第37回 医療機関におけるブランドとは

2014.12.09

コンサルタント 草野康弘

先日の弊社取締役の小松のレポートにおいて、「病院経営の2極化」という話があがりました。経営が厳しい病院、事業展開のスピードを速めている病院の両者とも、スタッフのモチベーション低下を防ぎたい、組織力を強めたいという課題を抱えており、組織力を強めるための仕組みとして具体的に何をしたら良いのか?という点に悩まれているように感じています。そこで今回は、そのような悩みに対して私たちが提案している、医療機関におけるブランド構築と行動規範策定について述べていきたいと思います。

1.医療機関におけるブランドとは?

皆さんはブランドと言って何を想像するでしょうか?ブランドというと、高級ブランドのエルメスやグッチ、またはappleやwindows、リッツカールトンや星野リゾート、ディズニー、スターバックスといった名前が浮かびます。それらの企業は、ブランドを強化する事で、経営の好循環(下記)を生み出しています。

【ブランド強化による経営の好循環】
ブランド力の強化→顧客の増加→投資可能な資金の増加→優秀なスタッフの採用、人材・組織の強化、愛着→サービスの質の高まりにより現状の強みがさらに強固なものとなる→ブランド力の強化

しかし、目に見えないブランドとは何であって、誰がつくりだしているのでしょうか。ブランドの定義については、米国マーケティング協会によると「ある売り手の財やサービスを、他の売り手のそれと異なると認識するための名前・用語・デザイン・シンボル、およびその他の特徴(1988)」と定義し、マーケティング界の権威である、David A. Aaker教授はブランド価値とは、『ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、ブランドロイヤリティという資産の集合であり、製品やサービスの価値を増大させるもの(著書:ブランド優位の戦略)と定義しています。

少々難しいので、スターバックスを例にブランドとは何かを考えてみたいと思います。私はスターバックスを頻繁に利用するのですが、「仕事終わりにリラックスしながら本でも読みたい」「誰かとくつろぎながら会話を楽しみたい」「なんとなく、洗練された都会的な雰囲気が好きだな」という感覚で利用しています。美味しいコーヒーが飲みたいだけなら、老舗のコーヒー屋でも良いですし、家で豆をひいても十分に美味しいものが飲めるのですが、スターバックスに足を運んでしまうのです。混んでいて、席に座れずに諦めてしまう事もありますが、なぜ、広告もせずに多くのお客さんを獲得できているのでしょうか。それは、美味しいコーヒーという”機能と商品”を提供するだけではなく、私が利用している感覚と同じように、一日の仕事を終えた後、一杯のカップを手に、雑談や読書をしながらくつろぐ”第三の自分の居場所”を提供するという”スターバックスらしい約束”がブランドのエッセンス(要)としてあるからでしょう。この点が他のコーヒーチェーンと明確に異なるのです。つまりブランドとは、「他の組織が提供することのできない”お客さんとの約束”」だといえます。

何を約束するかは、その組織のターゲットとするお客さんによって大きく異なります。わかり易い例をあげるとすると、牛丼チェーンであれば、安い・早い・うまいという3つの要素がお客様との約束です。しかしどのお店も同じ約束をしているものですから、最終的には価格競争になってしまうのです。医療機関においても、治療を施す、正しい説明を行う、などといった患者さんとの約束事があると思います。しかしこれらの約束は他の医療機関との差別化要因にはなり得ません。やはり”その組織らしさ”が重要なのです。”組織らしい約束は”次の3つの視点から棚卸しすると、わかりやすいと考えています。

① できること
② 求められること
③ やりたいこと

① 「できること」とは、その医療機関が持っている”強み”であり、他の病院よりも○△科の手術件数の実績が豊富でより低侵襲な手技を取り入れているといった、競合に対する”優位性”や”差別性”です。② 「求められること」とは、説明がどの医療機関よりも丁寧、安心して診察が受けられる空間、接遇が良いなど、そのブランドに対する患者さんの期待です。③ 「やりたいこと」とは、今後強化したい価値のことです。

私たちも、医療機関のスタッフさんと一緒に棚卸しに取り組んでみると、実は大切にしたいと思っていた価値観が出てくる事が多く、その組織にしかない約束を考えることができています。みなさんも自院の”らしさ”を踏まえて、患者さんとの約束について考えてみてはいかがでしょうか。

2.ブランドは体現されるもの~行動規範をつくろう!~

ブランドはその組織しか提供できないお客様との約束であると、前段でお話しました。それでは、その約束はどの様に果たされるのでしょうか。ひとつの重要なポイントは医療機関の場合、スタッフの行動そのものがサービス(※あえてサービスという表現をさせてください。)であるということだと考えています。外来、入院、手術、リハビリ、会計とありとあらゆる場面で人の手によってサービスが提供されており、そのサービスの質は個人の価値観に大きく依存しているように思われます。「A先生はちゃんと説明してくれるけど、B先生は何も説明してくれない」「看護師さんは、患者さんの安全に配慮しているけど、受付は知らない顔をしているから外来はもう行きたくない」といった悪い評判が実際の声としてあがるのは、個々人の潜在的な価値観の影響が大きいためでしょう。もし、インシデントが多発する部署があるとすれば、効率性を重視する価値観を持っている人が多くあつまっており、安全性を重視しないで仕事に取り組んでしまっているという事があるかもしれません。

我々が再生支援を行うような経営が安定していない医療機関では、現場のスタッフにヒアリングを行うと、スタッフの価値観がバラバラであるという事に気づかされるのは良くある事です。その様な状況では、人材は定着しづらくなり、組織力が弱体化し、ブランド力は落ち、患者さんが減少するという悪循環を生み出しています。事業展開を速めるケースでは、好循環が既にありますから、その好循環をより固いものにするために5年後、10年後の姿を見据えながら価値観を確認するという事も大事なことでしょう。特に、急激に人材が増えたりする場合には価値観の共有・伝達の仕組みづくりも大切になってきます。それでは、全ての職員が同じ価値観を持ち、患者さんとの約束を果たすには、具体的にどの様にしたらよいでしょうか。ひとつの解決策の仕組みとして、効果的なのは行動規範や指針を策定することだと思います。行動規範というのは、患者さんと結ぶ約束を果たすための行動を言語化したものになります。下記に簡単な例をあげてみます。

 患者さんとの約束(大切にしたい価値観)
「患者さんの病気の物語にしっかりと耳を傾け、エビデンスに基づいた医療を提供します。」

 行動規範(約束したい事を果たすための行動を言語化)
「我々は、経験とガイドラインを照らし合わせて治療判断を行います。」
「我々は、疾患にだけ注目することなく、患者さんの声に耳を傾けます」
「我々は、エビデンスに基づいた、説明を行います」

上記のように、患者さんの約束と行動規範は必ず関係性をもたらす必要があります。しかし、この例では△がついてしまいます。何故でしょうか。前述したように、ブランドの要は”他の組織が結ぶことのできないお客さんとの約束”です。上記の例は一見良いことを言っているように思うのですが、その”組織らしさ”というものが反映されるとより良いものになります。”らしさ”という点でとても参考になる行動規範はディズニーやリッツカールトンの例です。ぜひ、参考にされてみてください。

この記事を読んでいただいた方は、是非、自院の行動規範を確認していただきたいのですが、行動規範も20年前に策定されたもので、実は時代に適合していないなどといった事はないでしょうか。また、職員間の意識が統一されていない。新病院設立に向けて価値観を見直したいという状況に直面しているのであれば、一度立ち止まって、「我々の”らしさ”はなにか?」「大切にしている本当の価値観はなにか?」と問いかけてみる事がよいかもしれません。

3.ブランド定義・行動規範の策定のポイント

最後にブランド定義・行動規範を実際に策定するにあたって大切だと考えている、3つのポイントについて述べたいと思います。

① 客観的に自院の状況を把握すること

いきなり「我々のブランドは何か?」と考えるのではなく、客観的に自院の状況を把握することだと思います。思い込みで病院の向かう方向性を定義しまうと、ブランドは長く育たなくなります。外部環境分析(顧客、患者さん、取引先へのヒアリング、市場分析)内部環境分析(経営分析、臨床データの定量的評価など)を行い、SWOT分析などに落とし込んでいきます。

② 多職種のワークショップで策定していくこと

客観的に状況が把握できたら、その情報をもとにワークショップ形式でブランド定義・行動規範策定を行うことをお勧めします。また、ワークショップは多職種で行うことが望ましいです。それは、行動規範策定をするために重要な要素の一つとして「どんな役割の人にも共通した判断指針であること」があげられるからです。多種多様な視点でまとめられた行動規範は、患者さんが病院のスタッフと接するありとあらゆる場面で、その病院らしいブランドを感じさせる事ができます。

③ 役員会(経営サイド)での振り返りを行うこと

ワークショップは意見を発散する作業が中心になるので、意見が綺麗に纏りきらず、本当にこれでいいのか?という疑問も自然とわいてきます。そもそも、現場サイドだけでは、議論にあがってこない視点もあります。そこで経営サイドの視点を議論に盛り込みつつ、意見の発散と集約を繰り返し、作業を進めていく事が大切だと考えています。

最後まで読んで下さった方ありがとうございます。今後も、患者さん視点の医療の実現と経営の成功のために、医療機関にブランドの考え方を普及できればと考えております。


執筆者:草野 康弘│Yasuhiro KUSANO
東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学時は地域医療に関わるステークホルダーの関係改善についてフィールドワークを中心に研究を行う。大学を卒業後、外資系医療機器メーカーに入社し、新規市場開拓営業に従事した後、2014年1月よりメディヴァに参画。医療者をはじめとし医療に関わる全ての人が相互理解を築きあげる事で、患者や家族、地域住民が持続可能なサービスを受けられる仕組みづくりに貢献したい。