第24回 「良質な医療サービス提供における医師確保について」

2012.10.01

コンサルタント 玉井恭一郎

患者様視点の良質の医療サービス実現には多くの必要な条件があり、また、その実現方法は1通りではありません。
ここでは、その必要条件の中で、重要条件の1つである医師確保について考えたいと思います。

まず、日本における医療機関の医師確保の観点で環境を大まかに整理すると

1)全国の医師数は295,049名(2010年)で、2年前の08年度調査と比して8,350人、2.9%増加し、人口10万人当たりの医師数も結果として増加しています。

2)今後も、医師数の増加、人口当たりの医師数は増加が見込まれます。
総人口の減少(05年を境に減少)に対して、医師数の増加(09年度ごろから医学部定員の増加[07年7625名→12年8991名]。さらに、現在、引退する医師数よりも資格取得する医師数の方が多い状況です。)

3)現員医師数に対して必要求人医師数は1.11倍となっており、構造的に医師不足しています。(ちなみに日本全体の完全失業者率は4.3%[12年8月]です。確かに医師の失業という話はあまり耳にしません。)

4)医師平均年齢は48.6歳で、緩やかに高齢化が進んでいます。
1984年から2010年までの26年間で、医師の平均年齢が48.6歳へ1.5歳上昇しました。

5)医師数が地域偏重しています。
東京、神奈川、千葉、大阪、福岡、長崎、佐賀では、現員医師数で必要求人医師数をほぼ満たしています。他の地域、特に東北、山陰地方などでは深刻な医師不足の状況となっています。

6)大学(医局)の医師派遣機能が低下しています。
大学の医師派遣機能の低下はいろいろなところで話題になり、調査でも報告されていますが、現在、各医療機関の医師採用の方法の最上位は、大学(医局等)へ依頼で28.2%となっており、次いで、インターネットへ掲載24.1%、民間業者(紹介会社)へ依頼19.0%、個人的に依頼11.9%、医師会の医師バンク等へ登録5.0%となっています。
大学の医師派遣機能の更なる低下が指摘される一方で、引き続き大学が一定の医師派遣機能を果たす可能性も一定程度ありえると考えられます。

7)ソフト面として、患者側の医療機関への期待の増加、変化が続きます。(医療の質に加えて、応対品質や接遇などサービスとしての期待がより高まっています。)
医療業界だけでなく、例えば金融業界など様々な業界で高い応対品質を求める消費者の傾向が顕著な状況です。

8)勤務医は、長時間労働をはじめとして厳しい勤務環境におかれています。
勤務医に対する調査では、1週間当たりの全労働時間の平均は53.2時間で、 4割が「60時間以上」。約半数が年休取得日数「3日以下」という厳しい勤務環境となっています。

前項では医師確保における大まかな環境を整理しましたが、今度は、医師を実際に医療機関が採用募集する場合にどの様な点に留意すべきか考えたいと思います。

米国の心理学者マズローが人間の欲求を5段階に分類したのは有名ですが、例えば、会社員として企業で勤務する場合も、医師として医療機関で勤務する場合にも基本的には同様の欲求に基づいていると考えて良いでしょう。

特に第二階層の安全の欲求(報酬を得て良い暮らしをしたい)から第五階層の自己実現の欲求(自らが理想とする医療の実現、プロフェッショナルとしての成長)までをどう満たすか、もしくは満たせる環境をどう整備するかという観点では、一般企業でも、医療機関で勤務する場合にも大きな考え方の差異はないと言えます。

(マズローの5つの欲求階層)
第五階層    自己実現の欲求
第四階層    承認(尊重)の欲求(集団から価値ある存在と認められ、尊重される)
第三階層    所属と愛の欲求(どこかに所属している感覚、他者に受け入れらる)
第二階層    安全の欲求(経済的安定性・良い暮らし)
第一階層    生理的欲求(食事・睡眠・排泄等の本能的な欲求)

言い換えれば、「報酬、業務内容、自己の成長、やりがい、理念」をバランス良く構築し、かつ、その情報を正確に伝えることが重要になります。少ししつこいですが、全ての条件が優れていることが必須ではなく、優れている内容とそうでない内容の峻別が明確であり、かつ、それを的確に伝えられるかどうかがポイントだと考えます。

実際に、私たちがご支援をして、医療機関内のインタビューを経て、クリニックの特徴や仕事のやりがい、働きやすさなどを整理し、”クリニック案内、募集要項”を纏めた結果、
その後の応募や問合せが活発になったり、その後の選考時の方針のブレも少なく、希望する医師を採用出来るケースもあります。(この場合は報酬の見直しは行いませんでした。)

少し拍子抜けしそうですが、医療機関の募集条件に目を通すと十分な検討がされていない様に感じられる募集も実際にはあり、まず最初に取り組みたい内容だと考えます。

話を戻し、、、では、医師採用における特異性はどうでしょうか。
1)はじめの医師採用の環境の整理でも述べた需供バランスが、他の職種とは大きく異なります。一般企業の採用時に見られる離職中で求職しているケースは比較的少なく、勤務をしながら現職との比較で転職を検討するケースが多くなります。結果として、より強く動機付けをする必要があります。
より丁寧な条件設定(バランス設定)が求められ、場合によっては、時間をかけてもいつまでも採用出来ないことが容易におこりえます。また、類似の雇用内容との条件面の比較検討も十分に行うことも必要だと考えられます。

2)医療行為は、医師免許を持つ有資格者のみに認められているということです。他の労働集約型の業界とも類似しますが、良い人材の採用の成否の影響はより大きいと言えます。常勤医の確保が出来ず非常勤医師中心の医療運営や、場合によっては診療自体に影響が出る場合もあります。

3)大学(医局)からの供給調整機能が存在します。2004年新研修医制度導入などにより供給調整機能の低下がしましたが、現在でも多くの医師派遣が行われています。
医局人事を介さない医師採用は全体の需給バランスの数字以上に難易度が高く、慎重かつ丁寧な採用活動が求められます。医局からの医師派遣の活用も前向きに考えて良いと考えます。実際、産婦人科など採用が難しい科目の場合でも医局との良好な関係維持により医師の安定的な確保に繋がっているという声を現実に耳にします。

4)もう1つ、医師の医療従事者としての使命感の存在を忘れてはなりません。前述のマズローは、晩年になって5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表しました。それは、自己超越(「目的の遂行・達成『だけ』を純粋に求める」という領域で、見返りも求めずエゴもなく、自我を忘れてただ目的のみに没頭するという領域)というものです。
この”自己超越”は医師の持つ使命感に相当近い領域の様に感じています。勿論、会社員にもこの”自己超越”の階層を持って仕事に取り組んでいる場合もあると思いますが、医師など医療専門職の方がよりこの傾向が顕著であると考えています。よって、この使命感をより満たす環境整備を医療機関には求められています。
(勿論、どの医療機関でも、社会的意義、社会貢献は存在理由として備えられていますが、そのこだわり度合い、真剣度合いの深さとその伝え方に違いがある様に考えます。)

上記を踏まえて、繰り返しになりますが、一般の職業としての共通性と、医師としての特異性に配慮した上での採用活動が、より良い医師確保を実現すると考えます。

最後に医師採用のちょっとした秘訣をお伝えします。
・可能な限り入職希望日までの時間的余裕を持って、早めに採用活動に取り掛かる。
・大学(医局)、紹介会社、求人広告など、採用活動の範囲を固定化せず、可能なかぎり広くする。
・医師がおかれている全体の現状を把握した上で、自らの医療機関の特徴を定義し、それを的確に伝える。
・仮説と検証のサイクルをまわし、場合によっては活動手法や募集内容を見直す。

今回、残念ながらより具体的な採用業務についてはお伝え出来ませんでした。同内容については、また別の機会にお伝えさせていただければと考えています。

現在、病院・クリニックコンサルティングチームでは医師採用支援を行なっておりますので、ご不明な内容やご相談がございましたらいつでもお気軽にご連絡下さい。

(参考)
厚生労働省:病院等における必要医師数実態調査
厚生労働省:医師・歯科医師・薬剤師調査
労働政策研究・研修機構:勤務医の就労実態と意識に関する調査