メディヴァコンサルブログ

社会インフラ機能としての精神科病院

2009.05.13

 ここ2年ほど、精神科病院の経営再生に深く関わっています。精神科病院と聞くと、近寄りがたかったり犯罪者やその予備軍がいるのではないかとか、精神病が移るのではないかという誤解や偏見があると思いますが、その実際はかなり異なり、あくまで病院の1種類というのが正直な感想です。また、新鮮な目で精神科病院の経営を見ていると、その社会的な意義とともに特徴的な経営の実態がわかり、より再生を実現する思いが強くなってきています。
 まず精神科に入院する患者さんですが、統合失調症という疾患の方が主で、それに躁鬱病や人格障害などが続きます。更に最近では、認知症の精神科症状も重要な対象となっており、そのいずれもが通常の社会生活において何らかのコミュニケーションの障害などをもっていらっしゃいます。しかし、これらは基本的には病気の一つです。完治するのはなかなか難しいようですが、それでも入院時には奇声をあげていたり動きが不穏だった方が、安心を与える看護や病室、適正な薬、またカウンセリングとしての精神科療法などを通じて、普通の人と変わりないレベルに落ち着かれます。これは、怪我や急性の疾患などで、救急病院に運ばれた方が、身体の異常を訴えるところから始めて、手術や処置、投薬などで疾患を治療し、看護によって気持ちを落ち着け疾患に立ち向かっていくことと、何ら変わりがないと感じています。
 また、医師・看護師などのスタッフで通常の病院と異なる点があります。特に異なるのは、医師について、専門の知識や資格(指定医)が必要なのは当然のこととして、身体拘束という一人の人間の自由を奪うことのできる判断を下せる立場にあることです。そのため、医学的な知識と別に、人権に対するしっかりとした倫理観や考えを持つことが要求されます。また精神科患者さんは、身体的に健康な方も多いため、通常の病院以上に男性の看護師が活躍する場面も多いです。不穏な行動や急性期における発作などを一時的に抑えるなどでは、どうしても男性看護師の力が必要になるので、かなり病棟の雰囲気を変えています。
 また精神科における経営のポイントですが、基本的な考え方は、外来患者を集め入院患者を集め、入院患者は早期に症状を落ち着かせて退院いただくという意味では、通常の医療機関の経営と変わりがありません。しかしながら、入院患者の多くは、社会的生活に困難をきたしていることが多く、入院・入院中・退院のいずれにおいても、家族との綿密なコミュニケーションや、社会的資源(行政、生活保護、各種施設、NPO)の活用が非常に重要な業務となります。また、中にはご家族と疎遠になってしまっている方も多いために、治療方針や退院のタイミングなどを相談できる後見人や行政機関の存在が重要な位置付けとなります。
そのため、一般病院以上に幅広い連携の取り組みが重要になります。その一方で、精神科病院はひとくくりにできるものでもなく、それぞれの機能(急性期、うつや不眠症などのストレス疾患、認知症、統合失調症の合併症、薬物・アルコール)に分けることができます。急性期なら救命措置と薬物やアルコールへの対応ができる設備や、不穏な方を落ち着かせるための隔離室の整備、うつや不眠症ならば圧迫感がなく普段通りの生活ができる開放的な病棟など、機能に応じた施設や人材配置が必要となります。
 こうした中、我々が2年前から再生に取り組んでいる病院では、その当初、数多くの問題がありました。噂に振り回されて医師の適切な判断を待たずにケアに取り組んでしまう看護師や、患者さんの不穏な行動(病院から無断で外に出てしまう。暴れる。奇声を発する。等)に対して組織的に対応できず、一部のスタッフだけが対応して疲弊していく状況などです。更に、常勤医師の確保がままならず、非常勤医師が中心となって精神療法をするために、継続的な管理やいざというときの対応に問題が起きたりしていました。また、経営的にも過去の悪い評判などから周辺の医療機関からの信頼を大きくそこなっていたため、患者さんの紹介を受けられないなど、円滑な連携を実行できていませんでした。
 再生の実施にあたっては、まずはスタッフのヒアリングからスタートし、スタッフの職場に対する信頼感を取り戻すために、就業規則の改定・会議などのルールの設定に取り組みました。最初は、話し合いさえできなかった経営陣とスタッフでしたが、一つ一つ最低限のルールを決め、またこの病院を永続的に発展するために就業規則などのルールが必要だという説明を繰り返すことで、徐々に一体感が出てきました。また、病院としての現状と将来を共有化するために、経営上の数値を公開し、将来の病院のあるべき方向性を明示するとともに、それぞれの部署が果たすべき役割と方向性を数値目標も交えながら議論していきました。その結果、病院が倒産するかもしれないという不安や疑心にとらわれて別々の方向を見ていたスタッフが、少しずつではありますが、経営再生という目標を共有化し、それぞれがやるべきことをやるという流れができてきているように感じています。
 今、この病院では、スタッフの確保も少しずつ進み、経営上も単月での黒字を達成するなど安定的な成長を迎えつつあります。まだまだ改善すべき課題は多々ありますが、実際の再生にあたっては、他の組織となんら変わることなく、コミュニケーションと情報の共有化を重視し、目標を設定することで、良い方向づけができるのだと感じています。