コンサルティング事業部
コンサルタント 加藤 真道
~はじめに~
医療機関や介護事業所等で安定的な利益を確保するためには、費用に占める割合が最も多い“人件費”のコントロールは極めて重要です。人件費は給与単価と職員数により構成されており、職員数は各部署の人員配置によって決まるため、経営者は十分な検討を行い、その数を決定すべきものと考えます。医療機関等では施設基準等により配置基準が定められていますが、基準並みの配置では、“忙しすぎる”、“業務を回せない”、“事故が起きる”、“有休が取得できない”など現場からの不満の声があがり、詳細に検討をしないまま増員していないでしょうか。
今回は、人員配置基準に基づき人員配置を決定するのではなく、実際に必要な業務量から必要人数を割り出し、人員配置を設定した介護施設の事例を紹介させていただきます。
~介護業界の現状~
具体的な事例をご紹介する前に介護職員数の現状と将来予測について改めて確認しておきましょう。ご存知の通り、要介護(要支援)者は年々増加おり、それに伴い介護職員も増加しています。
しかしながら、2018年の厚生労働省「第7期介護保険事業計画」に基づく介護人材の需要推計から、2016年度の約190万人に加え、2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人の人材確保が必要であると発表しています。中長期にわたり介護人材を確保すべく、離職を見込んで先行して採用を行っている施設も多いのではないでしょうか。
~事例紹介:特別養護老人ホームユニット型~
今回ご紹介する事例は、職員の“忙しくて現場が回らない”、”利用者さまへのケアの質を担保するにはもっと配置が必要“、”離職した場合のリスクに備えて、ある程度多めに配置しておくべき“という現場の声を受け、収支のバランスを考えずに人員配置を行ったユニット型の特別養護老人ホームです。
現状把握
初めに弊社にて費用のベンチマーク分析を行ったところ、同規模施設の平均と比較し看護・介護職員常勤換算数が4.6名多いことがわかりました。さらに人件費の占める割合が極めて大きく、人件費の削減なくして経営改善が不可能であることがわかりました。
次に各部署のヒアリングを実施したところ、現場マネージャーからも「配置人数は多いと思う」との話がありましたが、一方でマネージャーやケアマネ等の他職種が介護業務に参加しなければならない状況にあり、自身の業務に支障が出ていることがわかりました。
また、業務によっては明確に担当が決まっておらず、業務の押し付け合いをしていました。
このような状況から、全体の業務内容と業務量の把握、及び業務毎の役割分担を十分に行っていないことが明らかになり、現状の業務スケジュールを作成することから初めました。
一日の配置として2ユニットに対し、早番2名、日勤2名、遅番2名、夜勤2名、パート1名の9人が業務していることがわかりました。加えていつ、誰が、何をしているのかを把握することができました。さらに明確な業務がない時間帯(黄色)があることがわかりました。
課題と対策
現状が把握できたことで、課題が明確になりました。
(1)現場の主観的にも人員配置は多い
(2)担当が決まっていない業務がある
(3)時間帯によっては業務の割り当てがない人がいる。
これらを解決するために、以下の3点に留意し、モデル業務スケジュールを策定することにしました。
サービスの質・量の低下させずに、配置職員数の見直し(職員数削減の目標値の設定)
管理職や他職種を介護職業務から分離し、看護・介護職のみで介護業務を実施
職種間の連携を向上させ、効率的な業務遂行の実現
実現可能性の高いモデル業務スケジュールを作成するには業務毎に必要時間、必要人数等を正確に計測する必要があります。そのため、現場スタッフへのヒアリングだけではなく、実際に現場に行き、業務にかかる時間を目視により計測しました。加えて現場スタッフの感覚値と実際の計測値の乖離等について再度ヒアリングを行い、現場スタッフに現状を正しく認識してもらい、職員でムリなく遂行できる時間・人数についてディスカッションを行いながら一緒に設定していきました。
モデル業務スケジュールを策定するうえで“業務量の平準化”は重要です。業務量が最大となる時間帯に必要な人員をベースに配置を行うと、それ以外の時間帯で業務の割り当てがない人が出てしまいます。
既存の業務を“時間固定業務”と“時間非固定業務”に区別して認識し、時間非固定業務は業務量の平準化のため実施時間を変更しました。
さらに業務の割り当てがない時間帯について、担当を変更し、配置人数の整理を行い、下記のモデルスケジュールを作成しました。
※より正確に業務時間を反映させるため、30分単位から10分単位に表記を変更しました。※
職種間の業務分担
より効率的な人員配置を目指し、介護職員から看護職員への業務移管と、看護職員のユニット配置を検討しました。これにより職種間のコミュニケーションを取りやすくなり、連携が向上し、円滑に業務を行えるようになりました。
看護職員の配置を加えたモデルスケジュールは下記の通りです。
結果として、2ユニットに対して、早番2名、遅番2名、夜勤1名、パート1名、+看護師1名の配置となり、9人から看護職員を含めて7人に配置を削減できるスケジュールが完成しました。
モデル業務スケジュール作成結果
モデル業務スケジュールの作成により、介護職員を常勤換算で5.0名削減できることになりました。職員数削減については、リストラではなく、退職不補充とし段階的に実施することにしました。
モデル業務スケジュールでシフトを組む前に、テスト運用を行い、問題点の洗い出しなどを行いましたが、大きな問題は無く運用することができました。
~最後に~
全ての医療機関等で安定的な利益を確保するためには費用に占める割合が最も多い“人件費”のコントロールは極めて重要です。 “忙しすぎて業務を回せない”、“有休が取得しにくい”という声に対し、すぐに増員を計るのではなく、現場の業務内容、業務量、担当者などについての把握が改善の第一歩です。他施設の配置などをそのまま使用してもうまくいきません。現場に足を運び、現場スタッフとコミュニケーションを取りながら、みなさまの施設にあった業務スケジュールを作成することをお勧めします。