海外事業部
コンサルタント 鮑 柯含
前回のブログでは、アジア健康構想に関する調査の背景と概要についての紹介がありました。今回は、調査テーマの3つのうちの1つ目「アジアに紹介すべき日本的介護の整理」についてです。
本調査において、日本の介護の特徴は「地域包括ケア」であり、その中で実践されている「自立支援に資する介護」と定義しました。今回は、主に地域包括ケアシステムについてです。後半では、弊社が行った5法人へのヒアリングをもとに、草の根からはじめる地域包括ケアシステム構築のためのエッセンスを紹介します。
地域包括ケアとは
重度な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることできるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されること。地域包括ケアシステムは「自助・互助・共助・公助」の視点での財源、およびサービス資源によって実現される、とされています。
図表1 地域包括ケアシステムの5つの構成要素
出所:厚生労働省、「平成28年3月 地域包括ケア研究会報告書」より
なぜ「地域包括ケア」をアジアに紹介すべきなのか?
アジアの国々のほとんどは、介護保険制度をもたず、医療保険制度が未整備な国も多いです。これらの国は今後、日本を超えるスピードで高齢化が進むことが予測され、このままでは医療・介護の保険制度やサービス、社会福祉制度が整備されないまま、深刻な高齢化を迎える可能性が高いと思われています。
そのようなアジア諸国において、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで送れるように地域がサポートし合う、日本の「地域包括ケアシステム」の仕組みを発信することは有用であると考えます。
現在、日本の「地域包括ケアシステム」は法制化され、各基礎自治体に整備義務が発生していますが、地域の課題を解決するために住民が自主的に創発したものが法制化されたという歴史を経ています。そのため、制度化以前に日本での地域包括ケアシステムの要素や構築の手法や、ボランティア等の互助の仕組みなどは、その国の社会システムや文化に合った仕組み作りが可能と考えています。
この「草の根」による地域包括ケアシステム構築のプロセスと、成功の鍵を探るのに、介護保険の前から先駆的に実践してきた5法人に訪問調査を実施しました。その中には、医療法人もあれば、社会福祉法人、生活協同組合などもありました。以下に5法人の経験から得られた、地域包括ケアシステム構築のためのエッセンスを紹介します。
地域包括ケアシステム構築のためのエッセンス
草の根から地域包括ケアシステムを構築するためには、まずは地域関係者が共通した理念と視点を持つことが重要です。視点には、本人主体の視点と地域優先の視点の2つがあります。
図表2 地域包括ケアシステム視点
また課題の発見においては、ミクロの視点で個人の困りごとに向き合うのと同時に、地域全体をマクロの視点から俯瞰して課題を捉える必要があります。
図表3 地域包括ケアシステムのアプローチ
出所:メディヴァ作成
〇草の根による地域包括ケアシステムの構築上のプロセス
そして草の根による地域包括ケアシステムの構築上のプロセスは、以下のようにまとめることができます。
図表4 草の根による地域包括ケアシステム構築のプロセス
〇推進主体に共通する3要素
地域包括ケアシステムの構築の中心を担った推進主体には、次の3つの要素が共通しています。
・一貫した理念による人材育成
・地域課題の発見と解決までのプロセスマネジメント力
・対外発信と巻き込み力
図表5 地域包括ケアシステムの推進主体に共通する要素
〇地域包括ケアシステム構築の課題
地域包括ケアシステムを構築する際にあげられる課題には、「キーパーソンの確保と育成」、「他機関との協働・住民の理解」、「財源の確保」の3点が挙げられます。
・キーパーソンの確保と育成について
以上の事例の日本事業者は理念の浸透および環境づくりに注力していました。地域包括ケアの理念に賛同する人材をキーパーソンとして、日々の業務の中で理念が浸透できるように教育しています。各専門職間の理解と他職種協働の意識づくりにも注力しました。最後に、人材の主体性が発揮できるような環境を作ることです。
・他機関・住民との連携関係
協力してもらうのではなく、協働するように工夫していました。特に、課題の発見段階から、他機関や住民を巻き込み、課題に対する共通の認識をもたせることが重要です。また、サービスの実施段階では、閉鎖的に実施するのではなく地域に開放し、地域住民であれば誰でもサービスの受け手、支え手になる仕掛けに工夫します。
・財源の確保
これは大きな課題となります。サービス創出当初は、推進主体からの援助や、地域の他機関・他団体のインフォーマルな資源の活用が原資となる場合が多いが、まずは実践をして成果を出し、サービスの必要性を行政に働きかけることで、結果的に制度化に繋がり、安定的な活動費を確保する事例がありました。
終わりに
以上の日本の地域包括ケアシステムの構築事例においては、それぞれ地域によって、課題や活用できる資源が異なり、推進主体も介護事業者、医療機関、あるいは地域住民まで大きく異なっているものの、構築までのプロセスや理念には共通する部分も多いです。いずれも、日本特有の保険制度に基づいて構築された訳ではないという事実は、諸外国にとって地域包括ケアシステム導入の後押しになるではないでしょう。海外の国や地域においては、それぞれ地域の課題や、地域資源は異なるものの、構築プロセスやそこで生じる課題の解決事例が参考になればと思います。
次回は、今後の介護人材不足問題に関係する「人材還流・教育関連」について、紹介します。その中で、介護分野の技能実習生や介護事業者の生の声をご紹介します。
執筆者:鮑 柯含│Kehan BAO
株式会社メディヴァ コンサルタント。中国上海出身。中国華東理工大学ソーシャルワーク学科卒業後に来日。日本女子大学、精神科ソーシャルワーカーについて研究。医療と社会福祉の円滑な仕組みを構築し、高齢者事業を中心に中国と日本の双方に貢献したく、2015年に入社。 入社後、日本の経験を活かした海外での健診センター、高齢者事業の設立などを担当。