第19回 「入職ガイダンス」作成のススメ

2012.02.16

コンサルタント 村上 典由

 

病院やクリニックで起こる多くの問題の源泉といっても過言ではない「人」の問題についての1つの取り組みをご紹介したいと思います。

私がお手伝いしているクリニックでは医師が常勤と非常勤を合わせて50人以上在籍しています。もちろん、先生11人の仕事の仕方は異なるので、知らないうちにそれぞれの医師に合わせて仕事のルールができてしまって、クリニックのオペレーションを統一して効率化する際の障害にもなっていました。また、あるタイミングで決めたルールが、組織全体に行き渡らなかったり、間違った内容で伝わったりといった問題も頻発していました。

そこで、ある時に院長を中心とした管理職のメンバーで作ったのが「入職ガイダンス」です。これは合計10ページ程度の冊子で私達のクリニックでの働き方をまとめたものです。色々と工夫したこともあって、導入してから想像以上に仕事の仕方に統一感が出てくると共に、問題が起きる頻度も減ったように思います。今回はこの入職ガイダンスの内容についてご紹介しようと思います。

 

1.     理念

 冊子の最初に、まずクリニックの理念を載せています。実は当院でも理念はあったのですが、いくつかのバージョンがあったのでこのタイミングで1つのものに作り直しました。理念というものは、ホームページか壁の額にかかっているものを見る程度ですが、ここに載せることで多少は目にする機会は増えるでしょう。といっても、これだけでは組織に浸透するような期待はできませんが、入職時にこのガイダンスを使って説明する担当者は、自分の口でクリニックの理念の説明することになりますので、多少の意識の変化があるかもしれません。

 

2.     入職時の手続き

 理念の次に、入職時の手続きの内容と必要な提出物の一覧を載せました。あえてこれを載せたのは、煩雑な入職時の手続きをサポートするツールにしておくことで、担当者が入職時に必ず使用し、入職ガイダンスが必ず入職者の手に渡るようにするためです。

 

3.     1日の仕事

 次は1日の仕事のスケジュールの基本形が書かれています。出勤してから退社するまでの大雑把な流れと時間配分を表にしたようなものです。些細なことですが、朝にタイムカードの打刻が必要であればそれも書きます。また、患者数や診療件数の目安があればそれも書いておきます。毎日確認してもらうべき書類があるのであれば、1日の終わりに書類チェックの時間も明記しておきます。残業がどの程度発生するか、なども書いておくと良いかもしれません。

特に基本的な仕事の量やそれをこなすスピード感について、入職時点で認識を統一しておくことは非常に重要です。一般的には仕事に慣れるまでは、どうしても仕事量が少なくなりがちですが、その少ない水準に慣れてもらっても困ります。最終的なゴールイメージを合わせておければいつでも修正可能ですので、入職の時点で書面によって確認することには大きな意味があると考えています。

 

4.     カルテ記載の注意

こちらにはカルテを記載する上で注意してもらいたいことをまとめています。私たちのクリニックは在宅訪問診療を行なっているのですが、月の初めの診療の際に算定する管理料や、2回目の訪問診療か往診の際に算定するものなど多くの種類があります。また、それぞれの管理料でカルテに記録しておくべきコメントの内容も異なってくるので、それらをまとめた資料を載せています。

そもそも医師がカルテに必要なコメントなどを記載漏れしてしまうのは、ルールを知らないことも一因になります。これらの知識をガイダンスに載せたことで、想像以上に興味を持って見てもらっているという印象があります。

 

5.     制度について

 クリニックには教育補助の一つとして、外部の研修への出席の際に参加費や交通費の一部を補助する制度があります。制度ができたタイミングでは、クリニックの全員に告知することもありますが、古くからある制度であれば普段はなかなか制度を紹介する機会がなかったり、その都度口頭で言っても覚えてもらえなかったりしますが、ガイダンスに書いておけば入職の際に説明忘れなどを防ぐことができます。

 

 いくつかの項目を説明しましたが、この他に1年間の仕事の内容や、評価や給与についてのルールや、患者さんに対しての心得のようなものを載せるのもよいでしょう。項目を選定する基準は、①重要ではないが必ず伝えておくべきことと、②重要なことで特に頭に入れてもらいたいこと、の2つのポイントで考えてみてください。①は記載しておくだけでも構いませんが、②については記載すると共に、書面で確認しながら口頭でしっかりと伝えることが重要になってきます。

 

 組織では、その時々で発生する問題を解決し、再発防止のために何らかのルールをつくることがよくあります。その作ったルールは、口伝えで少しずつ変形したり、組織の慣習になったり、あるいは忘れられたりします。もちろん、問題が発生した時に、みんなでその解決策を考えて実行するという過程は重要ですが、今取り組んでいる仕事のレベルを、1年後に一回り上のレベルで仕事をしているためには、今決めたルールを明文化して継承していくことは有効な場合が多いです。

 また、組織を動かそうとする場合、それが今の仕事に新しい負荷として加わるのであれば、なかなか協力は得られにくいですが、今の仕事が楽になる方向であれば、組織の賛同は得やすいものです。この入職ガイダンスという仕組みはとても単純なものですが、いま働いているスタッフが働きやすくなったり、管理職が一つひとつ口頭で注意する回数が減ったりと、多くの人を楽にするという意味合いが強いので、比較的にみんなの協力を取り付けやすい取り組みです。みなさんもその組織ならではの入職ガイダンスを作成してみてください。