2017/05/15/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

在宅クリニックにおける集患活動のポイント

在宅医療コンサルタント 工藤廣行

はじめに

 現在、私は、事務責任者という立場で2つの在宅クリニックの運営支援に携わっています。うち1つのクリニック(以下「A院」)は、開業してちょうど2年が経過しました。近頃では地域のケアマネージャー、訪問看護師、病院の退院調整看護師やソーシャルワーカーの方々(以下「多職種」)から「知り合いに聞いたら、A院に相談してみたら?と教えてもらって…」という電話が頻繁に掛かってくるなど、順調に患者数を伸ばしています。そこで私からは、在宅クリニックにおける集患活動のポイントを紹介させて頂きます。

 まず、開業から集患を安定化させるまでの一般的プロセスですが、外来=【患者】/在宅=【多職種】というアプローチ対象の違いがあるだけで、(認知 → 試行 → 継続)という流れは同じと考えています。このアプローチ対象の違いを意識しつつ、集患活動の各段階でどのような対応が求められるのか整理したいと思います。

集患安定化までの一般的プロセス

■外来の場合
(1) 認知・・・診療圏の【患者】にクリニックの存在を知ってもらう
(2) 試行・・・(試しに)受診してもらう
(3) 継続・・・リピート通院(+家族友人への口コミ紹介)

■在宅の場合
(1) 認知・・・診療圏の【多職種】にクリニックの存在を知ってもらう
(2) 試行・・・1人目の患者を紹介してもらう
(3) 継続・・・リピート紹介(+仕事仲間への口コミ紹介)

Firstステップ(認知 → 試行)

 在宅における認知とは、多職種との「顔の見える関係」作りです。自分自身が患者として診察を受ける外来であれば、「家or職場に近くて便利だから」、「外観が新しくて綺麗だから」など、クリニックの中身を良く知らなくても自己責任の範疇で試しに受診することもあるかと思います
 しかし、在宅の場合、クリニックを選択(紹介)するのは、患者や患者家族よりも多職種というケースが圧倒的に多くなります。例えばA院では、約9割が多職種からの紹介、残り1割が患者や患者家族からの相談で訪問診療を開始しています。多職種も無責任にクリニックを紹介することは出来ませんから、自身の目や耳で医師やクリニック全体の雰囲気をある程度把握(=「顔の見える関係」)したうえで、もしくは仕事仲間から評判を聞いたうえで、1人目の患者紹介に至ることが多いようです。

 「顔の見える関係」作りと言っても、それほど難しく考える必要はありません。A院では訪問可能エリア(診療圏)を行政区全域としていますが、クリニックの存在をまず知ってもらうべき診療圏の多職種拠点(居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、病院)は約100ヶ所でした。外来の場合、診療圏の住民(当該行政区の人口:約30万人)の多くに知ってもらう努力が必要ですが、在宅であれば100ヶ所にアプローチすれば良いのです。
 例えば、開業告知や案内資料を、郵送ではなく直接訪問して手渡しすることも有効な方法の1つです。移動時間含め挨拶周りに1拠点あたり平均30分掛けたとして、100ヶ所合計で3,000分=50時間ほど(仮に挨拶周りを任せられるスタッフがいて、専念させれば1週間ちょっとで遂行できます)。地道な活動ですが、在宅担当医師が外出したついでに、近くの拠点に立ち寄り5~10分会話をするだけでも、多職種と少しずつ「顔の見える関係」は出来てきます。もちろん、多職種向け勉強会などを開催し、クリニックの存在や医師の雰囲気などをPRすることは可能です(A院でも多職種向け勉強会を昨年度合計6回開催しています)。

 しかし、地域である程度の知名度がないと、勉強会を企画しても参加者集めに苦労することもあるようです。遠回りに見えても、やはりコツコツと多職種拠点に顔を出して、名前を覚えてもらうこと(=「顔の見える関係」)が集患に必要な下地となります。

Secondステップ(試行 → 継続)

 在宅における継続とは、多職種との「信頼関係」作りです。この「信頼関係」は、紹介患者の診療を通じて自然と生まれてくるものです。当然ながら医療機関として全ての患者を分け隔てなく同様に診療 します。しかし、集患活動において1人目の紹介患者対応は、特に重要な意味を持ちます。
 「信頼関係」がまだ十分醸成されていない1人目の紹介患者の診療初期段階において、多職種も巻き込むようなトラブルが発生すると、当該多職種から次の紹介に繋がらなくなってしまうことがあるためです。トラブルの原因が医師やクリニック側にあれば次回紹介が無くなるのは当然ですが、医師やクリニック側に非が無かった場合も注意が必要です。多職種も自分が紹介した患者対応で医師やクリニックに迷惑を掛けてしまったという負い目を感じる方も少なからずいらっしゃいます。次回紹介候補が現れた際、前回迷惑を掛けてしまったので相談し難いという心理的バイアスがかかることのないよう、患者や患者家族だけでなく多職種に対する配慮も必要です。
 また、開業後しばらくは、既知の在宅クリニックでなかなか受け入れてもらえない対応困難な患者を紹介されることも多いかと思います。対応困難な理由は、医療依存度の高さであったり、患者や患者家族が特殊な性質であったりと様々です。もちろん無理して全て引き受ける必要はありません。ただし、このようなケースできちんと対応すると、当該多職種と強固な「信頼関係」を一気に構築することができます。多職種同士の口コミは何にも勝る宣伝効果を発揮しますが、良い評判が広まるのは対応困難事例での成功体験が多いようです。クリニックの知名度が高くない時期の評判は、その後の集患活動に与える影響が大きいことを意識し、クリニックとして余力があれば対応困難な患者の受け入れ相談(紹介)も前向きに検討してみる価値はあるでしょう。

Thirdステップ(集患 → 増患)

 在宅における集患安定化とは、多職種との「持続的な連携体制」作りです。信頼関係にある多職種が一定数に達すると、同時並行で複数の良いサイクル(認知 → 試行 → 継続)が回り出し、次第に患者数が増えてきます。言うまでもなく、集患活動・増患対策どちらも大切ですが、この段階になると、クリニックの規模によって、集患活動をしばらく継続するのか、早々に増患対策に軸足を移すのかというバランスが重要になってきます。患者受け入れ相談を断るような状況が続くと、信頼関係をせっかく築いた多職種からの紹介が遠のいてしまう懸念があるからです。
 ちなみに、現在A院では、多職種からの相談に応じ続けられる(=「持続的な連携体制」)よう、クリニックの受入れ患者キャパシティ拡大に向けて、医師を含むスタッフの増員、周辺業務の効率化などに取り組んでいます。

最後に

 以上が集患安定化までの一般的プロセスになります。最後にこれまで述べてきたことの繰り返しとなりますが、在宅では、患者紹介チャネルが地域の多職種に集約されていることを意識し、いざという時に何でも相談しやすいクリニックであり、そのことを多職種に周知し続けることが集患活動のポイントだと考えています。

執筆者:工藤 廣行
神奈川県出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。金融法人において人事制度構築や経営企画、子会社の経営管理を担当。2013年4月、(株)メディヴァに参画。生まれ育った湘南の地に、患者様及びご家族様に寄り添った在宅医療サービスを根付かせ、それを神奈川全域、さらには全国へと広げて行くことを志す。

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