新型コロナウイルスの脅威が、とうとう日本にも来ました。ただ、現段階ではまだ中国のように「患者が多発して、多くの人が亡くなる」という脅威ではなく、その予兆により「社会や経済が混乱に陥る」という脅威です。
2月25日に厚生労働省が都道府県等に出した事務連絡にも、「この時期は、今後、国内で患者数が大幅に増えた時に備え、重症者対策を中心とした医療提供体制等の必要な体制を整える準備期間」とされています。ただ、現在発表されている内容では、果たして適切に感染拡大期に整える体制が出来つつあるのかが、心もとなく感じます。
新型コロナウイルスについては、まだ分かってないことが多すぎます。分かっていることは、(1)感染力が非常に高い、(2)高齢者や基礎疾患のある人の死亡率は高い、(3)大丈夫そうに見えても2週目くらいから急激に悪化することがある、(4)特効薬はない、程度です。暖かくなるとウイルスが死滅するというのは未確認ですし、お湯を飲むと掛からないというのはウソです。
知人の救命救急医がWHOやダイアモンド・プリンセス号のデータより推論したものによると、感染し発症した人のうち鼻腔カニューレで酸素を吸入しなくてはいけない患者は約20%、そのうち人工呼吸器が必要になる患者は50%、さらに重症化して対外循環呼吸器(呼吸ECMO)が必要になる患者は10%だそうです。
発症率が分かってないのでですが、仮に約1億人の人口に対して100万人が発症したとすると、酸素が20万人、人工呼吸器が10万人、呼吸ECMOが1万人分必要となります。この数字を見て分かることは、最終ステージの人工呼吸器、呼吸ECMOのキャパシティが圧倒的に足らないであろうこと。
クルーズ船の重症患者を診ている病院によると、徹底した感染管理を行わなくていけなく、数名患者が在院しているだけで、病院の機能はかなりマヒするそうです。その分のコストはどこからも補填されません。しかも、そのような患者を診ていることが外部に知られると風評被害で一般患者が来なくなるので病院にとってはダブルパンチです。
日本の医療制度には、感染症指定病院(特定4機関、第一種55機関、第二種351機関、合計約400機関)というのがあります。そこには感染症病床があり、陰圧対応しています。しかしながら各機関にそれぞれ数床しかないので、合計病床は2000程度です。だだ、それらの病院には感染症病床以外に結核病床もあるので、受け入れ拡大の余地はあります。
先般の厚労省の事務連絡には、今後患者が増えた段階では一般医療機関の外来で診ることや感染対策をしながら地域の病院で診ることを述べています。しかしながら、これはマズイ。感染力が高く、重症化することがある新型コロナ対策として、まず絶対にやらなくてはいけないことは、「導線の分離」です。患者のいる場所とそうでない場所を混ぜてはいけません。混ぜると、ダイアモンド・プリンセス号の二の舞になってしまいます。
今後求められる策は、下記のとおりと考えています。
・新型コロナの患者を診る医療機関と診ないない医療機関は明確に分けること。(入院も、外来も)
・3次救急病院等、その他の重症患者を救わなくてはいけない病院は、新型コロナは診ないこと。
・新型コロナの患者を診るのは感染症指定病院を中心にし、感染症病床だけではなく、結核病床等に広げること。
・診る病院に呼吸ECMO等の機器を集めること。
・診る病院のスタッフが疲弊しないように、診ない病院のスタッフと定期的に入れ替えること。(潜伏期間があるので、休む期間も入れる)
・診る病院は、他の患者が来なくなるので金銭的に保障をすること。
・医療スタッフが万一感染して、亡くなるようなことがあれば金銭的保障をすること。
大事なのは、重症患者を治療するキャパシティの拡大と、そこに至る患者の数を減らすこと。そういう意味では、ピークを単にそのままにしたまま後ろにずらしても意味がなく、平準化しなくてはなりません。いきなり爆発的に感染拡大を起こらないように大きなイベントを自粛、中止することには意味がありますが、小さなイベントも中止し、学校を休校にし、ピークを後ろにずらすことは意味がないでしょう。暖かくなったらウイルスが死滅すれば、意味があるでしょうが、残念ながらそうなるかは科学的には未確認です。
ちなみに今、ワイドショー等で言われている「軽症コロナも含め、全件検査せよ」、「検査のキャパシティを増やすために、保険適用し一般医療機関でも診るようにせよ」というのは逆行していると思われます。
いずれにしても、日本は経済が冷え込んでいるところに、ダイアモンド・プリンセス号の失策で国の威信を失いました。新型コロナのコントロールに失敗し、感染が拡大して重症者は死亡し、医療機関が機能不全に陥り、オリンピックも中止になる。このような悪夢はなんとしても避けたいものです。
新型コロナとの闘いはまだ始まったばかりですが、皆様の健康をお祈りしています。