コロナ禍での病床稼働率安定事例

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コンサルタント 小原 広基
コロナ禍において、病院経営は、補助金を除くと非常に厳しい状況が続いています。その背景としては、救急医療の医療資源がコロナに寄せられたこと、急性期病床の一部がコロナ専用になったこと、予定系手術の先送りがなされたこと等が考えられます。
また、受診抑制や感染管理の徹底によるコロナ以外の感染症減、健診控えによる外来受診減につながったケースも経営悪化の一因として挙げられます。
そうした様々な理由で、コロナ禍における多くの病院が苦境にさらされていますが、そのような状況下でも、様々な工夫を凝らす余地はあります。今回は、そうした工夫の一事例をご紹介させていただきます。
事例:医療・介護連携による高齢社会の病院づくり
複数の高齢者施設との連携強化によって、病床高稼働を実現した民間二次救急の病院の事例です。
そこでは、大きく分けて2つの施策に取り組んでおり、入院施設の持つキャパシティを最大限に活用していました。
(1)患者を集める ⇒ 高齢者施設との密な連携による安定した集患
(2)働き手を集める ⇒ 非専門職者の労働資源化による患者受入れ体制の強化
(1) 高齢者施設との密な連携による集患
その病院では、MSWや医師事務作業補助者で構成されたチームを設け、施設専門外来という、高齢者施設専用のコールセンターと診察室を設けました。
最初の受診相談を受けた電話で、医師と相談し、話される症状から検査や入院になるという仮説をたて、その時点で院内の関係部署に準備の指示が回っていました。
その準備により、施設から患者が到着すると、受付をするのが早いか検査に行くのが早いかくらいの速さで案内がなされ、患者自身や施設スタッフの院内での待ち時間が最短になるような流れとなっていました。施設ではスタッフが受診に付き添うと、その分、施設内が手薄になるという特性を持ち、それを軽減する設計は、施設に選ばれる病院作りとなっていました。
その結果、多くの近隣施設から選ばれ、入院患者は、ほぼ100%が高齢者施設の入居者となっていました。
(2) 非専門職者の労働資源化による受入れ体制強化
また、病床の高稼働を支えるスタッフにおいては、家庭との両立を希望するこれまで医療現場では働いたことがない地元の主婦層を大量に採用し、ベッドメイクや移動、入退院時の病室の原状復帰等を行っていました。
そのメンバーは、患者に直接触れる支援は行わず、感染症予防等の一定の初期教育を受け、9時~14時まで時給千円程で、扶養範囲内を目安にしながら就労されていました。
一人あたり週3~4日程度の出勤頻度で、約100床に対し、1日あたり10~12名の人数でシフト構成されていました。
その病院では当初、看護師の離職を理由に配置基準が保てず、病床を80%程で稼働させていましたが、新たに採用した主婦の方々で負荷分散を促し、看護師の離職を止めることに成功しました。その結果、人員配置基準を満たしたことで常に満床とする事ができるようになり、それが、病床高稼働化を促進し、大幅な増収・増益につながっていきました。
人口動態や高齢者の住まいの選び方、女性の求めるライフスタイルといった社会で起こる変化の潮流に逆らわず患者と職員を集めた施策は、多くの地域で再現性が高いと考えられ、社会ニーズに合わせた施策の組み立ては、多くの医療機関で参考になるのではないかと考えます。
上記事例のポイント(1):病床稼働の維持の重要性の確認
病床稼働率は、病院経営にとって一つの生命線となっています。人件費や設備投資などで固定的な費用が多くかかっているのが病院経営のため、収入が少し減ると、途端に利益が圧迫されてしまいます。そのため、様々な手を尽くしてでも、病床稼働を維持・向上させることが大事であり、そのために経営陣と現場が一体となって動けたことが、成果に繋がったと考えています。
上記事例のポイント(2):ポジショニング
外来・入院患者の大きな割合を占めるのは、年齢階級別における65歳以上の高齢者層です。日本は既に人口減少社会に入っており、高齢化率は概ねどの地域でも上昇傾向にあります。そして、核家族化に伴い、高齢者のみの世帯が増え、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が住まいとして選ばれるようになってきました。
こうして考えると、医療ニーズの高い層は、居宅だけでなく高齢者施設にも多く存在している事がわかり、事例の病院が「高齢者施設に住む高齢者」へ選択と集中を意図的に行っている事が見て取れます。
上記事例のポイント(3):ターゲットとの課題の共有
高齢者は、患者の体力や合併症の問題でオペをするにも躊躇されがちとなり、高度な医療が提供できず、単価の上昇が見込めません。
また、高齢者の場合、食事・入浴・排泄といった介護に伴う工数が必要になるという特性を持ち、平たく言うと「手間」がかかるのにお金になりにくい性質があり、その効率の悪さから敬遠されがちとなっています。
結果、高齢者が受診をしても早期入院に至るケースは稀で、自宅や施設に帰されるケースが多く、早期治療の機会を逸し、病状の重症化を招き、いざ入院というタイミングには病状悪化が著しく入院自体が長期化するリスクを含んでいます。
患者本人の治療期間は伸び、平均在院日数の長期化で単価の下落を招き、患者が施設に住んでいる場合においては、入院期間の延伸により、施設の介護保険報酬の減収になるという、患者-施設-病院間で、Lose-Lose-Loseの関係性となってしまいます。
上記事例のポイント(4):社会を支えるWIN-WINを目指す
この悪循環を解決するために上記事例の病院では、高齢者の早期治療・重症化予防に取り組み、負の連鎖を止め、多くの高齢者や高齢者施設との関わりにおいて、次のような効果を生み出し、患者-施設-病院間で、Win-Win-Winの構図へと昇華しています。
患者=治療期間及び施設と病院に支払わなければならないダブルコスト期間の短縮化。
施設=入院率上昇を抑制し、介護保険報酬が入ってこない期間の短縮。
病院=平均在院日数の長期化を予防し、単価下落の予防。
2018年を境に、日本人の死亡要因は、1位:悪性新生物、2位:心疾患、3位は男性が肺炎、女性は老衰と移り変わっており、『肺炎』といった誰にでも起こる傷病が死因に直結するようになってまいりました。
初期治療対象患者の早期入院を見送らず、積極的に入院対象とする事で病床稼働率は上昇し、高齢者向け医療ニーズへの応対は今後の人口動態のトレンドにも合致した施策となり、コロナ後においても継続が可能な施策と言えるでしょう。
上記事例のポイント(5):人的リソースの見直し
一方で、早期重症化予防に取り組めば、対象とする患者は増え、早期回復・早期退院の可能性は上昇し、その分、入退院に伴う病室の原状復帰等の回数が増え、その対応力が求められてきます。既存の人員とオペレーションだけで行うと回転率の上昇と共に一人当たりの負荷が高まり、忙しさに疲れた職員の離職に繋がってしまいます。
 上記の事例では、これまでライセンスや専門知識のない労働資源としてはみなしてこなかった主婦層にフォーカスし、労働資源として転換する事で安定的なベッドコントロールに繋げました。また、育児世代の子が通う教育期間が夏休み等の長期休暇に入り出勤できない間、大学生や高校生を短期アルバイトとして雇い入れていた事も印象的な取り組みであったと思います。
終わりに
コロナ禍に医療機関の経営状態の悪化は、これまで受け身であった私たち医療機関の在り方を見直し、地域のニーズととことん向き合い、少子高齢社会をどう支えていくかという社会が慢性的に抱える課題と真摯に向き合う好機ともとれます。
高齢化以外にも社会には医療に紐づく多くの課題があり、今後、単に医療をどうデザインするかという事ではなく、その課題に関わる人や暮らしをどうデザインするかという視点で、地域における新しい価値の創造を目指し、自院の経営改善に繋げて頂ければ幸いです。

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