第39回 透析施設の開設

2015.06.11

 

株式会社メディヴァ

コンサルティング事業部

真鍋 文朗

慢性透析患者数は年々増加しており、2013年12月時点で全国の患者数は30万人以上です。近年は、患者数の伸びは鈍化していますが、更なる高齢化社会を迎える日本では、透析治療の需要は引き続き高いと予想されます。※出典:一般社団法人 日本透析医学会HP

今回、医療機関のコンサルティングを手がける当社は、支援先であるA病院の透析施設の開設を支援しましたので、報告申し上げます。

まず、A病院が透析施設を開設するか否かの判断をしました。開設のリスクとして、①慢性透析患者数の伸びが鈍化して患者を獲得できない②透析治療の診療報酬が年々減少していて、今後も減少し続ける可能性があり、これらのリスクを十分に考慮する必要がありました。

A病院の周辺地域の透析患者市場を算出しました。診療圏を半径10kmと20km(送迎可能な範囲)に設定し、透析受療率と診療圏内の人口を掛け合わせたところ、10km圏内で透析患者数が80人、20km圏内で170人程度の患者が見込まれることがわかりました。

更に診療圏内の競合は、10km圏内には1施設のみで、そこでは入院・夜間透析は実施していなく、20km圏内では4施設あるが、いずれも入院透析を実施していないことがわかりました。また、10km圏内に唯一存在する透析施設は、ほぼ満床状態が続いているという情報を得ました。

患者市場や競合の状況、最近では外来透析から入院透析へ市場が移行していることより、前述①のように患者数の伸びは鈍化しているものの、A病院がある地域では、透析治療(特に入院・夜間透析)の需要があると判断しました。

次に事業計画を策定し、投資回収ができるか否かの判断をしました。透析施設の建築で数億円の投資が必要ですので、慎重に考えなければなりませんでした。透析事業を始めたが、資金繰りが厳しくなって事業を中止になる事態は、A病院だけでなく患者にも迷惑をかけますので、避けなければなりません。

施設の床数や建物の構造、患者数を変更して、何パターンかのシミュレーションをしてA病院と何度も話し合いをしました。今回の透析事業では、医師や看護師、臨床工学技士なども新たに雇う必要がありますので、人件費もかかり、経営状態が現在良好なA病院が透析事業の失敗により経営が悪化する恐れがあります。そのため、A病院と当社の双方でシミュレーションを細かくチェックしました。その結果、5年から5年半で投資回収できるという結論に達しました。

さらに前述②の透析の診療報酬低下リスクについても検討しました。透析の代替治療である腎移植の症例数(2013年)は1,600件程度[出典 日本臨床腎移植学会・腎移植臨床登録集計報告(2014)『移植』 vol.49,No.2.3 p240]と、透析患者30万に対して症例数が少なく、まだ標準化した治療とは言えず、症例数も2011年から増えていません。当面、透析は代替がきかない治療ですので、透析の診療報酬は減少しているものの、事業計画に大きな影響を与えるほどの低下は今後しないと予測しました。

また、平成26年の診療報酬改定では、療養病棟入院基本料Ⅰを算定する病棟で透析患者を受け入れた場合の慢性維持透析管理加算(100点/日)が新設されました。そのため、療養病棟入院基本料Ⅰを算出するA病院での入院透析患者の受け入れは、療養病棟の稼働率を上げることに加えて収益の点でもプラスに働く相乗効果が生まれます。

今後、入院透析の需要が更に高まり、診療報酬で評価されていますので、A病院の入院透析のポテンシャルは高く、療養病棟の更なる活用の選択肢が増えます。以上のことより、A病院の透析は需要がありかつ投資回収可能で、長期通院の負担の軽減をするという患者視点でも考えた結果、A病院は透析施設の開設に踏み切りました。

透析施設の建設や透析装置の購入等も無事終わり、現在、新施設での透析治療が実施されています。先日、内覧会が開かれ、参加したところ、患者とその家族が医師や臨床工学技士に熱心に質問していました。患者や他病院からの問い合わせが多く、A病院の透析に対するニーズが非常に大きいという報告をA病院から受けています。登録患者数も順調に伸びていて、透析事業は好スタートをきることができました。

A病院の今後の課題として、⑴円滑な透析事業の運営⑵周辺病院との連携による患者の継続的な確保が挙げられます。

⑴においては、透析は新規事業なので、経験者が講師を務める、病院全体での勉強会の開催や、疑問点があればすぐに相談できる仕組みを作る必要があります。

特に、A病院の場合、現場の医師や看護師、臨床工学技士には透析経験者がいますが、薬局や検査、事務は未経験ですので、透析患者用の調剤や検査、診療報酬についての教育を徹底しなければなりません。院内会議の様子からは、未経験者は透析をすることに対しての抵抗や戸惑いがあるように見受けられました。⑵においては、今後、継続的に患者を獲得するために、HPやパンフレットでの透析施設のPRや周辺病院への積極的な営業が不可欠です。

今回、当社はゼロから透析施設の開設を支援しました。数億円の投資ということで、慎重に物事を進めるとともに、透析経験のある人材の確保においてもサポートをしました。他の支援先病院での透析運営の経験が当社にはありますので、そこで得られたノウハウを生かしてA病院の透析事業の運営支援を引き続き実行する予定です。

 


執筆者:真鍋 文朗│Fumiaki MANABE
株式会社メディヴァ コンサルタント。千葉県出身。京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻修士課程を修了。学生時代は核酸化学の研究を手がける。化学メーカーでドラッグデリバリーシステムの材料の研究開発に従事後、医療機器のベンチャー会社で冠状動脈用ステントの研究開発に携わる。幅広い視点から医療の問題を解決したいと思い、2014年よりメディヴァに参画。