第40回 スタッフのビジネスマインド

2016.02.08

コンサルティング事業部 町野聡

 

今回は医療から少し視野を広げ、地域包括ケアシステムを実現するうえでも重要な役割を担う介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」という。)を例に、「スタッフのビジネスマインド」について考察してみたいと思います。
医療機関を経営しているみなさまの中には、みなしなどで指定を受け介護サービスを行っている方も多いのではないでしょうか。

ご存知の方には退屈かもしれませんが、少しだけ介護サービスの全体感とケアマネジャーの位置づけについてご説明します。介護サービスは大きく居宅サービスと施設サービスに分かれます。居宅サービスとは訪問介護(ホームヘルプサービス)や通所介護(デイサービス)などで、在宅で生活する要介護者が訪問、通いなどで受けることのできるサービスです。一方で施設サービスとは介護老人福祉施設(特養)や介護老人保健施設(老健)などに入所し、施設で生活しながら介護やリハビリテーションなどを受けることができるサービスです。

ケアマネジャーは、居宅介護支援事業所や介護老人保健施設などに配置され、利用者自身の生活に対する意向をもとに、解決すべき課題や目標、具体的なサービス内容と頻度について計画を作成します。これを「ケアプラン」といいます。ケアプランは利用者自身で作成することもできますが、利用者の多くは各サービスの内容や、サービスを提供する事業者(以下、「サービス事業者」という。)の情報を持つケアマネジャーに作成を依頼しています。

居宅サービスでは居宅介護支援事業所のケアマネジャーが、施設サービスでは施設に配置されたケアマネジャーがケアプランを作成します。
居宅サービスのケアプランは「居宅サービス計画書」といい、地域の様々な居宅サービスを組み合わせたプランを作成します。施設サービスのケアプランは「施設サービス計画書」といい、施設に入所している利用者に必要な介護やリハビリなどのプランを作成します。
ここでは前者の在宅で生活する利用者のケアプランを作成するケアマネジャーに持ってもらいたい「ビジネスマインド」について考えてみたいと思います。

ケアマネジャーが持ってもらいたいビジネスマインドは2つあると思います。
1つ目は、「居宅介護支援事業所の経営」です。平成26年介護事業経営実態調査(以下、「実態調査」という。)によると、居宅介護支援事業所の税引前当期純利益は収益対比で▲1.0%と赤字になっています。一方でケアマネジャー1人当たりの実利用者は31.5人となっており、人員配置基準上(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成十一年三月三十一日厚生省令第三十八号))、利用者の数が35人に対しケアマネジャー1人の配置が必要となっていることから考えると、基準一杯の35件まで近づけることが出来れば事業所として黒字を見込める可能性があります。ケアマネジャーには、「35件」を目標に利用者の担当をするという意識を持ってもらうことが重要です。

2つ目は、「事業所を設置している法人の収益」です。居宅介護支援事業所は利用者を担当し、ケアプランを作成する仕事を行うことで収益を得ます。同時に、居宅介護支援事業所を運営する法人が行う居宅サービスを利用者に紹介することで、法人の収益増に貢献することが出来ます。ケアマネジャーは、利用者専任の居宅サービスセールスマンといった側面を持っているのです。ケアマネジャー1人あたりのセールスは、例えば利用者の要介護度が2だとすると区分支給限度額一杯のサービスを利用すると約19万円/月、ケアマネジャー1人あたりの利用者が31人で589万円/月、年間7,068万円になります。年間約7,000万円を売り上げるセールスマンということになります。可能な限り当法人のサービスをセールスするという意識を持ってもらうことが重要です。

1つ目のビジネスマインドは、「少なくとも自分たち給料分は自分たちで稼ごう」というもので、比較的わかりやすく、また意識しているケアマネジャーも多いのではないでしょうか。一方で2つ目の「ビジネスマインド」には異を唱えるケアマネジャーも多いと思います。なぜならケアマネジャーには、「利用者本位の援助をする」という行動規範、いわばケアマネジャーとして遵守すべきマインドがあります。利用者の立場に立って、利用者の自立支援に最適なサービスを組み合わせるのがケアをマネジメントするケアマネジャーの役割で、そこにケアマネジャー自身の意向が入ることは、適切な支援を行っているとは言えないからです。

では経営者の視点で考えたとき、法人で雇用するケアマネジャーが、当法人と他の法人のサービスを並列で紹介することが望ましい状況なのでしょうか。私には望ましい状況であるとは思えません。また、ケアマネジャーの意向を押し付け、当法人のサービスを無理に勧めることも望ましい状況ではないと思います。この相反するような状況をどのように打開すればよいのでしょうか。

方法は1つしかないと思います。それは、「当法人が提供するサービスを他の法人が提供するサービスよりも良いものにする。」ということです。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、ケアマネジャーが利用者にサービスを紹介するとき、「より良いサービスを紹介しようとすると、必然的に当法人が提供するサービスを紹介することになってしまう」という状況を作り出すのです。居宅介護支援費は平成24年度の介護報酬改定により、「特定事業所集中減算」が設けられ、特定の事業所に紹介が集中するとこれが減額されることとなりました。さらに規制は強化され、平成27年度の改定により対象範囲が全居宅サービス(地域密着型含む)に拡大し、集中割合も80%に引き下げられていますが、この減算には但し書きがあり、「正当な理由がある場合」はこの割合を超えても減額になりません。「正当な理由がある場合」の中には「サービスの質が高いことによる利用者の希望を勘案したことにより特定の事業所に集中した場合」というものがあり、質の高い事業所に紹介が集中することはやむを得ないとしているのです(余談ですが、80%未満の集中については、サービスの質に関わらず集中することが事実上容認されているとも解釈できます)。

それでは他の法人が提供するサービスよりも良いサービスにするにはどうしたらよいでしょうか。その答えはケアマネジャーが持っています。ケアマネジャーは、利用者のケアプランを作成する過程で、サービス事業所への訪問や、利用者へのヒアリング、他のケアマネジャーから情報提供などにより、常に利用者のニーズを把握し、サービス事業者を評価しています。この情報を活用しない手はありません。法人の経営者は高い頻度でケアマネジャーから情報収集を行い、当法人の事業所の戦略に生かし、実行することが、他の法人が提供するサービスよりも良いサービスにする方法だと思います。そうすることで、ケアマネジャーも自然と「是非うちの法人のサービスを使って欲しい」という気持ちに変わってくるのではないでしょうか。

セールスマンであり、地域のニーズや競合に詳しいケアマネジャーと、経営者のみなさまを始め、各サービスの担当者が密に連携することが重要ではないでしょうか。