2019/11/05/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

コメディカルの採用について

コンサルティング事業部
コンサルタント 長谷川チャッチャワン

厚生労働省「民間人材ビジネス実態把握調査(事業者/労働者)」の結果から、今後3年程度の人員数を「増やす予定」と回答した割合をまとめ、各業界のデータを集計しました。全業界と比較し、医療・福祉業界は「増やす予定」と回答した割合が高いことが分かりました。

業容拡大や人手不足など、採用の背景には様々な理由がありますが、今回は弊社が支援している女性向け健診クリニックの採用成功事例を採用市場等と併せて紹介いたします。

医療従事者の採用市場について

医療従事者の有効求人倍率は約4.4倍で全業界平均は1.5倍(厚生労働省「職業安定業務統計」2018年10月時点)であります。有効求人倍率は、ハローワークにある求人数と求職者数をもとに算出しており、有効求人数を有効求職者数で割って算出しているため、倍率が1を上回れば人材を探している企業が多いことを意味しています。

医療従事者の有効求人倍率は約4.4倍ですので、1人の求職者に対して約4つの医療機関からオファーが届いているような状態です。また、都道府県別にみると有効求人倍率の10倍を超える県が複数あります。そのため採用を成就させるためには、より多くの求職者と接触したり、競合となる施設との差別化を図ったりするなど、様々な工夫を凝らした上で時間的・金銭的な投資を適切に行う必要があります。

採用の手段について(抜粋)

1.民間の職業紹介機関(人材紹介会社)

求職者との面談を通して、求職者の人物像や将来像を把握し、取引先の法人(医療機関)に求職者を紹介します。昨今、紹介会社の専門化が進んでおり「職種地域」「勤務形態」「性別」など求める人物像に沿った人材を扱っている紹介会社の選定を行うことで、より良い人材の採用ができます。

2.求人広告(WEB媒体・紙媒体)

例としてマイナビやリクナビ、新聞広告や有料求人誌などがあります。求人情報の宣伝に特化したWEBサイトや求人情報をまとめた広報誌に広告を出稿し、求職者からのお問い合わせを狙います。写真やPR文を掲載することができるので、職場の雰囲気などが分かるような構成にすると採用に繋がりやすくなると言われています。

3.直接アプローチ(スカウトメール・ダイレクトメール・メルマガなど)

人材紹介会社やWEB求人広告などにご登録されている求職者に対して、求人サイトを通じてスカウトメール送信やダイレクトメールを郵送など求職者のご住所やメールアドレスなどの情報を活用する方法です。(人材系企業が求職者に送信・郵送するので、求職者の情報が医療機関に渡ることはありません)

4.知人・友人・従業員等からの紹介

同級生の大半が同じ職業に就くことが多い医療業界では昔ながらの手段です。コストがかからず、信頼のおける人からの紹介ですので昨今、再注目されている手法です。

5.その他

主にハローワークなどの「公的機関」や「大学医局」「就職フェアの参加」、マンパワー不足等を解消するために、採用のアウトソーシングをする「採用代行」などがあり、採用における手段は人材系の企業が日々研究を重ね、今後はサービス内容拡大の一途をたどっていくと考えられます。

女性向け健診クリニックの臨床検査技師3名の採用成功事例

採用活動は求職者の「情報収集」「院内調整」「適切なアプローチ」の3つの活動を繰り返し行っていくことがとても大切です。私は2019年5月中旬に臨床検査技師の採用担当として着任し、3ヶ月以内に常勤2名、非常勤1名の合計3名の臨床検査技師の採用ができました。着任以前は求職者からの応募が全くなく、非常に困っていた様子でした。今回は上述した3つの活動を具体的にどう行ったのかをご紹介いたします。

情報収集

通常、中途採用は最低限必要なスキルを持っている人を前提に、ご年齢や性別などを限定します。当該クリニックは女性向けの健診クリニックですので、心電図や眼底検査などといった生理機能検査のご経験、とりわけ乳腺と腹部の超音波検査経験が3年以上で、院内のパワーバランスを勘案すると20代後半~40代前半までの女性の臨床検査技師が理想像にありました。理想像に合致した技師を採用するためには理想像の情報収集が大切です。今回は、採用市場の最前線にいる人材紹介会社に理想像に合致する求職者の情報を伺いました。

■出産育児を念頭において、転職活動をしている人が多い。
 以下の要望がある方が多いそうです。
 ・保育園のお迎えの時間に間に合うような地域・時間内の勤務で、出張がない職場であること
 ・給与よりも、勤務時間や休日などの条件がご自身の条件に合致した職場であること
つまり、「アクセスの良さ」「給与条件」をウリにしていた当該クリニックは、求職者が求めている条件(「保育園のお迎えに間に合う就業時間」「出張がない職場」)との間でミスマッチが起きていたことが分かりました。しかしながら、全員が勤務時間等を念頭に置いて転職活動をしているわけではないため、その他にも要因があると思って色々と話を伺ってみると付随して超音波経験のある臨床検査技師の情報も得られました。

■超音波検査の経験を積みたい求職者はいるが、超音波検査の経験がある人は少ない。
 ・給与が低くても良いから未経験から超音波の経験を積みたいという求職者は案外多い。
 ・人員不足等で「未経験者も可」の募集をしているところがなく、超音波検査の経験を積む機会がない。
 ・新卒入職した病院で超音波検査を実施している部署・チームに配属されない限り、超音波検査を学ぶ機会がない。
そもそも超音波検査の経験者が少ないことと、勤務時間の折り合いがつかないことの2つの要因が重なり、クリニックに魅力を感じていても応募まで踏み込めていないことが分かりました。

院内調整

得られた情報と募集条件を見比べて、譲歩できる条件と譲歩できない条件を整理し、募集条件の調整をします。情報を整理するためには、2つのステップを踏みます。

 ■譲歩できる条件を現場スタッフに確認すること
 ■譲歩できる条件を全て反映した場合、経営的に問題ないかを事務長(経営層)に確認すること

募集条件は変えられないものとして思いがちですが、よくよく考えてみると譲れなくもない条件が意外とあるため、必要に応じて現場スタッフ・経営層に確認することをオススメします。当該クリニックの現場スタッフ・経営層は下記を譲れる条件として判断しました。

■乳腺の超音波検査・腹部の超音波検査、どちらかの経験が2年以上で調整可能
当該クリニックは人員不足で募集を始めたため、現場スタッフは猫の手も借りたい状況にあります。ただでさえ、超音波検査経験者が少ないのにも関わらず、乳腺・腹部の両方の経験がある方と受け入れ間口を狭めていたら自らの首を絞めることとなってしまいます。また、どちらかの経験のみの方の場合は教育等のコストがかかってしまうため、給与を少し下げれば条件を変えても良いという経営判断が下りました。

■「出張なし」の条件でも調整可能
出張あり・なしで給与に差はつけることを条件に、求人条件を変更しました。また、就業時間についてはシフト調整である程度の対応は可能だけれども100%希望に応えることはできない旨を面接時に伝える方針となりました。
院内調整の結果を整理すると、「就業時間の変更はできないけれど、求めているスキルを持っていなくとも受け入れは可能」ということとなりました。

適切なアプローチ

採用の手段で記した通り、採用には様々な手段があります。最も大切なのは「求職者に伝えたい情報が、伝えたいように伝わること」です。その手段として「人材紹介会社」と「メルマガ配信」を選択しました。理由は、制限なく情報が伝わるからです。求人広告等の広告はある程度フォーマット化されていたり、入力できる文字数が制限されていたりするため、ある程度自由の利く、人材紹介会社とメルマガ配信を選択しました。

■人材紹介会社について
求職者と対面で会話をするため、エージェントの腕次第ではクリニックの情報を魅力的に伝えることができます。エージェントがクリニックをきちんと理解し、自分の言葉でクリニックを語れるようにするために電話やメールで情報提供をするのではなく、対面で情報提供することにこだわりました。エージェントが腹落ちするようにしっかりと情報を伝えるため、電話やメールでの追加質問などの対応にとても時間を要します。

■メルマガ配信について
人材系企業が求職者に対して「おすすめ求人特集」として当該クリニックを紹介する手法です。文面は人材系企業のチェックが入りますが「文字数制限がないこと」「好きな画像を文面に表示できること」がメリットとしてあります。デメリットは高価(相場として、20万円/配信)であることです。

上述したアプローチを実行した結果「メルマガ経由:3名」「紹介会社経由:10名」の応募があり、3名の採用に成功しました。

最後に

「人材紹介会社に連絡したけれど、数か月経ったら連絡が来なくなった」「給与が高いのだから1ヶ月に数回の出張くらい…」などなど、当該クリニックのように「アクセスが良く、給与も相場より高い」と客観的にみて良い職場でも「相手目線」を忘れてしまうと採用に困ってしまうケースがあるのだと、改めて感じました。逆に言えば「相手目線」を徹底した職場は、アクセスなどの条件が悪くとも、自然と人が集まるのではないかと感じた案件でした。採用がうまくいっていない場合「相手目線に立てているか」をいま一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

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