第1回  「自費診療における価格設定をどのように考えるか」 

2008.09.29

『自費診療における価格設定をどのように考えるか』
                                                                             コンサルタント 長田

ここのところ、保険診療の枠内におさまらない診療を実践したいという先生から、自費診療を取り入れたいというお話をよく耳にする。
美容系から婦人科、歯科、健診…と意外とその範囲は広い。
自費診療を行う場合、かならず直面することになるのが診療行為の価格設定の問題である。
特に個人で経営する場合、この設定や管理は意外と手間のかかるもので、無難に周囲の医療機関の相場どおりの設定をしがちだろうと想像する。しかし、利益を最大化するほどの厳密な最適価格は得られないまでも、可能な範囲で適正な ―少なくとも納得できるような― 価格設定がしたいものだ。

実際、多様な業種の経営者を対象者としたある調査では、マーケティング上の課題として、価格が筆頭に挙げられていた。それだけ価格設定が経営環境に及ぼす影響が大きいということを経営者たちが経験的に(あるいは知識として)捉えているということである。医療の現場で価格変更による経営に及ぼすインパクトの大きさを測定したことはないが、自費診療の収入割合が高い場合には、恐らく相当の重要性があるだろうと推察する。
それでは医療機関における価格設定はどのように考えるべきだろうか。
これは一般の消費財などと同様に、原則的には3つの視点があると言える。つまりコスト、競合の価格設定、患者の感じる価値の3つの視点である。
まず、コストだが、これは価格の最低ラインを決める基準となる。
ある医療行為をおこなうときにどれだけのコストがかかっているかを把握するのである。当然のことながら平均的にトータルコスト(固定費+変動費)を下回る価格設定を行えば、赤字に陥る。したがって、このコストにいくらかの利益を上乗せし、価格を設定することになる。しかし、複数の医療行為(≒商品・サービスメニュー)があるにも関わらず、メリハリなく利益を上乗せした価格を設定するのも望ましいとは言えない。特に、価格によって需要が大きく変わる価格弾力性が高いもの(おそらく美容皮膚科など)については、一時的に来院数の落ち込むシーズンや曜日に、定価より安い設定(ただし一単位あたりの変動費は上回る価格)を行うことが有効な場合も多いと思われる。
一方で価格によって需要が変動しにくい性質のもの(歯科治療など)は、下手に低い価格を設定すると治療技術への不安につながる恐れがある。そのようなときにはコストはあくまで最低ラインとしてと
らえ、2点目に挙げた競合価格の設定なども参考とする。価格設定を検討するときには、すくなくとも、想定される競合医療機関の主要な医療行為(商品・サービス)については列挙して比較してみた
ほうが良いと考えている。それぞれの医療機関の特徴とあわせて整理することで、ポジショニングが見えてくる場合があるからだ。そのなかで、自院をどこに位置づけていくかを決め、価格設定の参考
とする。
そして、本来上述の2点と同様に重視すべきでありながら、なかなか把握できないのが3点目の患者の感じる価値である。これは端的に言えば、ある医療行為に対していくらであれば支払う価値があると感じるか、という患者側の情報である。特に個人の医療機関ではまとまった数の患者に対して調査をかけられることは稀であるから把握が難しい。あり得るとすれば、ある期間を限定して価格を設定し、若干条件をずらしてその反応の違いを観測するといった手法などがあるだろう。

以上、簡単に価格設定の視点について述べたが、これらを統合的に捉えていくことは、正直なところ容易ではない。ましてや、この前提として治療技術やサービス(≒商品)の向上や広告等のマーケティングなどにも努めなくてはならない…。そうしたことを考えるたびに、院長という職の荷の重さ(楽しさ?)を想像せずにいられなくなるのである。