワークにあわせ、産業保健業務の根幹である「社員面談」を、「対面」から「WEB」に切り替え実施してきました。「WEB」環境(ハード面)を整え、円滑な「WEB」面談運営のための産業保健スタッフ間の連携を強化した結果、「対面」でなくてはならない面談とこれからも「WEB」で継続すべき面談の基準が明確になってきました。一例として、営業職など外出が多く指定された日時に所定の場所に出向くことが難しいことが多い社員からは、「WEB」面談は高評価を得ています。「WEB」面談の最大の利点は、移動時間を削減できることだと思いますが、「WEB」の利点を踏まえ「対面」と併用した運用は、「面談」本来の目的を遂行するために有用であり、このことは、全国に拠点をもつ企業の健康経営推進や点在するグループ拠点社員の健康管理推進のための大きな原動力になると確信しています。
さらに、緊急事態宣言中の契約企業様向け「オンライン健康相談」サービスにおいて、「WEB」での個別健康相談をはじめ「WEB」方式ワークショップを取り入れた健康経営推進の議論や、オン・オフの区切りをつけにくい在宅勤務における生産性向上を目的とした「WEB」ヨガを展開して得られたノウハウを生かし、コロナ禍での産業保健業務の合理的効率化の視点をもった見直し案や新たな施策展開を、引き続きご提案していきたいと思います。

新しい働き方を支える産業保健とは
「機能する産業保健」のその先へ
働き方改革がコロナ禍で加速する中、働くことへの考え方が“やりがい”や“生きがい”重視に変わり、テレワークを中心とした「新しい働き方」の導入による人財管理への影響、テレワーク中の従業員の健康管理(フィジカル・メンタル)の複雑化、生産性の低下への懸念など、企業側のニーズがわかってきました。
これから5年の変化は過去50年の変化に匹敵するという人もいますが、コロナ禍を経験した産業保健サービスを提供するコンサルティング会社の専門家集団として何ができるのか、チーム内で議論を重ねてきました。
チームのコンセプトである「機能する産業保健」を軸に、“社員の個性を重視した健康管理・パフォーマンス向上”から、“組織の活性化に向けた支援”まで、お客様に伴走しながら、企業理念・風土に寄り添った包括的な価値創造を、ワンストップサービスとしてご提供していきたいと考えています。
最後に私事で恐縮ですが、テレワーク中のちょっとした時間で、家庭菜園で育てた野菜たちをゆっくり眺める時間がとれるようになりました。無意識にやっていた気分転換や楽しみを意識化し、新しい生活様式を自分の生活に落としこみ、一人の働く女性としてこれからも様々な状況に柔軟に適応していきたいものです。

執筆:金子 奈美 Nami KANEKO
株式会社メディヴァ コンサルタント。保健師。保健師資格取得後、政令指定都市で地域保健業務を経て、同市職員の健康管理他、産業保健スタッフのマネジメント、市議会対応に従事。また公営企業(水道・交通)の安全衛生管理体制の構築や健康増進施策の企画運営を行い、市が推奨する健康経営の推進のための施策の立案、体制構築、運営も担当。企業理念に基づいた生産性の向上と組織の活性化を目指すメディヴァの産業保健活動に共感し、2018年より参画。

■関連事業
メディヴァ 健康経営・健保組合向け支援サービス