「地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(その2)

2015.05.07

地域医療構想策定ガイドライン」を読み解く(その2)

- 都道府県による取組と医療機関の取るべき戦略 -


 

 3月に策定された「地域医療構想策定ガイドライン」の後半には、「必要病床数に近づけるための都道府県の取組方法」が書かれています。


 前回のブログで説明した通り、ガイドラインでは「都道府県の2次医療圏ごとに、2025年に必要な機能別病床数を算出し、それに近づける取組をする」ことを求めていますが、これはつまり、過剰である高度急性期病床を急性期・回復期などに転換させることと、慢性期病床(≒療養病床)を削減し、在宅医療を推進することを意味しています。長年、診療報酬改定で実現できなかった非常に難易度の高い問題が、都道府県に課せられたことになります。


実際に、昨年始まった病床機能報告制度の結果からも、6年後に高度急性期や慢性期病床を削減する意向はまったく見られず、逆に現状よりも多くの高度急性期未満の病床が高度急性期を、慢性期病床が回復期病床を目指すという、ガイドラインの示している方向とは正反対の結果になっています。また、ガイドラインが公表されて以降、すでに医師会などからは、病床削減の方向を示したガイドラインに対して反対意見を唱え始めているなど、困難な船出となりました。

地域医療構想が実現するのか、単なる絵に描いた餅で終わるのかは、都道府県の取り組みにかかっているといえます。ガイドラインでは、大きく3つの方法が示されていますので、以下にその内容を解説します。

病床数.jpg


① 「協議の場」による過剰な病床への転換抑制

一つ目は、ガイドラインに最初に書かれている「協議の場」によるものです。これは、2次医療圏ごとに「地域医療構想調整会議」という新しい会議体(以下、協議の場)を作り、医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、病院団体、保険者、市町村などの代表者が参加して話し合うことになっています。この「協議の場」では、①各医療機関による『自主的な取組』と、②医療機関相互の『協議』によって目標病床数に近づけることとされていて、すべての2次医療圏で、今10月までに開催することとされています。

しかしながら、前述の病床機能報告制度の結果にもあるように、医療機関の『自主的な取組』と医療機関相互の『協議』によって、高度急性期病床や療養病床の削減は進むとは思えません。

その中で唯一機能しうるのは、ガイドラインに書かれていますが、「医療機関が開設・増床等の許可申請をした場合」または、「過剰な病床機能に転換しようとした場合」に、知事が医療法上の立場から当該医療機関を「協議の場」に参加させ、協議を行うことができるという点です。つまり、ある医療機関が、現状の急性期病床を高度急性期病床に転換しようとした際に、その地域で高度急性期が過剰であったり、現状のその医療機関が持っている急性期病床が実質的に機能していなかったりした場合に、転換を認めないことが知事の権限で可能となります。その地域で過剰な病床機能に更に病床転換の意向があったときに、より問題を大きくしないためにも、この「協議の場」が抑止力として機能することになると思われます。

 

② 役割を担っていない公的医療機関の統廃合

二つ目は、改定された医療法の権利を行使した、稼働していない病床を持つ公的医療機関への病床削減命令です。医療法上の公的医療機関とは、①都道府県、市町村の開設する病院又は診療所と、②厚生労働大臣が定める者の開設する病院又は診療所を言い、全病床数の約30%を占めています。

ガイドラインには「公的医療機関が正当な理由がなく病床を稼働していない時は、(中略)病床の削減を命令することができる(医療法第7条の23項)」と書かれています。僻地・離島などの医療機関、救急・小児・周産期・災害・精神などの特殊部門、県立がんセンターなどの高度先端医療機関のような、公的医療機関ならではの役割を担った医療機関は問題ありませんが、それ以外の公的医療機関としての役割を担っていない医療機関については、廃止・統合の可能性があると言えるでしょう。

ちなみに、公的医療機関にはこのガイドライン以外にも大きな転換点がありました。今3月に総務省が発表された「公立病院改革ガイドライン」によれば、これまで毎年配分されていた運営補助費の算出方法が「許可病床数×単価」から「稼働病床数×単価」に改められましたので、休止してでも病床を保有することにインセンティブがなくなったことになります。

このような両ガイドラインの影響で、今後、病床を都道府県に自主的に返上する、あるいは命令を受けて削減せざるを得ない公的医療機関が出てくると思われます。

 

③ 基金による病床転換の誘導策

三つ目は、904億円と言われる地域医療介護総合確保基金を活用した病床転換の誘導策です。ガイドラインにも、病床機能の変更のための財政的・技術的支援・医療関係者の研究・教育について具体的な取組事例として記載されていますが、基金を活用した病床機能の転換の支援が行われることになるでしょう。

実際、石川県では昨年度の基金を利用して、増えすぎた急性期病床を削減し、在宅医療を推進していくために、急性期病床から在宅復帰に向けたリハビリ等を重視する地域包括ケア病床への転換を支援する事業がスタートしています。この石川県のように、基金を活用して病床機能分化を行う事例は今後も増えてくることが予想されます。

2.png

④ 道府県担当部署に求められること

このように、都道府県が取りうる3つの方法を見てきましたが、病床機能転換・削減は、難易度の高い問題です。更に在宅医療の推進も加わることになりますので、都道府県の担当部署にとっては、困難な取組になることが予想されます。

また、次回のブログで詳しく書きますが、今後の人口・高齢者数の増減、現在の病床数・介護施設居室数の過不足、在宅医療の普及度合いは地域ごとに大きく異なります。2025年まで残された時間はわずかとなりますので、都道府県の担当部署は、現状と将来の課題を解決するビジョンを早期に確立し、強いリーダーシップによってビジョンを推進していくことが求められます。


⑤ 医療機関が取るべき戦略

医療機関もできるだけ早期に現実的なビジョンを定めることが重要になってきます。

民間の医療機関が取るべき戦略についてですが、地域の病床機能分化は2025年に近づくにつれて課題が積み上がってくるでしょうから、高度急性期のような過剰病床への転換は年々難しくなることが予想されます。できるだけ早期にその医療機関ならではの専門性を持って地域における位置づけを明確にすることが、地域医療構想の中で生き抜き、地域で発展するための条件と言えるでしょう。これはガイドラインにも記されていますが、例えば「がん入院医療」については臓器別の専門性を持つこと、回復期リハビリテーションについては集約化し専門性を高めることもその一例になります。

また、療養病床については、次期改定以降の診療報酬はかなり厳しくなることが予想されます。療養病床として生き残るためには「介護療養から医療療養への転換」および「療養機能強化型の施設基準獲得」が必要となるでしょう。それが難しい場合は「療養病床から在宅医療への転換」も視野にいれる必要があります。

公的医療機関については、統廃合を余儀なくされるところも出てくるでしょうが、民間では担えない役割(僻地・離島などの医療機関、救急・小児・周産期・災害・精神など)を持っていることが生き残るための唯一の選択肢と言えるでしょう。

 

次回は、ガイドラインに記されている「2025年の必要病床数」と「現状の病床数」を比較した時に、都道府県ごとに抱える課題の違いをパターン化し、それぞれのパターンで考えるべき施策について説明していこうと思います。


(企業・行政コンサルティングチーム 村上典由)


※2015.6.17 「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」の報告を受けて、挿入図 「2025年 国が目指す形」の病床数を修正しました。