地域包括ケアのためのICTシステム導入 状況整理と論点

2015.10.14

企業・行政コンサルティングチーム
増崎

現在、医療・介護情報の多職種間での共有を効率化するICTシステムの導入検討は、各自治体での地域包括ケアシステム構築を推進するうえで、ほぼ必須タスクとなりました。これまでも医療・介護の多職種情報共有システムサービスは各所で議論されてきましたが、ここ1~2年で状況は様変わりしたように思います。その変化を一言でいうと、システム選択の”民”から”公”への大きなシフト、と言えるでしょう。

どういうことかと言うと、これまではシステムを選ぶ主体は、地域の有力な在支診や在支病などで、彼らの「連携する事業者との間の連携効率化」という動機が、システム選定(や開発)の出発点にありました。これが現在は、行政や、医師会等地域の半ば公的な団体が「この地域”全体”における多職種事業者間の連携効率化」という目的のもとで、システムを選ぶ、という状況へと移行しました。

換言すれば、システムを開発するベンダー間の競争も、これまで”点”で営業をかけていたフェーズから、”面”で契約を取る、という戦いへとほぼシフトした、ということです。この流れに拍車をかけているのが、2014年スタートの地域医療介護総合確保”基金”で、全国の自治体にICTシステム整備の原資が行き渡りつつあります。

「○○市医師会は△△社のシステムを公式採用!」「□□県全体で☆☆社のシステム採択を決定!」といったニュースが日々駆け巡る様は、さながら”平成の国盗り物語”といった印象です。このICTシステム百花繚乱状態の中、地域包括ケアがらみの仕事をしていて耳に入ってくるのは、システム選定に関わる現場担当者の悩みです。

「システムAとシステムB、Cの違いはどこなのか?」
「そもそも電カルや既存の病・病、病・診間の地域医療連携ネットワークとは何が違うのか?」
「わが地域では、結局どのシステムを採用するのがベストなのか?」

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こういった疑問点がクリアにならないまま、とりあえず補助金の関係上今年度中にシステムを決定しなければ!というリミットに煽られ、不安を抱えている人が多いように見受けられます。”面”で意思決定するわけですから、問題の所存がクリアにならないまま選ぶと、この手のシステムは後々禍根を残します・・・。
今回はそのようなニーズに応え、地域包括ケアにおけるICTシステムとはそもそも何なのか?各種システムの差はどこにあるのか?選択の基準は?といった諸々の論点を整理してみたいと思います。

医療・介護の情報管理・共有システムの整理

地域医療連携システム(もしくはネットワーク)、という言葉は古くからありますが、これまでは多くの場合、電子カルテの情報を患者に紐付けて地域の複数の医療機関で共有しよう、という趣旨のシステムとして理解されています。これは冒頭で示した、「医療・介護情報の多職種間での共有を効率化するICTシステム」とは、本質的に異なるものです。しかし多くの人は、その違いを理解しておらず、混同している人もいます。
その違いを構造的に理解するため、情報の扱い方という視点で、マトリクスを作成しました。分かりやすくするため、まずは医療・介護の情報ではなく、一般的な情報で考えてみましょう。

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X軸(横軸)は、扱う情報の性質を示しています。
正の方向が「フロー情報」です。これは、扱う情報が、日々更新され、即時性が求められる、という性質を持ちます。他の人と今・この瞬間にコミュニケーションするための情報、と言ってもいいと思います。
負の方向は「ストック情報」です。扱う情報は、管理されて溜め込まれ、いつでも参照したいときに確実に引っ張ってくることが出来なければなりません。ドキュメンテーションされることが前提となる情報、と言ってもいいでしょう。
Y軸(縦軸)は、情報を扱う目的、を示しています。
正の方向が、「事業所間での連携効率化」のための情報管理です。例えば医療機関と介護事業所という異なる法人間での連携を効率化するための情報管理を示しています。
負の方向が、「事業所内での業務効率化」のための情報管理です。ひとつの事業所やひとつの法人の内部での各種業務オペレーションの効率化のための情報管理を示しています。
この2軸でマトリクスを組んだとき、4つの象限に、図にあるとおり様々な情報管理システムがプロットされます。

第1象限

  • コミュニケーションのためのフロー情報を、自分以外の人間との連携効率化のために使うわけですから、所謂SNSサービスが相当します。LINE等はその典型です。

 

第2象限

  • ドキュメンテーションのためのストック情報を、自分以外の人間との連携効率化のために使うわけですから、Drop Box等のクラウドサービス等が相当します。

第3象限

  • ドキュメンテーションのためのストック情報を、組織内部や個人の効率化・特定の目的達成のために使うわけですから、例えば組織であれば、業績管理システムや、個人であれば、バイタルデータを溜め込むダイエットアプリや、収支情報を溜め込む家計簿アプリなどもここに相当するでしょう。

第4象限

  • コミュニケーションのためのフロー情報を、組織内部(この場合個人では必要ありませんね)の効率化のために使うわけですから、例えば企業のイントラネットや組織内掲示板などは、ここに相当するでしょう。

 

このように、一般的な情報管理システムを、情報の扱い方という視点から、マトリクスで4分類に整理することができました。さて、それではこのマトリクスに医療や介護の現場における情報管理システムをプロットすると、どうなるでしょうか。

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第1象限
  • 冒頭で示し、いわば本稿が論じる対象である「医療・介護情報の多職種間での共有を効率化するICTシステム」は、この領域のシステムです。ここでは、端的に「情報共有システム」とネーミングしましょう。SNS的な情報共有を必須とし、オプショナルには、スケジュールや定型フォーマット(処方箋や診療情報提供書等)の送受信、バイタル情報、画像(例えば褥瘡等)などを共有することができます。あくまでフロー情報のリアルタイム共有が主目的です。
第2象限
  • ここが、富士通やNECといった大手ベンダーが供給する、電子カルテ情報を複数医療機関で共有するシステムの領域です。狭義の、「地域医療連携ネットワークシステム」と命名しましょう。第1象限の「情報共有システム」とは扱う情報が異なります。第1象限ではリアルタイムのコミュニケーションが重要ですが、ここではカルテというドキュメンテーションを目的とした情報を複数医療機関が”参照”することが目的で、扱う情報の性質が全く異なります。
第3象限
  • ここには、電カルやレセコンといった、ドキュメンテーションを目的とした情報を院内で管理するシステムが入ります。ここで扱うドキュメント情報は、院外には出ません。
第4象限
  • 組織内、事業所内のコミュニケーション情報を扱う領域なので、病院や大き目の介護系法人のような大きな組織では、院内・法人内のイントラネットや業務SNS等がここに相当します。逆に、診療所や単独の介護事業所等では、ここに相当するコミュニケーションは、口頭のやり取りや会議等で代替されるため、システムの導入はないことが多いと思われます。
ここで重要なのは、多くの方が、第1象限の「情報共有システム」と、第2象限の「地域医療連携ネットワークシステム」、第3象限の「電子カルテ、レセコン」といったシステムを、境界が曖昧で、どういう対応関係にあるものか、理解していない方が多いということです。この3つの領域のシステムの構造と対応関係を理解することで初めて、第1象限に提供されている”各種システム”の比較・検討が可能になります。

各種「情報共有システム」のソリューション

ここからは、何種類もある情報共有システムを、そのソリューションの特徴毎に、いくつかのグループに分け、それぞれのソリューションをこのマトリクス上でプロットし、比較できるようにしてみたいと思います。ですが、まず各ソリューションを説明するその前に、ソリューションの前提となる解決すべき「課題」を、前述のマトリクスを使って整理しておきましょう。
「2度打ち・2度手間」の課題
  • 例えば患者宅へ往診した医師や、利用者宅に訪問した訪問看護師(もしくはヘルパー)は、本人に直接会って診た(看た)内容を、記録しますが、その内容は、第1象限の情報共有システムにも書き込みたいし、第3-4象限の業務システムにも書き込まなければなりません。

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  • この2つのシステムが連動していなければ、同じ内容を2つのシステムに書き込む、という「2度打ち・2度手間」となります。当然後者のシステムへの入力は、医師法や請求業務で必須となるため、”第1象限情報共有システムへの入力”は、負担感となって圧し掛かります。(この負担感が、地域における面的なICTシステムの普及の妨げになります)

 

  • この課題へのソリューションとして、第3-4象限のシステムをもともと開発してきたベンダーの多くが、既存自社製品と連動し、この「2度打ち・2度手間」ロスを解消した情報共有システムをリリースしています。このソリューションの中では、患者や利用者を訪問し、その内容を業務システムに打ち込めば、自動的に必要な部分が情報共有システムにも反映され、多職種がリアルタイムでその内容を確認できるようになります。
地域全員が”連動”できるわけではない
  • 「2度打ち・2度手間」の解消は理想的ですが、それを享受できるのは、一部の業務システムに限定されます。近年の情報共有システム導入は、冒頭で述べた通り、地域で”面”的に行われますが、そこでのプレイヤー(医療機関や介護事業所)が全て同じ業務システムを使っていることなどはあり得ません。特定の業務システムのみメリットを享受できる仕組みを地域として導入しても、どうしてもメリットがないプレイヤーを巻き込んでいきづらくなります。(これも地域での面的な普及の妨げになります)
  • この課題は本質的課題で、どんな業務システムとも連動可能な情報共有システムの開発というのは、現状のフレームでは技術的にはほぼ不可能です。

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  • ここを非技術的にブレイクスルーしようとしているのが、コミュニケーションに特化(第1象限の一番端の部分)した情報共有システムです。これは一言でいうと、「どうせ連動が不可能なのであれば、2度打ちを前提に、出来るだけシンプル・低価格で2度手間でもストレスがないSNS」を作ろう、という発想です。この発想であれば、業務システムがどうであれ、全プレイヤーが平等にメリットを享受できます。

まとめると、このように多職種・多プレイヤーが関わる情報共有システムには、「2度打ち・2度手間」という課題を、

 

    • 一部のシステムとだけ連動させ・解消させる、もしくは、
    • そこは諦め、別メリットでそのデメリットの穴を埋め、普及を目指す、
という2つのソリューションとしての方向性がある、ということを押さえておいてください。
その上で情報共有システムを、ソリューションパターンの特徴毎にマトリクス上にプロットしながら見ていきましょう。

①業務システム連動型ソリューション

繰り返しになりますが、まずは情報共有システムを業務システムと連動させることで、「2度打ち・2度手間」の解消を提供価値とするタイプのシステムです。大きく2つの方向性があります。
①-1 自社(連携)製品のみ連動可能タイプ

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最も多くのベンダーが、このパターンで情報共有システムへの参入を行っています。例えば柏プロジェクトでも採用されている㈱カナミックネットワークの「TRITRUS」という情報共有システムがありますが、カナミックは介護レセの会社ですから、カナミック制のレセコンと「TRITRUS」は、各種機能(利用者登録や、バイタル、スケジュール等)で連動が可能です。
NTTエレクトロニクスがリリースしている「バイタルリンク」という情報共有システムは、提携している在宅医療専用電カル「モバカルネット」(在宅医療領域ではシェア1位)との連動がウリになっています。また、NTT系列からリリースされている各種バイタル測定デバイスとの連動も強みです。
富士通の「チームケアSaaS」という情報共有システムも、このパターンです。富士通は、在宅クリニック向けの業務支援システム「在宅医療SaaS」をリリースしており、「チームケアSaaS」と完全連動しています。クリニックは、2つ「SaaS」を導入することで、一気通貫の在宅医療と多職種連携が可能になる、と言う形です。
①-2 共同開発タイプ
①-1は、パッケージ化された一つの商品として全国で導入されていますが、こういったパッケージ化は、カナミックが先行(2008年から)したとはいえ、その他の多くのシステムはここ2~3年で出揃ったものです。逆に、特定のクリニックや地域で、時間をかけてベンダーと共同開発しながら独自のシステムを作り上げたパターンもあります。ここでは手前味噌ですが、医療法人社団プラタナスの桜新町アーバンクリニックと、EIR(読み方:エイル)という情報共有システムとの共同開発事例をご紹介します。

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桜新町アーバンクリニックでは、往診した患者のカルテを作成するため、まず医師が移動の車中等でカルテ内容を口述録音します。それを別スタッフが文字起こし(ディクテーション)し、翌日に医師が再チェックして電子カルテ(「おかえり君」)に登録されます。おかえり君はEIRと連動しており、おかえり君に書き込まれた内容は、必要な箇所だけEIRに自動で吐き出され、EIRで繋がっている多職種がそれをリアルタイムで見ることができます。
ディクテーションと電カル・EIRの連動により、桜新町アーバンの医師は「2度打ち」どころか、実は「1度打ち」すらせず、その時間を全て訪問診療時間に集中させることが出来ています。もちろんこれは桜新町アーバンのような大規模な組織的在支診でこそ可能になる仕組みで、地域に面的にこの仕組みを広げることは至難の業です。
①-1,2どちらも、「2度打ち・2度手間」の解消を提供価値としていますが、先述したとおり、この価値を享受できるのは、限定された業務システムを使用しているプレイヤー”のみ”です。それ以外のプレイヤーは容赦なく「2度打ち・2度手間」のデメリットを被ります。そればかりか、業務システムとの連動を前提としているため、情報共有システム側のインターフェースも複雑化している(業務システムも使っているユーザーには理解できるが、それ以外のユーザーから見ると使いづらい・見づらいUI)ことはよくあります。

②別メリット提供型ソリューション

この状況を打開するため、特にこれまで第3-4象限でシステムを開発してきたわけではない新興ベンダー等は、「業務システムとの連動は捨てて、別の価値で勝負する」という方向性に出ています。
 
②-1 コミュニケーション機能特化型

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第1象限の中でも、スムーズな言語コミュニケーションをストレスフリーに行うことに特化したシステムの代表例が、㈱日本エンブレースの「メディカルケアステーション」(以下、MCS)です。MCSは、変にどこの業務システムとも連動していない(※)ので、UIは非常にシンプル、多機能なUIがよく陥る「ゴチャゴチャしていて使いづらい」というデメリットを極力排しています。あたかもセキュリティが確保された「LINE」のような身体感覚で使うことができます。また、無料であることも特徴です。
前述のとおり、「どうせ連動が不可能なのであれば、2度打ちを前提に、出来るだけシンプル・低価格で2度手間でもストレスがないSNS」を作ろう、という発想がMCSにはあります。結果、業務システムがバラバラな地域のどんな事業所も、「気軽で、それなりにノれる」システムであると言えます。

もちろん、患者情報の登録項目や、画像やバイタルのアップロード等で、前述の連動型の多機能システムと比べると、簡素であることは否めません。しかしリッチであることは、普及という視点から見てよい側面だけではなく(良くも悪くも人を選ぶ)、簡素なシステムの方が人を選ばずに地域で面的に普及する、という側面はあります。

※注:MCSは、連携する電カルや業務システム、アプリ等と、課金を通じて連動することは可能。カナミック等と異なるのは、連動を前提にした有料システムではなく、連動を前提としない無料システムである点。
②-2 地域医療連携ネットワークとの連動型

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第1象限と第2象限を連動させる、という方向性での価値提供、という戦略もあります。これまで、第1象限の情報共有システムと連動できるのは、自社の(もしくは提携し共同開発が可能な)業務システム(第3-4象限)のみでした。第2象限の地域医療連携ネットワークシステムは、スタンドアローンで地域に散在している第3象限の電子カル情報(どの会社の電カルでの可)を、中継サーバを経由して相互に参照可能にする、という巨大な設備投資を伴う重厚・堅牢なネットワークシステムです。このため、自社の業務システムとの連動に注力する情報共有システムは、こちらの地域医療連携ネットワークとの連動はなかなか進んでいません。

しかし近年(2015年)、例えば先述のMCSと、NECが提供する地域医療連携ネットワーク「ID-Link」の連動発表を皮切りに、この第1-2象限連動モデルの動きも活発化しています。これによって、例えば情報共有システムの患者画面から、そのままその患者の退院前の病院での過去カルテ情報を閲覧することができ、退院調整からのスムーズな在宅導入や、短期入院等の病診連携の効率化が期待されます。MCSは、特定の業務システムと中枢部を共有しているわけではないシンプルなつくりのため、おそらくID-Linkとの連動が可能になったのだろうと思われます。

地域医療連携ネットワークは、富士通(Human Bridge)や、NTT東日本(光タイムライン)といった、情報共有システムも開発している大企業が提供しており、ID-Linkだけではなくこれらの地域医療連携ネットワークも、情報共有システムと今後連動していくことになることが予想されます。

結局、システムの選択のポイントは?

ここまで見てきて、各種ベンダーの情報共有システムが、情報のマトリクス上で、どういうソリューションを提供しようとしているのは、その構造が理解できたかと思います。次に新しいシステムが出てきても、それがどのパターンに属するのかすぐにわかるようになれば、”システムを選ぶ目が肥えてきた”、と言えると思います。この、”肥えた目”をもって、地域で採用するベストなシステムを選ぶために、ICT導入の目的は何か、そして「何を最も重視するか」、その優先順位の整理が重要です。整理してみましょう。

A.「普及」を取る場合、シンプルなシステムを選ぶべき

  • 情報共有システム導入の目標を、一人でも多くの事業主体がシステムに参画し、一人でも多くの地域高齢者の多職種連携がICTによって効率化する、ことに主眼を置くのであれば、シンプルなシステムを選ぶべきです。高機能・多機能でも、それは”意識の高い”一部のユーザーにしか利用されません。UIが複雑なシステムは、意識の高いユーザー以外の多数派の脱落を招き、脱落を防ごうとするための事務局支援(研修や質問対応、マニュアル作り等)の負担も重くなります。
  • 極端に言えば、「普及」を取る場合、「連動」や、それに関連する「多機能性」は「捨てる」ことになるといえるでしょう。

B.「連動」を取る場合、地域のマジョリティ業務システムを見極める

  • 情報共有システム導入の目標を、業務システムとの「2度打ち・2度手間」の解消による効率化に置くのであれば、連動させる特定の業務システム(カナミックであれば介護レセ、バイタルリンクであればモバカル)が、地域でマジョリティを取れるかどうかの見極めが重要となる。「連動」のメリットを享受できるプレイヤーが多ければ、回り出すし、少なければ、頓挫する可能性が高まります。
  • とはいえ、特定の業務システムが地域全ての事業所に入っていることはあり得ないので、極端に言えば、「連動」を取る場合、「普及」は「捨てる」ことになるといえるでしょう。

C.「質」を取る場合、疾病管理のパイロット設計を入念に

  • 無駄な多機能もありますが、きちんと多職種連携や在宅での疾病管理の「質」を向上させる「多機能性」ももちろんあります。認知症の管理に特に機能を特化するシステムや、バイタルデータの入力や共有、確認の一覧性に強みを持つシステム等、ある特定の連携の質向上を目的として設定する場合は、適切な「高機能・多機能」システムを選ぶべきでしょう。そこでは、どんなメンバーが、どんな疾病管理を、誰に対し、どのように、どんな期間で行うか、パイロットスタディーの設計を緻密に行うことが重要です。
  • ここでも、パイロットに参加する”意識の高い”ユーザーしか残らないので、「質」を取れば「普及」は「捨てる」しかないでしょう。

D.「普及・連動・質」、何を取るか吟味し、それに見合うコスト負担構造の検討を

  • 情報共有システム導入の最優先順位を、「普及・連動・質」いずれに置くか、吟味し、地域関係者で合意形成した上で、それにどれだけのコストを払うのか、を考えましょう。基金の補助金まずありき、でこの順番を逆にして検討を進めると、必ず歪みが生じます。
  • イニシャルコストだけは補助金から出せたが、補助金が切れたらランニングコストは負担できなくなる、ということは往々にして起こり得ます。ランニングコストを利用者でどのように共同で負担するのか、事前の合意形成をするうえで、「普及・連動・質」の優先順位づけが固まっていることは非常に重要です。

まとめ

ずいぶんと長文の投稿となりましたが、ここでの整理(医療・介護系の情報システムの分類、情報共有システムの位置づけ、ソリューションの構造)と、それを踏まえたうえでのICT導入目的の優先順位づけをしっかりと行うことで、補助金を使うにしろ、自前で購入するにしろ、無料のシステムにするにしろ、地域包括ケアシステムの推進上、有意義な決断が出来るようになると感じます。

ICT導入が上手くいかなかった場合、それは投資したお金が勿体なかった、というだけでは実は済みません。地域包括ケアシステムの構築における、この場合の一番大きなロスは、人と時間の浪費です。少なくとも、地域での”面”的なシステム選択の意思決定とその後の展開には、地域包括ケアに責任を持つ地域のキーマンが関わります。もし不適切な選択が行われてしまった場合、膨大な事務局負担が彼らに押しかかり、責任問題も生じます。貴重なキーマンがそれで疲弊してしまうことは本当にもったいないことです。また、時間の浪費も取り返しがつきません。

地域包括ケアの重要な局面である2025年が近づく中で、ICT導入後に途中から別のシステムに乗り換える、というのは、それだけで1~2年間のロスを生み出します。地域包括ケアにおけるICT導入、「最初の選択」に非常な熟考が求められていると言えます。