医療機関の人材採用と定着について -透明性と公平さの重要性-

2017.10.17 [病院/診療所]

コンサルティング事業部
コンサルタント 本門宏一郎

どこの医療機関においても人材採用の成功と採用後に安定的に定着させることは、最重要ともいえる課題ではないかと思います。しかし、必ずしもうまくいっていないのが現状ではないでしょうか。

私自身、前職でも採用の仕事をしており様々な場面を経験してきましたが、今回はある病院の事例を踏まえ、採用における透明性と公正さの重要性について書きたいと思います。

ここでは少々極端なケースをご紹介しますが、病院をはじめとした医療機関における採用、ひいては経営改善のヒントとしていただければ幸いです。

 

現場でのヒアリングから離職原因を見いだす

 

その病院は、当社が支援に入った中小規模病院でした。病棟看護師の離職率が高く、慢性的な人員不足に悩まされていました。6か月以内に退職する職員が入職者全体の50%という状況です。さらに看護師不足が原因で施設基準を維持できず、収益の減少に繋がっているという問題も発生していました。

 

医療現場でのヒアリングからみえた問題点

現場でのヒアリングや調査を通してみえてきたのは、看護部長の独断による採用です。これが、適正な人材の選考や看護師の定着にも大きく影響を及ぼしていると考えられる状況でした。具体的な問題点として、採用段階と採用後にわたる下記5点を挙げられます。

 

看護師採用段階の問題

 

(1)看護部長が1人で面接対応し、経営陣の許可なく独断で採用を決定。誰がいつ入職するのか分からないということすら起こっていた。その結果、多数の目でチェックする仕組みが無く採用ニーズと実際に入職する人材のミスマッチが多発し、早期離職多数で採用しても一向に定着しない状況が続いていた。

(2)待遇も看護部長が独断で決定していた。縁故採用者は他の採用者に比べて待遇が良いこともあった。これについて、他の職員から不満の声が挙がり、在籍職員のモチベーションが低下していた。

(3)看護部長が手当たり次第に紹介会社や媒体などで募集を掛けており、本人も含めてその後の支払いや入職時期などの状況を把握できていないため、後日になって医事課では把握していない紹介料の請求などが来て、採用費用の無駄遣いも発生していた。その為、経営陣の把握できていない突発的な出費があり、資金繰りに影響していた。

 

看護師採用後の問題

(4)採用時に看護部長が伝えていた待遇と、実際に入職した後の待遇に差異があり、そのことに対する説明が無かった(夜勤手当の額が説明と違う、職務手当が支払われると聞いていたのに支払われていない等)。

これについてもマネジメントへの不信感が募り、そのことを看護部長に伝えると冷遇され、職場にいづらくなり早期離職に繋がった。

(5)看護部長の好き嫌いが激しく、お気に入りの看護師は厚遇しそれ以外は冷遇されていた。例えば、看護部長に意見した看護師は恫喝、もしくは無視されることも多数あった。これにより看護師が定着しづらい風土を、看護部長自らが作り出していた。

 

課題解決に向けた5つの施策

上記のような採用時、採用後の問題に対し、順次、以下のような対策を講じていきました。

 

(1)1次面接では事務長と看護部長、2次面接では理事というように、看護部長以外にも複数人が面接をして複数の目で応募者を評価して採用を決定するプロセスを構築した。

(2)人によってまちまちであった給与体系について、給与テーブルや手当額のルールを統一し、採用ルート別で待遇が異なることがないようにした。

(3)看護部長個人の裁量で行っていた募集を止め、一時的に当社が入り、紹介会社や媒体の活用の仕方を一元的に管理する方法に変更し、募集状況や使っているコストについて把握できる状態にした。

(4)上記(2)で待遇を統一した上で、採用面接時に待遇の内容についてしっかり説明し、応募者の納得を得るようにした。さらに採用内定通知書に待遇内容を明記した上で、書面で渡すようにした。

(5)問題のあった看護部長を降格し、後任の信用できる看護部長候補を採用した。

総じて採用全般が属人的で不透明、不公平になっていた状況に対し、プロセス全般を透明化しました。待遇に関するルールも公正を図ることで、採用の質の向上と入職後の定着率の向上を目指していったところ、着実に成果を出していくことが出来ました。

 

その後の成果

(1)早期離職が減少した。6か月以内に退職する職員が入職者全体の50%程いたが、看護部長交代後は20%程に減少。新しい看護部長が原因で退職する職員は圧倒的に少なくなった。

(2)公正な給与ルールの導入により、人により待遇条件が異なる点に関する職員の不満がなくなった。

(3)待遇に関するマネジメントへの不信感を払しょくした。

(4)離職が減り、現場職員からも前向きなコメントが多数出てきた。

・新任の看護部長から他病院でのやり方など色々教わることができて良い
・病棟の雰囲気がガラッと良い方向に変わった
・仕事自体に自信が持てた
・これまで元看護部長の指示だけを聞いて行動していたが、自分で考えて行動するようになった
・指示命令系統が明確になり、組織として動きやすくなった
・仕事に対し、責任感を持つようになった

など

看護師採用の

組織の大小に関わらず、一人の担当者に業務が偏ったり、出来ない事を長期間行わせていると、その業務内容や判断基準が不透明になりがちです。特に人事に関しては、透明性を確保し、組織的に状況が把握できるようにしておかなければ、資金面(給与・採用費用・その他経費等)や施設基準面(特に看護師)において、深刻な影響を与えうる事態を引き起こす要因の一つとなります。

今回のケースは、担当者による属人的な採用が、病院経営を揺るがしかねない可能性があることを勉強させられる機会となりました。少なからず衝撃も受け、今後のコンサルタント人生に活かせる経験になったと考えています。

これほど極端な例は、なかなかないかも知れません。しかし組織が大きくなったり、日々噴出する問題に対処しているうちで、いつのまにか大事な業務や判断を特定個人が抱えている状況になっていないか。また、顕在的な問題は起こっていなかったとしても、現在特定の担当者が一人で行っていることを、複数の目で見直すことで、より効率的で品質の高いやり方に改善できることはないか、今一度見直してはいかがでしょうか

 

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執筆者:本門宏一郎 Koichiro HONKADO
株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 コンサルタント